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スキルが美味しいなんて知らなかったよ⁉︎  作者: テルボン
第4章 魔王と呼ばれているなんて知らなかったよ⁈
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52話 ソーリン=バルグ

「へぇ、これがヤブネカ村か」


デピッケルを出発してから7日。ようやく村まで帰り着いた。ソーリンが居たので、今回はムーブヘイストを使わずに帰って来た。

おかげで行きよりも遅くなったわけだけど、ソーリンとの親睦は深まったと思う。

公の場以外は殿を付けて呼ばないようにと提案して、アラヤはソーリンと呼びソーリンはアラヤさんと呼ぶようになった。

彼はデピッケルから出た事が無かったらしく、言葉使いや立ち居振る舞いは執事のバスティアノから教わったらしい。

この世に生を受けてから僅か10年。身体はドワーフという種族に生まれた事により、人間ではあり得ない成長速度が与えられている。

本来のドワーフは、その代償に人間の半分の寿命、約60年という短い人生になっている。故にほとんどのドワーフが、短い時間を己が為にと強欲な性格となる。身体の成長に対して、人生経験、何より心の成長が追いつかないからだ。

だがソーリンは、人間の執筆のバスティアノの教育を幼少より受けているので、異常な強欲さは感じられない。



馬から降りたソーリンは、辺りを見回して、あれは何?とメリダさんに何度も質問をしている。デピッケルとは違う人々の生活に興味があるようだ。


「アラヤ、ソーリンに村の中を案内してくれない?」


「はい、分かりました。お土産もついでに配っていきますね」


馬を馬房に預ける必要があるので、先ずは雑貨屋のモドコ店長の元に向かう。馬房に馬車馬と、馬車を戻してソーリンの馬を繋いでおく。


「モドコ店長~、ただ今帰りました~」


「おお、アラヤ君お帰り…って、その子はひょっとして…?」


「ガルムさんの息子、ソーリンです」


「やはりか!君は覚えていないだろう、君を見かけた時はまだ二、三歳だったからね。随分と大きくなったものだ」


「すみません、ちょっと覚えていなくて…」


「そんな事は気にしなくていいよ。それよりも、君が成人した事を私も祝いたいのだけど、この中で欲しい物があるかね?」


「ありがとうございます。そうですね…ああ、その絵は店長さんですね?」


それは、フユラ村のタオが書いたモドコ店長の似顔絵だった。店長は宝物として壁に飾っていたのだ。


「とても素晴らしい出来ですね。お祝いはこの絵を描いた人の情報が欲しいです」


「なるほど、情報ですか。この作者はたしかに埋もれさせるには惜しい人物ではあります。しかし、今はまだ経験が足りない。ソーリン君、君がこの作者を育てるというのなら、御教えいたしましょう」


「ええ、是非とも教えていただきたいです」


モドコ店長は、ソーリンにタオの情報を提供して大丈夫と判断したようだ。ソーリンは熱心に聞いていた。

モドコ店長にお土産を渡して、石鹸の製作を頼んでみたら、やってみるよと乗り気になってくれた。


「フユラ村…この村と似た感じの村なんですか?」


「いや、違うかな。普通の村と言ったら、フユラ村がその意味では近いかもね。このヤブネカ村は、特殊な村と考えた方が良いよ」


「特殊な村、ですか?」


「うん。他ならぬメリダさんが村長だからね。鑑定持ちの村長が、皆んなの役割りを決めているから、村全体の負担が極端に少ないんだ。他の村では、自分の職種を知らない者達が、不得意な仕事をしてる場合が多い。農家の子供が必ずしも農業に向いてるとは限らないからね。まぁでも、子供達は親のお手伝いはしているよ」


「なるほど。この村ではそういった無駄を無くしているんですね」


「子供達は、10歳までに稀に職種が変わるみたいでね。アヤコさんがしている勉強会も、その子に向いている職種を見つける目的も含まれるんだよ」


「勉強会?」


「ええ。主に数学や国語、偶に歴史や童話などを教えています」


アヤコさんが、内容を少し説明する。授業内容は小学生レベルの数学と、ラエテマ王国の文字を書く練習をさせている。


「村でそれだけの勉強をさせていたのですね。メリダさんの村の運営方針は感心するばかりです」


続いて製材所や、酪農場・畑群・養鶏場と廻って行く。ソーリンにすればどれも、デピッケル程の規模では無いが、工程・品質・安全管理は同等にあると言えるらしい。


「次は織物屋だよ」


織物屋の扉を開けると、丁度ナーベとナーシャが棚卸しの最中だった。


「あら、アラヤ君達、いらっしゃい。というかお帰りなさいだね」


「ええ、ただいま。ナーベさん、ナーシャさん。これ、お土産です」


二人にも、お土産のロック煎餅を手渡す。


「あら、ありがとう」


「今日は棚卸しでしたか」


「ええ。そろそろ冬衣を準備しないといけないからね。貴方達の分を用意してあげるから、待ってなさい」


ナーベさんはそう言うと、奥の倉庫へと入って行った。残ったナーシャさんが、全員に果実水を持って来た。


「それで、その人は誰なのかな?」


「ああ、ガルム=バルグさんの息子でソーリン=バルグ君だよ」


こっそりとサナエさんに尋ねるナーシャさん。サナエさんも、コソッと耳打ちして教えている。


「アラヤさん、貴方達が着ていた正装はここで仕立てたんですか?」


「うん、そうだよ。素材はブルパカの毛糸を使用してる」


「そうでしたか、デピッケルでも通用するような一流の仕立てでしたので、この村で作られたものだとは思いませんでした。素晴らしい腕ですね、貴女が仕立てたのですか?」


ソーリンに突然話を振られて、ナーシャは慌てる。何故か頰を赤らめてるのは気のせいだろうか。


「あ、え、はい。母と二人で仕立てました。私は主にデザインを担当しています」


「少し、過去に製作した作品のデザインを見せて頂いても?」


「は、はい、少々お待ち下さい」


ナーシャさんは、急いで木版を取りに走って行った。やっぱり、明らかに態度違うよね?

戻って来たナーベさんから、冬服の支給品を受け取っている間も、ナーシャさんからソーリンはいろいろと説明を受けていた。


「それでは、食堂は後から向かうから良いとして、後は村長宅だね」


四人は今度は村長宅へとやって来た。玄関から入って、勉強会の部屋を説明する。


「なるほど、ここで授業をするのですね。王都には騎士学院なる施設がありますが、貴族関係者しか入る事ができません。だから平民で学がある者が育たないんですよね。この村の子供達は恵まれていますね」


「ははは、それは嬉しいね。村を見て廻ってみてどうだった?」


村長が奥の部屋から現れ、ソーリンに村の感想を聞く。


「素晴らしいです。メリダさんがいなければ、ここまでの村の発展は無かったでしょうね」


「まぁ、まだまだ発展途上だけどね。これからも頑張るつもりだよ」


すると、ソーリンは困った表情をする。


「そうなると、村に必要なメリダさんを、バルグ商会に勧誘する事は難しいですね」


「あら、私を勧誘するつもりだったの?」


今回、ヤブネカ村に彼が同行したのは、デピッケル以外の生活を見るだけが目的ではない。鑑定持ちのメリダさんを勧誘して、村に支障が無いかを見極めるつもりだったのだ。


「新たに私が巡る、新ルートの取引先の同行者に、鑑定持ちのメリダさんに来て欲しかったんですが、この村には貴女が必要不可欠です。残念ですが、諦めますよ」


「ああ、成人したから新ルートの構築を任されたのね。それで同行する鑑定士が必要だと。適任者が居るわよ?」


「そうなんですか⁈」


ちょっとメリダさん⁉︎いきなり何を言い出すんですかね?こっちを見ないで下さい。


「アラヤも鑑定持ちよ?」


「ええーっ⁈普通、言っちゃいます⁈」


「アラヤは、ソーリンに私を鑑定持ちと教えたんでしょ?なら、おあいこよ」


「…アラヤさんは、私に同行するのはお嫌ですか?」


そんな真剣な表情で聞かないでほしい。俺は好き嫌いで判断してるんじゃ無いんだよね。


「嫌って事じゃなくて、俺達はこの村での生活が気に入ってるし、お金にも困っていない。生活サイクルを変えたく無いんだよ」


「そうですか…アヤコさん、サナエさんも同じお気持ちですか?」


「私はアラヤ君が決めた事に従うだけです」


「私はアラヤが居れば構わないわ」


「つまり、アラヤさんが決めればどちらでも良いんですね?」


「何でそうなるの⁈」


二人の意見をソーリンは、都合よく解釈してる。


「私は諦めませんよ?良い人材は、労や財を惜しまず手に入れるのが、私のモットーですので」


その眼差しには、強い力が感じられる。ああ、彼はそういう点において強欲なのかもしれない。アラヤは、冷や汗をかきながら皆んなを見るが、助け船は無さそうだ。どうしよう…

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