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スキルが美味しいなんて知らなかったよ⁉︎  作者: テルボン
第6章 味方は選べと言われたよ⁈
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73話 色欲魔王カオリ ①

陽の明かりが差し込める礼拝堂。礼拝者を受け入れる為に開かれたその入り口に、5人はあの直後の姿勢で立っていた。


「あ…れ?ここどこ?」


周りを見回すと、礼拝に来ていた信者の人達が不思議そうに見ている。

恥ずかしくなったカオリは、小走りで柱の影へと隠れた。


「お待ち下さい、色欲魔王様!」


私を恥ずかしい呼び名で呼びながら、配下と呼ばれていた者達が後を追ってきた。めちゃくちゃ目立っているじゃないの!


「そんな呼び方しないでよ!変な目で見られるでしょう⁉︎」


「ハハハ、そんな事は有り得ませんよ。ここはラエテマ王国フレイア大罪教教会の礼拝堂ですよ?色欲魔王様を笑うような輩は1人も居ませんよ」


そんな自信ありげに言っても、知らない場所なのだから分かるわけがない。


「と、とにかく、私のコレ、外してくれないかしら?」


私の腕はまだ、柔らかくも強靭な布で拘束されているままだ。


「それはまだできません」


「はぁ?貴方達は、一応私の配下って言われていたと思っていたのだけれど、違ったのね」


「違いませんが、先ずは我々の話を聞いて頂きたいのです。その後なら、拘束は解きますし、何処へ行かれても構いませんので」


「分かりました。とりあえず聞ましょう」


「ありがとうございます。では、手始めに自己紹介をば。私は、貴女様の耳・声・会話を担当します翻訳士でございます」


「私は、魔王様の目の担当となる鑑定士でございます」


「私は、魔王様の…」


「ちょっと、ちょっと!待ちなさい」


「は、何か?」


「先ずはそのフードを外しなさい。顔が見えないんじゃ見分けがつかないわ。それと名前は?」


こんな建物の中で、黒い格好をしているだけでも充分目立っているのに、そこに見慣れない制服姿の女子高校生を、魔王様と連呼しているのだから、これでは、サバト集会に生贄にされる女子高生ではないか。

せめて顔を出しなさいと、フードを外させると、自分とさほど歳の変わらないくらいの男女だったと分かった。


「我々は、生を受けてからこの日が来るまで、魔王様のお役に立つ為に己を磨いて参りました。是非とも、貴女様の成される偉業のお側に、我々もお供させて下さい!」


5人全員が、片膝をついて頭を下げる。それは厳しい訓練で鍛え上げられた、兵士の一糸乱れぬ動作のようだ。


「それで、名前は?」


「元より名はありません!私は目であります!」


「私は腕であります!」


「私は足であります!」


「私は耳、又は口であります!」


「私は体であります!」


どうやら職業が、体の一部で表され、名前というよりも役名として育てられてきたみたいだ。


「では、私は貴女の事を今からアイズと呼ぶ事にします」


「あ、アイズ?」


鑑定士で、自らを目と称した彼女は、自分が名前を付けられた事に驚いている。


「貴方は斥候で足なら、フット。貴方は魔術士で腕なら、アームズ。翻訳士の貴方は、耳や口なら、マウスイヤー。調理師の貴方は体ね、それならクーパー。簡易的に決めちゃったけど、私は今からそう呼ぶからね?」


「「「はい!ありがとうございます!」」」


「それと、私を色欲魔王と呼ばないで」


「し、しかし、それでは何とお呼びすれば…」


「カオリでいいわ」


「それでは、か、カオリ様と呼ばせて頂きます!」


正直、言わせてる本人がめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど⁉︎友人より先に配下ができるって、どういう事?って思うよね。

とりあえず、地元の人が着る衣類を手配してもらい、全員で話せる場所へと移動した。


「カオリ様は、既に言語理解の技能(スキル)をお持ちのようですので、言葉や文字書きを覚える必要もありません。通訳役の私は、このまま交渉役へと変わります」


「今後の予定ですが、カオリ様はお決まりの予定はおありですか?」


「何?貴方達は私に何かやらせたくて、私達を召喚したんじゃないの?」


「それは、我々には考え及ばない事です。大司教様は、二百年毎に行われる、双子神の遊技を終わらせる為の召喚だと仰せでした」


「冗談じゃないわ!そんな曖昧なものの為に、クラスの皆んなをあんな目にあわせたというの⁈」


理不尽に惨殺されるクラスメイトの姿を思い出して、カオリは込み上げてくるものを堪えようと手で口を押さえる。


「これからの行動は、何の制限もありません。カオリ様の自由にさせて良いと伺っています」


「自由に…?」


何とか堪えきったカオリは、ここに飛ばされる前の男の言葉を思い出した。


「知識の深淵…。この辺に、大きな図書館ってある?」


「はい、ございます。ラエテマ王国国立図書館というものが。その蔵書数、二十万冊以上との事です」


「そこへ、案内してくれる?」


「はい!」


あの男は、そこに行けば知識の深淵があると言った。それならば、知識が集まる場所を探した方が良いに決まってる。


外に出てみると、大罪教会は街の中にあった事がわかった。

そして街路を挟んだ向こう側には、美徳教会の建物があった。


「対立する教会が、目と鼻の先にあるなんて思わなかったわ」


「美徳教会も大罪教会も、国民にとっては切っても切れないものなのです。街中で争いなども起きません。街のあちこちに、どちらも小さな礼拝堂があるくらいですからね」


「じゃあ、私が向こうの礼拝堂に行っても襲われる心配は無いの?」


「それとこれとは話が別です!決して1人で行動しないで下さい。カオリ様には今、アームズが闇属性魔法で正体がバレぬようにしていますが、LV5以上の鑑定士が居たら見破られてしまうのです。貴女が魔王だと知られたら、捕まえられてしまいます」


「わ、分かった。絶対に近付かないよ」


捕まったら、命の保証も無いのだろう。これ以上は、近くにいると危険かもと、図書館へと急いで向かう。


その図書館は、レンガ調の大きな建物で、前世界の市立図書館と同じくらいの大きさだ。


「当面は、この図書館で世界の情報や知識を取り込む事に専念するわ」


「分かりました。私達は近くで待機していますので、御用の際と御帰宅の際にはお声をかけて下さい」


「ええ、そうする」


カオリは早速中を見て回る。本自体が大きいものが多いので、全体的に棚の高さが高い。


「先ずは、この世界の歴史から始めますかね…」


次から次へと本を選んで、机の上に置いていく。15冊くらい積み上げると、ようやく椅子に座って読書を開始する。

その黙読のスピードたるや、ペラペラと頁をめくっているだけに見える。

あっという間に1冊目を読み終えたら、次の本をもう掴んでいる。

休憩も無しに読み進め、彼女は二時間で87冊の本を読破した。帰る前には、カオリの黙読する姿を見る人達が増えていた。


「何とも、凄い才能をお持ちの御婦人が居りますな。是非とも名前が知りたいものだ」


見物客の1人のドワーフがそう口にすると、近くにいた青年が教えてくれた。


「彼の方は、カオリ=イッシキ様です。本を愛してらっしゃる方です」


「凄いですな。あれだけお読みになるのであれば、きっと文才もお有りになりそうですな」


「ああ、私もそう思います。彼の方は特別ですから」


青年は、何故か自慢気に話す。きっと、友達なのだろう。

ドワーフが去った後も、彼女は読む事を止めなかった。

何故なら、この世界には彼女を止める人が居ない。彼女は、親からもう怒られる事も無い。学校の授業や宿題に時間を費やす必要がない。好きな読書に専念できるのだ。


「今日から私の楽しい読書生活が始まるわ」


カオリは食事の時間も気にせずに、一心不乱に本の読破にのめり込むのだった。

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