24.撒き散らされて怨嗟
アズマは身体強化をかけた腕でバールを振り抜く。
バールの先端が顔に刺さったゾンビは顔が凹み、くの字に半ばまで食い込み、そして破裂する風船の様に頭が爆ぜた。
「うげぇ! 中身飛んできた」
バールを振り回した張本人は返り血と脳髄でべちゃべちゃになる。
「おえぇ。だから近接戦はしたく無かったんだ……」
「その調子で頑張りなさーい!」
フィーは返り血の浴びない高さに飛んで優雅に眺めていた、こいつ……。
やはり近付いてゾンビを倒すものじゃないと後悔するが、避難民ごと魔法で切り刻むわけには行かなかったので文句を言うだけにすます。
1人その場に残ったアズマは、避難民が逃れるように、追いかけようとするゾンビの相手をしていた。
べちゃべちゃにはなったが、おかげで避難民達は逃げ切ったようで残るはゾンビだけとなっていた。
「これだけ減れば魔法を使っても平気かな?」
辺りを見回す。
ゾンビだけにはなったが、そのゾンビ達に完全に囲まれていた。
八方塞がりである。
「あれ、気付けば結構まじぃやつ?」
ちまちま倒してたのではおしくらまんじゅうで潰されて終わりそうだ。
落雷を落とすにはゾンビ達の距離が近過ぎる。
俺はまとてめ倒すための別の手を考える。
普段は手そのものに纏っている風の刃を手に持っているバールに纏わせた。
そして量の手でバールを握り、風の刃を纏ったそれをフルスイングする。
風の刃は腕を振って飛ばすよりも大きく、横一線に飛びゾンビ達を数匹巻き込んでその胴と下半身を切り離していく。
「これなら行けそう!」
まとめ狩りに有効な手段を見つけた。
そのままスイングを繰り返して周りにいるゾンビ達を次々と切り刻んでいく。
取り囲んでいたゾンビ達は胴を分かたれその場に崩れていった。
「どうだ! やったか!?」
倒したゾンビに目を向ける。
下半身を切り離されたゾンビ達であったが、上半身は未だに動いていた。
濁った目は相変わらず此方を凝視しており、腕を使って身体を起こすと、上半身だけでこちらに向かってきた。
「のわああああ! 気持ち悪りぃ!」
頭を潰さなければ上半身だけになっても動ける様だ。
今度はちゃんと頭を潰そうともう一度バールをスイングする。
しかしゾンビ達の視点が低くなった事で頭だけを狙おうとしても風の刃が当たり辛くなっていた。
何匹か動かなく出来ても、その死体を乗り越えて上半身ゾンビが迫って来る。
夜のせいか上半身だけでも大変機敏だ。
「来てる来てる来てる!」
近付くゾンビを思わずバールでかちあげる。
ゴルフスイングの様に振り回したバールは、ゾンビの頭に食い込み天高く吹き飛ばした。
「とりあえず抜け出す!」
俺はゴルフスイングしながら集団を抜けて行った。
囲いを抜けてゾンビを背にした状態になるとフィーに声をかける。
「フィー! あれどうにか出来ないか!? イギリスの妖精みたいに粉かけて浮かすとか!」
一応パートナーの妖精にも何かできないか聞いてみる。
「粉? 何言ってるか分からないけどあの大きさなら浮かすだけなら出来ると思うわよ」
出来るらしい。
浮いてるイメージてのが俺にはできないが普段から飛んでるフィーには行けるようだ。
上半身だけになって軽くもなってるしな。
「それそれ! それやってくれ! 浮かせて動かなく出来ればいいから!」
フィーが上半身ゾンビ達の上を光りながら飛び回ると、ゾンビは、次々と浮いていく。
宙に浮いたゾンビは前に進めず腕をバタつかせている。
俺は浮いてったゾンビを片っ端から処理して回った。
目に見える範囲にいるゾンビは全て片付ける事ができた。
他にゾンビのいる気配はしない。
「店内のゾンビは倒せたか?」
「そうね、他にはいなさそうかしら」
2人で確認しあう。
安全が確保出来ているならば、ツバサさん達を迎えに行っても大丈夫かね?
ただ安全とは言ったが周りの惨状を見直す。
辺りは死体だらけだがどうしよう。避難民の人達これみて卒倒しないかな。
他の人の心配をしながら死体を見ている自分に気付き、ゾンビに慣れてきてしまっている事に頭を抱えていると、コツコツと足音がした。
「まだいたか?」
警戒して音の先へと向かう。
棚の影から様子を伺うと、そこには荒井が焼け爛れた死体を左手に抱えて歩いていた。
あのおっさん、1人で何してるんだ?
「臭うわね」
「ああ、何やらきな臭い」
「そうじゃなくて臭いって言ってるの!」
「ん?」
フィーの言葉に荒居をよく見ると死体とは反対の手に赤いポリタンクを抱えていた。
そのポリタンクからは何かを垂らしながら歩いている。
「この臭い……灯油?」
荒居は中身を撒き終わったのか持っていたポリタンクを放るとポケットから何かを手に取る。
「あれは……まさかおっさん! おい待て!」
飛び出した時にはもう遅かった。
荒居の手に持たれていたのはライターと紙屑だった。
火を紙屑に付けると、荒居はそれを灯油へと投げ込む。
燃える紙屑は灯油を気化させ、瞬く間に炎が広がっていった。
駆け寄った俺は荒居を張り倒し、座り込んだ荒居の胸ぐらをを掴む。
俺の姿を見た荒居は空虚な眼差しを向けてきた。
「なんやあんちゃんか」
「あんた火なんか付けて何してんだ!」
そう聞くと荒居は吐き捨てる様に応えた。
「娘がここにいる奴らに燃やされた、だからあいつらも燃やしたる」
新居の言葉を聞き、隣に倒れている焼死体を見る。
その死体は小さく、まだ子供であろう大きさだった。
「ゾンビだったんだろ!? そんなもん隠してたあんたが悪いじゃねえか!」
荒居の子供がゾンビだった事はミズキさんから聞いていた。
大方遭遇した娘ゾンビに誰かが抵抗して火を付けたのだろう。
「なんなんや皆して! 娘は一度も噛まれる事なく私が抱いて連れて来たんや! ゾンビになる事なんかあるかい!」
荒居から返って来る言葉は変わらず、同じ文句の押し問答だった。
「拉致が開かない。ツバサさん達の所に行くぞフィー!」
今はこの終わってるおっさんの相手をしている場合ではないと思い、俺は荒居を放って駆け出した。
「はは、皆燃えればいいんや! 娘の苦しみを味わえ!」
荒居の笑い声が燃え盛る店内に静かにこだまする。




