47話 ドワーフ流成人式
成人式当日。
四人は正装姿に着替えている。アラヤは、以前の服を仕立て直しした正装に着替えて、ナーサキ王国の貴族の襷を掛ける。それと、今はめている家紋が彫られた同じ指輪を、アヤコさんとサナエさんにも渡してある。
アラヤは、ナーサキ王国のグラコ子爵の嫡男で、アヤコはムスカ男爵の、サナエはアステム男爵の娘と設定した。
もちろん、ムスカ男爵とアステム男爵は実在していた貴族の名だ。ただ、アラヤの場合は呼ばれてもあまり違和感が無い、最も近いグラコ子爵を近いという理由で選んだ。後はジャミングで三人の姓をグラコに変えておいた。
文字や言語については、アラヤとアヤコが言語理解と感覚共有を使用しながら、歴史書を呼んで覚える練習を続けたおかげで、サナエも読み書きを早く習得できた。
ナーサキ王国が滅亡した歴史も、ナーサキ王国歴の本で覚えている。これでなりすましは大丈夫な筈だ。
「皆んな準備は良いね?会場はガルム邸で開催されるらしいから、馬車で向かうわよ」
ネネを呼んで馬車を出してもらう。その際に、アラヤ達の格好を見たカカとネネは、貴族だったのかと少し驚いたようだ。
「契約は今日までだったけど、またデピッケルに来た時は利用してちょうだいよ?」
「ありがとうございました」
土竜の帽子亭のチェックアウトを済ませて、四人は住宅街のまだ上にある豪邸通りへと向かう。
その通りにある豪邸は、アラヤ達が思っていた豪邸のイメージと違い、広大な庭に整えられた庭園や噴水ではなく、世帯主らしき彫像が、あらゆる場所に様々な衣装や格好で展示してある美術的な庭が多い。
きっと自己顕示欲が強いお金持ちが多いのだろう。
そんな豪邸が続く中、ガルム邸はよりアラヤ達の想像に近い豪邸と言えた。
大きな格子門は開かれていて、来客者用に造られたインターロッキングの駐車場には、既に沢山の馬車が停められていた。
「メリダ=ピロウズ様、アラヤ=グラコ様と奥様方、お待ち致しておりました」
バルグ家に仕える使用人の1人らしきドワーフが、かしこまった挨拶をしてきた。既に知られているアラヤの子爵名。メリダさんが事前に報告に行っていたのだ。
「馬車の移動と馬の管理は、我々が責任を持って当たらせてもらいます。どうぞ、後は式の時間まで御屋敷の方でお寛ぎ下さいませ」
四人は、馬車を彼に任せて屋敷の玄関へと向かう。庭にある彫像も少なく、それも自身の彫像ではなくて馬や虎といった動物ばかりだ。ガルムさんは近隣の豪邸主と違い自己顕示欲をアピールはしていないようだ。訪問者には良い印象だよね。やっぱり商人だからかな?
玄関を軽くノックすると、ゆっくりと扉が開かれて使用人達が出迎えてくれる。
うん。リアルメイドとか見ると、大富豪って感じがするね。
使用人の1人が、会場である広間へと4人を案内してくれる。
『緊張してきました。元の世界では、こんな体験なんてできませんもの』
『どうしよう、私に上品な仕草なんて無理だよ』
『大丈夫。騒がず、大人しくしていよう』
広場の扉が開かれると、中は立食パーティー風の会場となっていた。
バーはもちろんのこと、テーブルには様々な料理が美しく並べられ、メイド達が脇で並んで待機している。
「ああ、奥にガルムさんが居るね」
多くの人に囲まれて、全ての人に笑顔で対応している。周りにいるのはほとんどがドワーフで、商会仲間やお得意取引先の相手が殆どである。
「ほら、友人として呼ばれてるんだから、貴方達も私と挨拶に行くわよ。でも、彼をさん付けで呼んだら駄目だよ?アラヤは一応、元貴族の設定なんだから、ガルム殿と呼ぶようにね」
4人は軽く深呼吸してから、ガルムの元へと向かった。
「ガルム殿」
「おお、メリダ殿。それにアラヤ殿と奥様方も、ようこそおいで下さいました」
「この度は、御子息の御成人、おめでとうございます」
「ええ、ありがとうございます。皆様方、そう畏まらずとも良いですよ。今日は交流の場にも役立てればと、立食形式でのおもてなしにさせていただきました。存分に楽しんで下さい」
「ガルム殿、こちらの方々を我々にも御紹介頂けませんかな?」
彼を取り巻いていたドワーフの1人が、アラヤ達が気になったようだ。雰囲気的にガルムさんと同業者のようだ。
「彼はアラヤ=グラコ殿。今は亡きナーサキ王国のグラコ子爵の嫡男です。後ろの御婦人達は彼の奥方です」
「何と!あのナーサキ王国に貴族の生き残りがおられたとは!しかもその若さで三人の奥方を養っているとは…」
「私は奥方ではありませんでしてよ?」
奥方に一括りにされて、突然メリダが否定に入る。そりゃあ、俺とは嫌かもしれないけど、独身を強調する事になるよ?
「失礼、彼女はメリダ=ピロウズ殿、ピロウズ辺境伯の御令嬢で、彼の奥方ではなく御友人です」
「おお、ピロウズ辺境伯の…それは失礼しましたな」
「いいえ、私の方こそ、話の腰を折るような真似をして、申し訳ございませんでした」
「それでは、改めて今度は自身を紹介するとしましょうか。私はレギン=リトゥル。ガルム殿と同様に商会をを運営している商人です。辺境伯様にも、ごひいきにして頂いております。主に武器・防具・兵器といった軍事的な商品を取り扱っております」
武器商人か。この先、仲良くなる事は無さそうだな。というかメリダさん、辺境伯の御令嬢なの⁈辺境伯って言ったら、他国との国境付近の領地を任されている、伯爵よりも高い地位の人だよね?
「おやおや、初めて見る顔ぶれですな!ガルム殿、この私にも御紹介頂けますかな?」
次から次へと、この調子でお互いの自己紹介が続く。
『ごめん、アラヤ。私、ほとんど覚えられないや』
『俺もだよ。商工会のメンバーだけで20人。ガルムさんが副会長だから、全員参加なのは分かるけど、会長だけが欠席ってどういう事?』
武器商人から始まり、商工会のメンバー、王都の商工会会長等、商人繋がりの挨拶だけで腹一杯になってしまった。
「これは、メリダ村長ではありませんか⁈」
「マジドナ…イヤネン男爵、貴方も御招待されていたのですね」
少し離れた場所に居たメリダの元に、件のいけ好かない領主兼男爵が現れていた。
「君と違って私が呼ばれるのは、当然の事だとも。それにしても、今日は田舎の土遊びをやめて、男漁りにでも来たのかな?」
「あら、そんなつまらない御冗談はおやめになって下さい。遊戯にかまけて、街に引きこもっているばかりの男爵様に比べたら、私の土遊び等、遊びとも呼べませんわ」
その後も、何度も皮肉を打つけてはメリダに言い返される男爵を、他の人がクスクスと笑っている。この男爵、メリダが辺境伯の娘って事は知っている感じなんだけど、態々突っかかるのは過去に辺境伯との間に何かあったのかもしれない。
「ちっ!」
皮肉を全て言い返されたマジドナ男爵は、お供を連れてその場を去って行った。
『あのお供、鑑定持ち、いや鑑定士か』
辺りを見渡してみると、ほとんどの来客者には離れた場所に同伴する鑑定士が居た。
初対面の相手の素性を知るには鑑定士は打って付けだからね。
「皆さま、大変お待たせ致しました。ただ今より、この度成人する事に成りましたソーリン=バルグ様の入場です!」
辺りの灯りが消され、入り口の扉がライトの魔法で照らされる。扉が開かれ、1人のドワーフが入って来る。
第一印象は好青年。髪は短く、髭も顎にちょびっとだけ生えてる程度。背は160センチくらいでドワーフ基準では大きい方なのかもしれない。
今まさに注目を浴びているが、全く動じる事なく奥で待つガルムさんの元へと歩き出す。
ガルムさんの元に着くと、彼は振り返って来場者に深々と頭を下げる。
「今日をもちまして、成人致しましたソーリン=バルグです!今日、御来場下さった皆様方には、謹んで御礼申し上げます!つきましては、成人の儀式で討伐した子ドラゴンの肉を用意しております。是非、御堪能下さいませ!」
何、その流暢なスピーチ。10歳で成人、少し納得できる気がするよ。しかも、成人の儀式で子ドラゴンの討伐⁉︎ドワーフの子に生まれなくて良かったよ。




