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14.鎮座して番犬

 ホームセンターを出発した調達班は、付近のコンビニやドラッグストアなど、食糧や医薬品の置いてある店を回る事になった。

 各々が乗り込んだ車が列を成し店を巡っていく。


「どないなっとるねん! どこの店行っても空っぽやないか!」


 しかし行く先々で既に食糧品の奪われた店が続き、荒居は声を上げていた。


「既に先を越されてたと言う事ですかね? この辺でこれだけの規模の食糧を手に入れて、篭城出来るような施設など無いはずですが……」


 ホームセンターの探索中に荒居と一緒に居た2人組の片割れが喋り出す。


「晴田さん、何処に隠れてるかってのもそうっすけど、これだけの荷物をどうやって一晩で全部持ってったってのが謎っすよ」


 こちらも荒居と一緒に居た男だ。

 荒居と合わせてこの3人がホームセンターの仕切り役になっていた。


「三谷くんの言う通りや。こないな荷物量どうやったら持ってけるねん」


 そんなの空間収納に決まっている。


 彼らが探している食糧達だが、実の所ホームセンターへ向かう前に俺が周辺の店から根こそぎ貰ってきていた。

 医薬品の類も補充しておきたかったし、どうせ此方まで来るならと、片っ端から火事場泥棒を働いていたのだ。

 最近のドラッグストアって、プロテインなんかも置いてるんだな。


 そんな訳で荒居達の目論見は大外れ。

 ただただ身の危険を晒しに出てきただけになっていた。


「どうしますか荒居さん? 無闇にここに居るのは危険ですし、一度ホームセンターまで戻った方がいいんじゃ」


 収穫は出来ないと感じている晴田は施設へと戻りたがっていた。

 しかし荒居はそんな晴田を睨んで叱咤する。


 「そないな事できるかいな! 3日も経てば結局食糧は尽きてまた出て来るはめになる。何も食べ物があるのはコンビニだけやないんや。周りを見てみい」


 言われて皆は視線を回す。

 俺も一緒になって顔を周りへと向ける。

 周りと言うと……家?


「一般家庭にだって備蓄食糧はあるはずやろ? 手分けして掻き集めればそれなりの量になるはずさかい。こないな時や、生きるためにもろうてきましょ」


 荒居はなんの躊躇いもなくガラスを割って民家の中へと侵入していった。

 それ、中に人がいたらどうするつもりなんだ……。


「あなた達も行きますよ! それぞれ2人組を作って家奥を探索して来てください!」


 え……手分けってペア組まされるのかよ。いつ抜け出そう。

 悩んでいるとホームセンターで荒居に抗議していた男性が声を掛けてきた。


「ねえ君、僕と組まないかい? 僕は櫻井ツバサだ。ツバサって呼んでくれていいぞ」


 男性はペア分けに僕を誘いながら自己紹介をしてくれた。

 相手が歳上の場合って本当に名前で呼んでいいのかちゃんと苗字で読んだ方がいいのか迷うんだよな。


「君は何ていうんだい?」


「伊吹アズマです。僕もアズマでいいです。えっと……ツバサさん何でわざわざ僕と?」


「若い子が放っとかれたら心配、ていうのは建前で、他の人達よりアズマくんの方が歳が近くて話しやすそうだったってだけなんだけどね。これでも僕、まだ24だから」


 たしかにその年齢だと、周りにいる歳上よりも俺の方が近いかもしれない。

 俺も20も離れた人と組まされるよりはいくらか気が楽ではある。

 けれど、ホームセンターでの振る舞いを見るに、放っておけないと言うのも本音な気がする。


「ホームセンターでも荒居さんの前に出ていましたけど、正義感強い人なんですね」


 言葉にしてふとミスったかと思った。

 これ皮肉っぽく聞こえてないか?


「はは、別に正義感が強い分けじゃないよ。人が理不尽な目にあうのが嫌なだけ、ただの自己満足だよ」


 ツバサさんは言葉遣いにはスルーして答えてくれた。

 あの店の店員さんはみんな良い人だな。


「他の人達はもう出てるみたいだし、僕らも行こうか。窓を壊してまで人の家に侵入するのは気が引けるけど、食糧を手に入れなきゃいけないのは事実だから」


「そうですね」


 俺はツバサさんに連れられて、まだ他の調達班が入っていない民家を探し始めた。


「この辺までは他の人達は来ていないみたいだね、2.3件回ってみようか」


「そうですね」


 周りに他の調達班がいない事を確認して、家の敷居を跨ごうとする。


「ワン!」


 しかしその家には、1匹の門番がいた。


「ん? 犬?」


 その家の玄関前には犬小屋があり、黒い柴犬が鎮座していた。

 さらにその犬の小屋には、小さな黒豆柴達が寝ている。親子だろうか?

 ツバサさんはしゃがんで黒柴犬と同じ目線になると、首筋へと手を伸ばした。


「なんだお前ー。この家守ってるのかー?偉いなー」


「ワン!」


 ツバサさんは慣れた手つきでわしゃわしゃと犬を撫でている。

 犬の方も満更ではないと言った様子でワンワンしていた。


「犬、慣れてるんですね」


「うちの実家にも沢山いてね、根っからの犬派なんだ」


 なるほど。


「アズマくんも撫でてみたらどうたい? 目線の上から撫でようとすると怖がるから下から手を出すと良いよ」


 ツバサさんに教えられる俺も一緒になって頭を撫でモフモフを楽しむ。

 よく見るとこの犬、胸元の白模様が変わってるな。

 疎らに歪んで炎が揺らめいているように見える。


「これだけしっかり番犬が守っていたんじゃこの家には入れないな」


 たしかに、こんな状況でも家を守っている犬を尻目に荒らすのは気が引ける。


「そうですね」


 さっきから返事がイエスマンになってるな。


「ここは置いておいて、隣の家に行こうか」


 ツバサさんに従い後をついて行く。

 番犬の守る家には触れる事無く、俺達は隣の家へと移動して物色を始めた。

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