そして、彼女もまたこじらせる
今日は、ジャズバーに来ていた。
大人びた格好をしてカウンター席に座すジル。
カキは家でゲーム、タナカは国家資格の勉強で一緒ではない。
アッキはというと、このジャズバーでドラムを叩いている。
ジルは、彼を見にここに訪れていた。
「モヒートを1つ」
マスターは「かしこまりました」とだけ言い、コップを拭く手を止めた。
それにしても楽しそうだなアイツ。
彼女なんて本当は要らないんじゃないか? というかドラムが彼女なのか?
1曲が終わると、ボーカルの女性が出てきた。
カレン師匠!
なんて豊満なおっぱいだ! け、けしからん!
ジルは、カレン師匠の谷間を直視する。
「あ、あのぁ」と女性の声。
「ちょっと今忙しい」ジルはカレン師匠に夢中だ。
「ジルさん」と今度は男に肩を叩かれた。
振り向くと、そこにはゼクスとシーラの姿があった。
「こんばんは」手を上げるゼクス。
「こ、こんばんわ」頭を下げるシーラ。
「おう、どうした?」
「先日の件ですが……」
「ああ」
ジルは隣に座るよう2人を促した。
ゼクスとシーラはジルを挟むようにカウンター席に座った。
「モヒートでございます」とマスター。
「ありがとうございます」
「モヒートって何ですか?」
シーラは、ミントの飾られた飲み物を覗き込んだ。
「あ、すみません。お酒全然詳しくなくて……」
シーラは両手を前に広げながら言葉を付け加えた。
「飲んでみる?」とジル。
シーラはジルに手渡されたモヒートを味見した。
「飲みやすい! 美味しいです!」
「マスター、彼女にも同じものを」
「そんな、悪いです」
「いいよ。ゼクスは何呑みたい?」
「僕は未成年なので」
「マスター、彼にはフルーツティーをお願いします」
「かしこまりました」
「ありがとうございます」とゼクス。
「いいよ」
「それで、先日の件なのですが、メアリ、カリーナ、ザラはパーティーから脱退させました。それで、メンバー補充の話で、是非ジルさんのパーティーに加わりたいなと」
「魅力的な話だね」
「じゃあ!」
「嫌だ」
にっこりと笑うジル。
「何でですか⁉」
「だって目立つじゃん。君といると」
「ええぇ」
「それに、脱退した3人が良く思わない。俺達より強い人材は沢山いるし、君はもっと先に進むべきだ。はよ魔王倒せよ」
「それは、そう…です…けど……」
「モヒートと————————フルーツティーでございます」
「「ありがとうございます」」
暫く黙り込んだゼクスが決意したように「分かりました」と諦めた。
「じゃあ、ギルドに相談してベテランの方々に頼ろうと思います」
「うん。がんばって」
「はい。では僕は師匠に挨拶したいのでこれで失礼します」
え、この女は? 置いてくの? 困るんですけど!
ゼクスは席を立って颯爽と去った。
ど、どうしよう。何話せばいいの⁉
「あの、ビッグオークの時といい、メンバー脱退の件といい、ありがとうございました」
「ああ、俺が一番早く駆け付けただけだから気にしないで。メンバーの脱退手続きお疲れ」
「あの時、助けて頂いてなかったら確実に死んでいました。な、何かお礼がしたいんですけど……」
「いいよ。メンバー集めでこれから忙しくなるだろうし、気持ちだけで大丈夫。ありがとう」
「それじゃ私の気が済まないんです」
ええー。怠いぞこれは。
「じゃ、じゃあ一杯奢って貰おうかなぁ」
「わ、わかりましたっ! マスター! 一番高いお酒を!」
え!? 君それいくらかわかってる!?
「よろしいのですか?」とマスター。
マスターはジルに聞いていた。
ダメダメマスター! 絶対ダメ!
マスターはジルににっこりと微笑んで「かしこまりました」と一言添えた。
頼んだよ! マスター!
危うく良心が粉々に砕けるところだった。
「やっぱり、ジルさんって凄く優しい方なんですね」
「え? 普通だと思うけど?」
「いいえ。凄く優しいです。なんかお父さんみたいな寛大な感じの」
あからさまに恋愛対象じゃないですアピールするじゃん! まあいいけど。
「そ、そう? というかやっぱりって何? 誰かからそう聞いたの?」
「私の師匠のご友人です。あの人です」
シーラはボーカルの女性を指差した。
「俺の師匠かーい」
「そうだったんですね!」
「なるほど、道理でゼクスが誰でもなく俺に頼んだわけだ。何も聞かされてなんだが」
「ジルさんなら察して何とかしてくれるって言ってました」
「なるほどねぇ。まぁいいけどさ」
あ、今目が合った。
カレン師匠がジルにウィンクしてくる。
「あのジルさん聞いてます?」
「うん?」
「私、あの3人にいじめられてたんです。だから、ジルさんは命の恩人だけではなく心の恩人でもあってぇ」
酔いすぎじゃね? まだ一杯しか飲んでないよね?
シーラはジルに寄りかかる。
参ったなぁ。貧乳はタイプじゃない……。




