48話 冒険者ギルマス トーマス
『ドラゴン肉、美味いよ!』
ブロック分けされたドラゴン肉を、ガルム邸の専属シェフに切り分けて、ミディアムレアに焼いてもらった。これがとても美味い!
気が付けば4皿目に手を掛けていた。ふと周りを見ると、アヤコさんやサナエさんの姿は無く、何故かニヤニヤ笑うドワーフ達とがたいの良い男に囲まれていた。
「良い食いっぷりだのぅ、若いの!」
「いやはや、全くだ!小さな体によく入る。まるでドワーフだな」
食べてるところをずっと見られていたのか。俺はドワーフではない、痩せの大食いなのだよ。あと、肉が美味いのだから仕方ない。
「俺は、王都で冒険者ギルドのマスターをしてるトーマスという者だ。勝手に鑑定で見させてもらったんだが、中々のステータスを持ってるじゃないか」
おっと、がたいの良い彼は冒険者ギルドのマスターだったか。これは用心しないとな。
「お前さん、ナーサキ王国の生き残りなんだってな。今は貴族では無いなら、生活はどうしてるんだ?妻帯者なら、稼ぎが必要だろう。その実力があれば…」
「おお、ここに居ましたかアラヤ殿!」
タイミングよくガルムさんが登場する。念話で呼んだ訳じゃないんだけど、この人は周りの状況が良く見えてるよね。
「これはトーマス殿、楽しんでおられますかな?」
「ああ、酒も料理も最高だよ。しかも、今しがた良い人材を見つけたところでね」
「ハハハ、アラヤ殿の事ですかな?しかし、それは残念と言わねばなりませんな」
「ん?何故だ?彼は今は貴族でも無いし、どこかに腰を下ろしているわけではないのだろう?」
「アラヤ殿は、私と様々な商品開発を取り組んでいる共同開発者でしてな。稼ぎは既にありますし、所属先は商工会が先約してるのですよ」
「ええっ?そりゃないよ、ガルム殿。せっかく確保できると思ったのに。ああ、キングを倒したししょとか言う人材も見つからないし、良い人材は中々手に入らないな~」
「先約あったなら仕方ないのぉ」
「うむ、残念だな」
おお、危ない危ない。トーマス以外のドワーフ達も、どうやら違う街のギルマスだったようだ。ガルムさん、ありがとうです!
「アラヤ殿、肉も良いですが、夫人方をそろそろ迎えに行くべきだと思いますぞ?」
おっと、そうだ。手に持っていた最後の肉を急いで食べ終える。
直ぐに気配感知で二人の反応を見ると、サナエさんもアヤコさんも、複数の反応に囲まれている。
直ぐに目視出来たのはサナエさん。貴族らしい男達に囲まれている。
アラヤはサナエの元に早足で駆け寄るが、途中で隠密を使い気配を消した。
サナエさんに言いよる貴族達の会話が聞こえる。
「なぁ、別に減る物でも無いだろう?一度で良いから踊ってみてくれよ」
「踊り子という職業なんだろ?仕事と思って行動するだけでいい話ではないか」
「何なら、あんな没落した貴族の子供なんかほっといて、我が男爵家で養ってやろうか?」
こいつら、酒に酔ってるとは言え、好き勝手言ってるな。ガルムさんも仕事上だろうけど、こんな奴等と付き合う必要あるのだろうか?
ガルムさんには悪いけど、ここはひとつ威圧LV 2の実験台になって貰おうか。
技能を発動しようと手を前に出そうとしたら、その腕を掴まれる。
「何をする気か知らないが、やめときな」
気配感知には反応は無かった。腕を掴んでいるのはギルマスのトーマスだ。隠密持ちだったのか。鑑定で見ておけば良かったな。
「皆様、私はいつでも踊りたい時に踊ります。今はその時ではありませんし、今後その時が来る気配もありませんね」
サナエさんは、貴族達にキッパリとお断りをした。その態度に腹を立てた1人の貴族が、サナエさんの腕を掴もうとする。
アラヤはトーマスに掴まれた腕を振り解き、その貴族の前に出ようとした。
「私に触れたら、後ろにいる私の主人が黙っていませんよ?」
「ああっ⁈没落貴族ぶぜいが何を…⁈」
振り返るとそこにはアラヤがいる。一斉に他の貴族達は巻き込まれないように離れていく。
目の前にいるのは見かけは子供のアラヤ=グラコ。しかし、そのステータスは貴族達より高いのは、鑑定士より聞かされている。
「わ、わ、私に手を出したらどうなるか分かっているのか⁈」
「さあ?では、男爵様は私の妻に手を出したらどうなるか知っていますか?」
「な、な、な、な、何をすると言うのだ⁈」
明らかにびびって声が裏返っている。こういう輩には、変な気を起こさないように釘を刺して置かないとね。
『骨も残らないように喰ってあげますよ』
トーマスに邪魔されたくないので、念話で脅しを入れる。男爵は青ざめて会場から出て行った。ちょっとやり過ぎたかな?これくらいはガルムさんに迷惑かけて無いよね?
「アラヤ殿、手を出していたら、俺も無視する訳にはいかなくなるからな?」
「手は出しませんよ。それよりも、止める相手が違うと思いますよ?」
トーマスを軽く睨んで見ると、まぁまぁと肩を軽く叩く。
「相手は貴族様だ。力じゃ勝てるが、横繋がりの面倒事で消される羽目になるぞ?」
「残念ですが、貴方のやり方で家族を守れるとは思えませんね」
「ん~、まだまだ青いね~」
コイツ‼︎喰ってやろうか⁈
『アラヤ君‼︎ちょっと冷静になって‼︎』
珍しくキレそうになったアラヤを、向かい側から見ていたアヤコが念話で止めた。貴族夫人達に囲まれている中で、よくこっちの様子に気付いたな。
『今、凄い怖い顔になってたよ⁉︎アラヤ君こそ、怒る相手が違うでしょう⁈』
「私は大丈夫だよ…?落ち着いて」
サナエさんも、アラヤを落ち着かせようとする。何?俺が悪いの?納得できないんだけど!
「えー、皆様!只今より、腕相撲大会を開きたいと思います!豪華景品も用意してありますので、今から募集しますので参加したい方はお早めに‼︎」
突然、大声で呼び掛けるガルムさん。アラヤを見て、ニコリと頷く。
参加しろって言うんだね?この怒りを腕相撲に打つけろと。いいよ、やってやる。相手がドワーフだろうが、ギルマスだろうが全力でやってやるよ。
「…参加してみる。トーマスさんもどうですか?」
「おお、良いね!景品も気になるしな」
乗ってきた。今度はちゃんとトーマスを鑑定してみる。
トーマス
種族 人間 (ノーマル) 男 age 41
体力 408/408
戦闘力 225/225
耐久力 173/173
精神力 142/142
魔力 112/112
俊敏 118/118
魅力 35/100
運 22
職種 武闘家
技能 身体強化LV 2 物理耐性LV 2 覇気解放LV 1 気配感知LV 1 拳技LV 1
俺のジャミングしたステータスよりは若干強いステータスだな。…いや、待てよ?冒険者ギルドのマスターが、この程度なわけ無いだろ。大体、隠密が表示されて無いぞ?
つまり、このステータスはジャミングされているな。本人か、付き人が掛けたかは分からないけど、実力はまだ上だと考えた方が良いだろうな。
アラヤはガルムさんの元に行き、トーマスと参加すると伝える。
「うん、この街では喧嘩は全部腕相撲で解決するんだよ。以前、私とした時よりも、君は更に強くなってるだろうね。主催者じゃなければ、私も参加したいところだよ」
「まだまだ、ガルムさんには勝てませんよ」
次々と参加者が増える。まぁ、ほとんどがドワーフだけれども。貴族の護衛達も、命令で参加する事になった人達もいるようだ。
「アラヤ君」
「アラヤ、落ち着いた?」
「うん、もう落ち着いてるよ。後は憂さ晴らしで参加するだけさ」
「それじゃ、この肉でも食べて頑張って」
差し出されたのはドラゴン肉。うん、やっぱり美味い。これで更にやる気がみなぎるよ!
『筋肉捕食による技能吸収が100%に到達しました。竜鱗防壁の技能を習得しました』
このタイミングで新たな技能ゲットした!使い道があるかは分からないけど、これはいけるところまで行けって事でしょうね。流れは俺に来ているに違いないと、アラヤは信じて大会に挑むのだった。




