92話 家探し
「夫婦関係って、主従関係に該当するんだね。なんか複雑な気分になる」
アヤコさんへの技能の譲渡が無事にできて喜んでると、サナエさんが主従関係の定義について納得がいかないようだった。
「ん~、確かに夫婦は対等な関係な気もするけど、この世界だと階級や地位の関係性が強いのかも。この世界基準で判断されたんじゃないかな?」
「まぁ、そういう事なら分からなくもないけど…。アラヤは、私と貴方の関係はどう考える?」
「う、う~んと、俺的には夫婦って自分の体の一部かなって思うんだよね。何時も繋がっていて、無くてはならないものというか。ごめん、上手く言えないや。とにかく、そんな関係って思うよ」
この手の表現って難しいと思う。他人と一生を一緒に終えるという約束をする結婚だけど、そこには不確かなお互いの愛情と信頼が無いと成り立たない。簡単な表現で、その度合いを説明などできないと思う。
「そっか、じゃあアラヤの左半分は私のものだね?」
そう言って、サナエさんは左腕に自分の腕を絡めてくる。そういう意味だとサナエさんの半分も俺のものって事になる。だから、この腕に当たる感触は、自分の体の感触でいやらしい気持ちを感じてはいけないのだ。無理だけど…
「それなら、残り半分は私のものですね?」
今度はアヤコさんが、反対の右側に抱きついてくる。
「それじゃ、俺が残らないじゃないか」
そんなじゃれ合いを見せられているカオリとクララは、つまらなそうに溜め息をついた。
「全く、にいやはどうしようも無いね。顔が緩みっぱなしじゃないか」
「ご主人様、ダラシない」
「う…、おっと、こんな時間か。そろそろ出かける支度をしようか」
アラヤは2人をなんとか引き離し、伸びた服を直す。
「出かける?」
「ああ、家探しだよ」
「そう。じゃあ、行ってらっしゃい」
「何、言ってるの?カオリさんとクララも一緒に、5人で行くよ?」
カオリとクララはキョトンとしている。2人とも、また留守番だろうと思っていたようだ。
「え?出ていいの?」
「もちろん、皆んなで住む家を決める訳だからね。ただ、デピッケルにも両教団はあるから、変装をしてもらうよ?あと、クララも今回は人狼の姿で行ってみようか」
「はい、分かりました」
クララは、返事をしたら即座に変身する。アラヤは少し目を逸らしつつ、ジャミングでたわわな胸元にジャミングと魔力粘糸で、ナーサキ王国のグラコ貴族の紋章を奴隷紋として貼り付ける。
「これで、周りからはグラコ家の奴隷として見られる筈だ。デピッケルでは借金奴隷は許されているから、クララは街中では、借金奴隷としての扱いを演じてね?」
「はい、分かりました。ご主人様」
「う、うん。早く服を着ようね?」
目を逸らした先に居る、2人の冷たい表情が怖いからね。
クララが買っておいたメイド服に着替えると、尻尾を出す場所が無くてスカートが捲れている。すると、自作のソーイングセットでサナエさんが、尻尾を出せるように一部を仕立て直してくれた。
「ありがとうございます、サナエ奥様」
言葉使いと所作を、メイドらしく振る舞うクララは、ガルムさんの豪邸に居たメイドとも引けを取らない。
「うん、似合ってるね」
「ご主人様、ありがとうございます!」
その笑顔は眩し過ぎるよ。おっと、また視線が痛いので、今度はカオリさんの変装に取り掛かるか。
「カオリさんは、ジャミングで一時的に姓をグラコに変えて偽ステータスを表示するからね」
「そこ、強調するんだ」
「とにかく、魔王は普通は鑑定できないから、仮のステータスを作って誤魔化すしかないでしょ?あと、教団には顔が割れてるだろうから、魔力粘糸で作ったこのウィッグを使って、金髪で長髪の眼鏡美人に変わってもらうね?」
「び、美人って、そんなに褒めても…何もないわよ?」
満更でもないようで、彼女は鼻歌まじりに鏡を見ながらウィッグを着けている。
「眼鏡じゃなくて、コンタクトがあれば変装も簡単だったんだけどね」
アラヤはまだ、この世界で眼鏡屋らしき店を見ていないから、コンタクトを作る技術があるかを分からないでいた。
「金髪なのは、単にアラヤの趣味でしょ」
サナエさんの鋭い指摘はスルーしつつ、アラヤも支度をする。手にしたのは、折れてしまった愛剣のショートソード。サナエさんが拾ってくれていたらしい。時間がある時に、武器屋に持って行こうと亜空間収納に入れる。
「さぁ、準備出来たら出発しようか」
アラヤ達は、宿屋から住宅地にある不動産屋に向かった。
周りから見たら、1人の子供に女性が4人。違和感たっぷり、嫉妬心たっぷりである。
「い、いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょう?」
明らかに動揺している店員に、アラヤは笑顔で答えた。
「この5人で住める中古物件を探してるんだけど、御社には該当する物件がありますでしょうか?」
「へ?あ、はい。二、三軒でしたらございますが、その…奴隷用の小屋付きではございませんが…」
言葉を濁らせる店員に、奴隷とは同じ家に住まない風習があるのかと、アラヤは気付いた。
「構わないよ。彼女は奴隷ではあるけど、ご覧の通り、メイドとして優秀なので特別に同居を許しているんだ」
「は、はぁ、そういう事でしたら。今から案内できますが、いかが致しますか?」
「もちろん、お願いします」
アラヤ達は不動産屋の店員に連れられて、一軒目は住宅街の中央にある二階建ての家。二軒目は住宅街を流れる生活水路の横にある平屋の家。三軒目は住宅街でも豪邸通りに近い場所に案内される。
「いかがでしょうか?」
「う~ん、少し皆んなと考えさせてください」
店員には外に出ててもらい、皆んなを集める。
「どう?気に入った家があった?」
「一軒目は、隣との距離が近過ぎましたね。あれだと、近所で火災が起きたらひとたまりもありません」
「二軒目は、近くの水路の匂いが気になったわね。クララもキツかったんじゃない?」
「はい、少々。耐え切れぬ程度ではございませんが…」
我慢しながら住んでもしょうがない。これも却下だね。
「じゃあ、この物件は?」
「この物件は、庭もあり隣とも離れています。部屋数も個室が6部屋、厨房に浴室もありリビングダイニングもあるので、文句無しですね。ただ、お値段が他の物件よりかなり高いですけど」
アヤコさんのこの意見には、皆んな同意見のようだ。因みに、この小さい屋敷とも呼べる物件の金額は、およそ2500万円の金額、大白金貨2枚と白金貨5枚の値段だ。
「一応、購入はできるけど…高い買い物だからかなり迷うね」
前回アラヤの銀行の残高を確認したら、まだ4500万円相当の貯金は残っている。
500万近く減った主な消費の原因は、アラヤの食費や食料の爆買いによるものだった。
これからは、ちゃんと控えないとね。
皆んなは、アラヤの決定に任せるつもりらしい。しばらく考えた後、アラヤは決心して、不動産店員を呼ぶ。
「この物件で決めました」
「えっ⁉︎そ、そうですか!ありがとうございます!では早速、御契約の書類を準備します」
店員は、初めはアラヤを貴族の子供だと思っていたみたいだけど、記載されていく内容を確認しているうちに、態度を改めてきた。
「御契約ありがとうございます、アラヤ様!当不動産をご利用頂き、大変恐縮しております。心よりお礼申し上げます!」
これは、裏でガルムさんが不動産屋達に触れを回していたな。手助けは要らないと言ってたんだけどね。まぁ、おかげでスムーズに話が進んで、2日後には引き渡しと支払いができる事になったけど。
「これからいっぱい新製品を製作して、収入源を増やさないとね。皆んなも、協力よろしくね?」
「「「もちろんです」」」
こうして、異世界二軒目となる自宅が決まったのだった。




