96話 竜爪剣
翌朝、アラヤ達はゴードンさんの武器屋に訪れていた。頼んでいた武器の修理が、今日には出来上がっているはずだ。
「…らっしゃい。おう、来たか。早いな」
「はい、ちょっと待ちきれなくて。それで、どうですか?」
「おう、バッチリ出来上がってるぞ」
ゴードンはカウンターの下から布に巻かれた物を取り出して置いた。
アラヤは早速、布地を巡って中身を見てみる。
「わぁ、凄い!あんな真っ二つだったのに、すっかり元通りですね!」
「おう、繋ぎに良い炭素鋼が手に入ってよ。そいつで何度も焼きを入れたからな!」
この時、アラヤは嘘をついた。これは元通りでは無い。元通り以上の出来なのだ。
何故ならば、鑑定には以前の【業物】ではなく【大業物】と出ていたからだ。
「ゴードンさんに頼んで正解だったよ」
早速、ショートソードを受け取ろうとすると、その腕をゴードンに掴まれた。
「ちょっと待て」
「はい?」
「お前さん、コイツに名前を付けてるか?」
「いえ、付けてませんけど…」
「それならよ、竜爪剣ってのはどうだ?コイツには竜の爪が素材として入ってるからよ。俺は気に入った武器には名前を付けたい派なんだ」
いや、製作者なんだから、そこは勝手につければ良いんじゃない?しかも、名前も素材がそのまんまだし。
「竜爪剣ですか、分かりました」
まぁ、滅多に呼ぶ事も無いし、それで構わないけどね。
すると、鑑定の剣のステータスに名前が表示された。
そっか、他人が剣を鑑定した場合に名前も表示されるんだな。今更ながらに、もうちょっと良い名前を考えるべきだったかもと思う。
「ああ、それとな。頼まれてた例の武器も仕上がったぞ!」
また別の布に包まれた物を、カウンターの上に置き布地を巡った。
それは正に注文通りの武器、サナエさん専用の新型チャクラム×2だ。
「作るのに苦労したぜ。外周の刀身には魔力を通すミスリルで、グリップがある内周には魔法ダメージに超耐久のアダマンタイト。この2つを繋げろってんだからよ。まぁ、俺に掛かれば可能なんだがな!ガハハ!」
「ええ、流石ですよ!」
「しかし、アダマンタイトを使ったから、重量は5kgくらいになったぞ?使うのはそこの彼女だろう、大丈夫か?」
「大丈夫です。その為に、小さな穴を開ける設計に頼んだんですから」
「おう、この3つの穴か。何かと思っていたんだよな」
実はグリップ部分に、直径1センチの穴が3つ空いていて、ミスリルの刀身部分と繋がっているのだ。
「この穴に、お手製の魔鉱石を嵌め込むんです。例えば、フレイムとグラビティの2つを嵌め込んで、魔力を通します」
昨日、この穴に合わせた球状の魔鉱石を穴にしっかりと嵌め込んだ。
アラヤが魔力を流すと、重さはゼロとなりミスリルの刀身部分には炎が薄っすらと纏われる。
「おおっ!」
「つまり、魔法剣ならぬ、魔法チャクラムって感じですね」
アラヤは一度魔力を解いて、ゴードンに試させる。ゴードンは受け取って試してみると、ブンブンと勢いよく振り回している。
「ガハハ‼︎凄いな!小枝くらいの軽さじゃないか!」
アラヤはチャクラムを返してもらい、サナエさんに魔鉱石が沢山入ったポシェットと渡した。
「ありがとう、アラヤ」
彼女は満面の笑顔で喜んでくれた。それだけで作った甲斐があったね。
「しかし、他の奴には売れない武器だなぁ。他の客には先ず、その魔鉱石とやらが手に入らんし。お前さんは余程の金持ちなんだな」
魔鉱石は魔石と同じではあるが、純度が違う。魔石は純度が高く、高火力が出せる。その分、高価な上に加工には向かない。
一方、魔鉱石は純度にはムラがあるが、加工ができるので形を変える事ができる。何より、魔法で作れるので魔石に比べると割と安いのだ。
純度にムラができるのは、術者の集中力と魔力量で変わるからで、アラヤやカオリが作った魔鉱石は純度は高い物が多い。
「お客さん、まだ帰らないで!私の方も完成してるから!」
奥の部屋からレミーラが慌てて走って来た。心配しなくても、まだ支払いしてないから帰らないよ。
レミーラも小さな布の包みをカウンターの上で広げる。
「ペン先の丸い部分や、芯の部分に手こずりましたけど、上手くできました」
「わぁ、万年筆も作ったんだね⁈」
そこには、頼んだペン先が10枚程あり、その横に三本の万年筆が並んでいた。
「借りてた万年筆を真似て作ったんです。本体部分は素材は違うんですけど、首軸は木製、胴軸は竹製でできてます。見本のインクを溜めてる素材が分からなかったので、胴軸部を丸ごとインク入れにしました」
「なるほど、インクが切れたら胴軸部を取り替えれば良いんだね!」
プラスチックのカートリッジを、竹で代用するとは良く考えたものだ。これならば安価で製作できるだろう。
「アヤコさん、カオリさん、試し書きしてみて?」
2人は前に来て、カウンターで紙に試し書きしてみる。握った感じは、まだ改良の余地があるようだが、描きやすさは及第点以上だそうだ。
「バルグ商会から、ひょっとしたら依頼が来るようになるかもしれないから、その時はよろしく頼むよ」
「ええっ⁈商品化するんですか⁈」
「俺はこう見えて、バルグ商会の商品開発担当でね。ガルムさんとは仲が良いんだよ」
「それは凄いですね!あ、でも…」
レミーラは、横目でチラチラとゴードンを見ている。娘なりに、父親と伯父の関係を考えてしまうようだ。
「好きにしたらいいさ。兄貴が欲しいと言うなら、それはもう、立派な商品だからな」
ゴードンがそう言うと、レミーラは嬉しくて彼に抱きついた。流石の頑固親父も、照れて慌てている。
「ば、ば、バカ!お客さんの前だぞ⁈」
レミーラも、ハッと我に返ってゴードンから離れる。うん、やっぱり仲良しじゃないか。
「それじゃ、紹介料も入れて勘定を少しまけてくれたら、助かるんだけどなぁ?」
「「そこは関係無い」」
親子して、ハモって断りました。ん~甘かったか。まぁ、いい仕事してくれたし、ここはきちんと提示額で払うとしよう。
「ほらよ、これが請求書だ」
受け取った紙の金額を見て、アラヤは冷や汗を流した。請求額は大白金貨1枚、約1000万円だ。ちゃっかり竜爪剣は【大業物】として扱われているようだ。
「まいどあり!」
痛い出費ではあるが、必要な経費とも言えよう。ここは平気なフリをしてお金を支払った。
「マジで金持ちだな。今後ともよろしく頼むよ!」
笑顔で見送る親子達に、軽く手を振って店を出た。これは、鍛治師の仲間か、技能の鍛治を手に入れた方が良さそうだなと考えるよ。
「さて、当面は買い物は禁止だね。ガルムさんが帰って来る日まで、しばらくは新製品作りに専念しようか」
やはりお金は大事だね。なるべく多くの新製品を作って、より多くの収入を得ないといけないなと感じたよ。
この後は、坑道に向かって武器の使い心地を試してから帰る事にした。結果は上々で満足したから良かったよ。
アヤコさんとクララが、自分達にも、専用の武器を貰うのだと弓と短剣の使用を張り切っていたけど、ごめん、当分は我慢してください。




