05話 初めての村
「あった!村だ!」
川沿いを、下流に歩き続けて2時間くらい経って、ようやく人工的な物が見えて来た。獣除けの木の塀壁に囲まれた小さな村だ。
三人はゆっくりと深呼吸をする。ここから異世界人と、最初の接触をするのだ。とりあえず落ち着かないと…。
「準備はいいかい?アヤコさん」
「は、はひ」
あ、やっぱり緊張してるな。ここはひとつ安心させないといけないな。
「俺もついて行くからさ」
彼女の手を掴み、大丈夫と笑顔を見せる。
すると彼女は、何故か真っ赤になって固まってしまった。
「\→、○%☆☆♪〒<#○?」
すると、入り口で俺達のやりとりを見ていた村人が話し掛けて来た。
『アヤコさん、頼む!やっぱり俺には言語が分からない』
『は、はい!会話の内容は念話でお話ししますね!会話の指示はお願いしますよ?』
「どうしたんだい?見ない顔だけど…この村の者じゃないよね?」
「はい、すいません。ここが何処だか私達は分かりません。ここは何という村ですか?」
「この村は、ヤブネカ村という。その格好はどうした?見た事の無い服だし、血が付いてるじゃないか」
この村人、ずっと腰に手を当てている。こちらからは死角だが、腰裏に短刀を忍ばせているな。優しく話を聞きつつ、警戒を怠っていない。
「両親の馬車に乗って、王都へと向かっていたのですが、ゴブリンの集団に襲われてしまい、命からがら私達だけ逃げ延びたのです」
「おお、それは災難だったな。ちょっと待ってろ。仲間に話を付けてくる」
村人は入り口へと駆けていくと、別の村人が現れて話をしだした。
『何か怪しまれてますかね?』
『それが当然だよ。余所者でこんな格好だからね。でも、大丈夫そうだよ』
村人が再び戻って来た。警戒も大分解いてくれている。
「俺に付いて来てくれ。村長に会わせてやる。事情を話せば、力になってくれる筈だ」
「ありがとうございます!あ、あの、貴方は…?」
「俺か?俺はライナス。この村の守衛隊長をやっている。よろしくな?」
「よろしくお願いします、ライナスさん。私は長女のアヤコ。この子は弟のアラヤ。後ろは妹のサナエです。二人は襲われたショックで言語を忘れてしまっています」
「そうか…」
何か、おっさんに温かい目で見られているんだけど、アヤコさん何て言ったのかね?
「坊主、強く生きろよ。男なら、お姉ちゃんを守らなきゃな!」
頭に手を置かれて、不器用に撫でられた。これって子供扱いされてる?
『アヤコさ~ん?俺の事、どんな説明したのかな?』
『二人共、付いて来て下さ~い。村長さんに会わせてくれるそうですよ~』
逃げるように、アヤコさんはライナスに付いて行く。仕方ないからついて行くけどさ。
村長の家は、最奥にある少し大きな家みたいだ。
ライナスは玄関の扉を数回ノックする。
「おーい、メリダ村長~!ん~おかしいな、また裏庭か?」
何度呼んでも反応が無いので、ライナスは家の裏へと回った。家の裏側には窯があり、今も煙りが上がっている。
「メリダ村長!やっぱりこっちにいたんですか。村長に会って欲しい子らがいるんですよ」
窯の前で、温度調節をしている人物にライナスが話し掛ける。その人は作業を中止して立ち上がった。頭に巻いていた布を外すと、赤い綺麗な髪が腰まで降りる。村長は若い女性だった。
「何だい、ライナス。とうとうベスと一緒になる気になったのかい?」
本当にこの人が村長なのか?アラヤは鑑定を彼女に行う。
メリダ=ピロウズ
種族 人間 女 age 35
状態 正常
職種 陶芸家
技能 鑑定LV 2 熱耐性LV 2 火属性魔法LV 2 繊細加工LV 2
あっ!鑑定技能持ちだ!こっちの素性がバレてしまうかもしれない。
「べ、ベスとの話は、今はまったく関係ないです!会わせたかったのは、この子達ですよ!」
ライナスがこちらを指差している。マズイ…彼女と目が合った。ゆっくりと視線を逸らす。
ガシッ!
「⁈」
何故か顔を両手で鷲掴みされた。視線を外さないように顔を固定されて、じっくりと目を合わせにくる。怖い!怖いよ⁈何なのこの人⁉︎
「おかしいなぁ。この坊やだけ鑑定がボケちゃう」
『アラヤ君!この人、貴方が鑑定できないって言っているよ!』
『と、とりあえず、助けてもらえるか話を切り出して!』
「あの、弟は人見知りですので、そのへんで解放してもらえますか?」
「ん?ああ、すまないね!可愛い子はいろいろと調べたくなるもんで、ついね?まぁ、ここで立ち話もなんだ、部屋に案内するよ」
三人は、そのまま村長宅に招かれる。室内は物が散らかっていて、通された客間だけが片付いている。
「じゃあ村長、私はこれで…」
ライナスは、部屋には入らずに持ち場に戻って行った。最後に、俺を見て頑張れよとジェスチャーをしていた気がする。
「さて、一応自己紹介をしようか。私はメリダ。数年前からこのヤブネカ村の村長をしている。それじゃあ、君達の話を聞かせてくれるかな?」
『アヤコさん、二人の名前と年齢は既にバレてると思う。異世界人と悟られないように気を付けてね』
「私はアヤコ。こっちはサナエで、この子はアラヤといいます。私達は、この先の森から逃げて来ました。乗っていた馬車が魔物に襲われて、三人の両親は死んでしまいました。命からがら逃げて、行く宛もありません。どうか、しばらくの間でもいいので助けてもらえませんか?」
メリダはアヤコの目をジッと見ている。鑑定でステータスを覗いているんだろう。
「うん、まぁ半分くらいは本当みたいだね。まぁ、村に迷惑掛けないって言うんなら、私は別にいいよ。住む場所も、誰も住んで無い空き家があるから貸してあげるよ。ただし、三人とも働いてもらうけどね。どうせ文無しだろ?働かざる者、食うべからずだよ」
「ありがとうございます!助かります!」
アヤコの喜び方で、話が上手くいったんだと分かる。とりあえず一安心だな。
「とりあえず、アヤコはこの家の掃除、サナエには私の助手をしてもらうかな。坊やにはライナスの手伝いかな」
「あ、あの…二人は…」
「言葉が分からない…だろ?そんなもん、慣れて覚えりゃ良いのさ。例え、あんた達が違う国から売られた奴隷だろうが、この村に住むなら立派な村人だ。私の家族同然だよ」
「ありがとう…ござい…ます」
あれ?何でか、アヤコさんが泣きだしたぞ?この熟女、何か酷いこと言ったんじゃないのか?俺は、村長をキッと睨み付ける。すると頭を軽く小突かれた。
「強くなれよ?坊や」
何故か笑顔だし。ああ、言葉が分からないって、凄いもどかしいな‼︎モヤモヤするぞ!
「付いて来な。あんた達の家を教えるからさ」
村長が手招きをして家から出る。俺とサナエはアヤコさんに詰め寄った。
「何か、変な事言われたのか?」
「アヤ、何を喋ってるか分からないけど、出て行けって言われたなら気にする必要は無いよ?違う村を探すだけだからさ」
「違うよ~勝手に私達を、他国から売られた奴隷の子達って思ったらしいの。仕事をすれば、住む家もあげるからって。上手くいったね?」
彼女は凄い笑顔で、テヘっとちょっとだけ舌を出した。嘘泣きかよ⁈分からなかったよ!サナエさんも引いてるよ。
「何してるんだい?早く付いて来なよ~」
「あ、早く来いって呼んでる。行こう、二人共!お姉ちゃんに付いて来て?」
いたずらに笑いながら出て行くアヤコさん。何か楽しそうだな。
「サナエさん、彼女ってあんなキャラなの?」
「いや、あんな一面初めて見たよ。まぁ、私は嫌いじゃないけどね」
そうだねと頷き、俺達は彼女の後を追いかけた。でも、年頃の男を子供扱いするのだけは勘弁して欲しいよな。