94話 部屋決め
家の引き渡し当日。
不動産屋と本契約を終え、人生初の家を現金一括払いしてみた。前世界では到底無理な話だよね。
不動産屋も、ホクホク顔で屋敷の鍵を渡す。ん~、中古物件だと、以前住んでた家主が合鍵持ってる可能性あるから、鍵だけは直ぐに作り替える必要があるよね。だけど何故だろう、渡された鍵は物凄く新しい鍵なんだけど?
「アラヤ様に、御購入頂きました御礼と致しまして、室内清掃・庭の手入れ・屋敷内の全ての鍵交換は、こちらで済ませてあります。鍵は一流の鍵職人が製作したもので、魔法による解除もできない仕様になっております」
「そ、それはどうも」
ガルムさんのおかげで、至れり尽くせりだなぁ。でもまあ、引っ越しがより簡単になるから正直かなり助かる。
何度も頭を下げて見送る不動産屋と別れて、早速皆んなでマイホームへと向かう。
「わぁ、本当に庭も綺麗になってる」
綺麗に塗装された格子門を開け中に入ると、芝や中低木の木々も剪定されて調えられている。
「うっ、思ったよりゴツイな…」
「これなら泥棒も見ただけで諦めるんじゃない?」
玄関の扉に取り付けてあった鍵穴は、通常見かけるタイプの小さな物では無かった。
ちょっとした、関所の門に使用されている鍵並みの大きさじゃないか?
鍵開け防止を完璧にした結果なのだろう。
受け取った鍵で鍵穴に差し込み回すと、見た目と違い重さを感じない程度にカチリと簡単に開いた。
扉をゆっくり開けると、室内も見学した時よりも綺麗に掃除してある。
ひょっとしたら、この為に2日間待たせたのではなかろうか。
この家の間取りは、玄関から入って直ぐ正面には、廊下の奥が見えない為の目隠し用の壁があり、右側に進むと厨房(15畳)があり、その奥には浴室(浴室20畳、脱衣場5畳)がある。左側にはLD(リビングダイニング40畳)がある。廊下を進んで行くと左右に部屋が3部屋(各部屋10畳)ずつある。
つまり、6LDKと考えてもらえば分かり易いと思う。
「ま、まぁ、手間が省けて良かった。それじゃあ、部屋割りを決めようか?」
我先にと走り出すかと思ったら、皆んな無言で動かない。
「じゃ、じゃあ、俺が先に決めようっと」
アラヤが、LDを出て廊下に出ると、皆んながぞろぞろと後をついてくる。
「……この部屋にしようかな」
真ん中の部屋でボソッと小声で言ってみると、直ぐに動きがあった。アラヤがドアノブを掴んだ瞬間に、両隣の部屋の奪い合いが始まった。
「ちょっとクララ、貴女は番犬でもあるのだから、一番玄関寄りの部屋にするべきでしょう?」
「番犬として、守るべきご主人様の隣が最適だと判断します!」
「カオリさんは仮死状態があるのですから、最奥の部屋が一番北側で日も当たらないから最適ではないでしょうか?」
「私には腐敗耐性もあるみたいだし、吸血鬼では無いので日当たりが良くても平気なの。むしろ、生きている間くらいは日に当たりたいわ」
部屋は、廊下を挟んで東西に3部屋ずつあるのだが、廊下を挟んだ真向かいの部屋よりは真隣の部屋が良いらしい。
「あー、オホン。じゃあ、俺が決めようか?」
軽く咳払いをして、言い争いを中断させる。この部屋決めは、平等にというのは無理そうだと判断した。
「俺は今選んだこの部屋に入るけど、右の部屋にはサナエさん。夫婦だし、厨房が最も近いからね」
「やった!料理は私が作るんだから当然よね?」
サナエさんは、勝ち誇ったガッツポーズを見せる。
「次に左側の部屋はアヤコさん。決めた理由は、サナエさん同様に夫婦だからね。アヤコさんには、後々に作る予定の作業場の管理をお願いしようかな」
「分かりました。嫁として至極当然の権利ですが、ありがとうございます」
「次に、真向かいの右奥にはカオリさん。左側にはクララだね」
「ち、ちょっと、真向かいの部屋が空いてるから、私はそこで良いわよ?」
「いいえ、その部屋には私が入るべきです。ご主人様のお世話をしやすくする為にも、近くにいるべきですから!」
「ほら、そういう喧嘩があるから空き部屋のままにするんだよ。その部屋は、しばらくは仮の作業場として使う予定だから」
「夫婦じゃないから除け者なのね…」
カオリとクララは、あからさまにガックリと項垂れる。気持ちは嬉しいけど、順序があるよね。
「2人の気持ちは嬉しいけど、もっとお互いを知るべきだと思うんだ。だから、これからの生活やデートなんかをして、お互いの事をもっと知ろうよ?」
「で、デート⁈」
「アラヤ君、カオリさんは友達は居なかったし、男性経験もありません。ですが、本の知識だけは人一倍あるので頭デッカチです。なので、デートなどはハードルが高すぎると思いますよ?ですので、初めは私も同伴しましょう」
「ええっ⁈だ、大丈夫よ、アヤコさん。2人で問題無いわ」
「うん、俺も大丈夫だと思うよ?」
「アラヤ君、彼女が書いていた本には、デート中に行為に及ぶ官能小説もあるのですよ?」
アヤコさん、友達無し、恋人無しの人が、急にそんな事できるとは思えないよ?心配し過ぎだし、一般的な人付き合いの仕方くらいは知っている筈だよ。
そうだよね?とカオリさんを見ると、少し目が泳いでいる。ダメかなこれは…。
「まぁ、デートはまた別の日にね。 2人の役割だけど、カオリさんには、俺の新製品や魔鉱石作りの手伝いを頼みます。クララには掃除と洗濯の係をしてもらうね。お風呂のお湯はり担当は、ヒートアップが使える俺かカオリさんがする。今から、皆んなの荷物を亜空間収納から出すから、自分の部屋に運んでね」
「「「分かりました」」」
廊下いっぱいに皆んなの荷物が並ぶ。これからは、皆んなの荷物は亜空間収納には必要最低限の荷物しか入れない事にした。何故なら、亜空間収納の大半が食材と素材、道具が占めていて、皆んなの荷物も入れていると、あまりスペースが無いのだ。
アラヤは自分の荷物を部屋に運ぶと、直ぐに取り掛からなければならない事を始める事にした。
それはトイレ工事と、ベッドの製作である。何せこの家にはまだ家具が無いからね。
「荷物運びが終わった人から、俺の手伝いしてね~?」
「「「は~い」」」
それからは夕方まで、トイレ工事と家具作りを皆んなで頑張った。家具は、ベッド以外に食器棚や机や椅子、大きくは無いがタンスも皆んなの分作った。
「これであらかた完了かな?」
「そうだね。どうする?もう夕飯を準備する?」
「いや、今日の夕飯も【土竜の帽子亭】で食べるとしよう。どのみちチェックアウトする事を伝えなきゃいけないからね」
「そうですね。どうせですから、残っている日分の料理も頂くとしましょうか」
アラヤ達は【土竜の帽子亭】へと向かい、店主のカカさんに事情を説明した。
「そうかい、家を買うとは大したもんだね!ああ、今日の分だけじゃなく、残りの日数分の料理も出してやるよ!今日は思う存分食べていきなさい」
早速席に着き、皆んなで料理を美味しく頂く。次から次へと料理を運んでくる。カカさんの娘のネネが、食べ終わった皿を引き上げに来た時に、残念そうに言った。
「帰る家があるなら、もうこの店は御利用にならないのですね?」
「う~ん。確かにそうだけど、俺の知り合いが来た時には、この店が良いと紹介するからさ」
「それはありがとうございます」
うん、看板娘の笑顔も最高だし、この料亭兼宿屋の【土竜の帽子亭】は、俺達には良い宿屋だったな。こういう巡り合わせには、何もしてないかもだけど、女神様に感謝だね。
帰ったら、寝るまでにお風呂とかも揉めそうだな。生活が落ち着くまで、嬉しさもあるけど前途多難かもしれないな。




