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スキルが美味しいなんて知らなかったよ⁉︎  作者: テルボン
第3章 スキルが美味しいなんて知らなかったよ⁉︎
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36話 到着、フユラ村

夜中は特に敵の反応も現れず、何事も無く朝を迎える事ができた。


アラヤが、馬達に干し草を与えていると、荷馬車から声が聞こえた。


「おはようございます」


最初に起きて来たのはタオ君だった。寝ぐせもついててまだ少し眠そうだけどね。


「おはよう、タオ君。早いね」


「もう出発ですか?」


「いや、まだ後かな。モドコ店長が準備できてからだね」


「そうですか、良かった」


「ん?どうしたの?」


「ちょっとハルの事でお話したい事が…」


しばらくタオ君の話しを聞いていると、他の皆んなも目が覚めたらしく、ぞろぞろと荷馬車から降りてくる。


「おはようございます、アラヤ君」


「おはようございます、店長」


「…おはよう、ししょ~」


「うん、ハルちゃん。おはよう」


皆んな疲れは取れたみたいだね。ザックスさんはまだゴロゴロしてたけど、ハルちゃんが頬をペチペチと軽く叩いて起こしてた。それから皆んなで野営の後片付けをして、フユラ村へと再び移動を開始した。


「フユラ村には、今日の昼頃には着く予定ですよ」


「帰るのは、久しぶりだなぁ」


「ザックスさんはフユラ村出身でしたね。確か、妹さんが居るとか…」


「ああ、俺は村を出てから10年が近い。妹とは、8年前にフユラ村の酪農家の息子と結婚したらしい」


「らしいって、式には行かなかったんですか?」


「あの村はちょっと変わっててな…紅月神様を誰も崇拝して無いんだ。いや、正確にはフレイア大罪教を忌み嫌っている。だから、結婚式や出産祝いはおろか、葬式まで自分達だけで軽く終わらしちまう」


ザックスさんは、ふう、とため息をついた。村を出たのは、おそらくその辺の理由っぽいな。


「妹さんは、何故ザックスさんと村を出なかったんですか?」


「ああ、それは俺が嫌われる事をしたからな」


途端に周りから冷たい視線が向けられて、ザックスはええっ?とたじろぐ。


「何をやらかしたんですか?」


「やらかしたって…まぁ、そうだな。あれは10年前の暑い日だった。村の若い連中と集まって、曰く付きの遺跡に肝試しに行ったんだ。そこは、村の連中には昔から立入禁止の場所でさ。妹とか女達には止められたんだ。結果的に奥まで行かず、途中で怪我する奴等が出て戻る羽目になったんだけどな」


「それくらい、若い男ならよくある事ではないかね?」


店長、聞き耳立ててたのね。確かに、元の世界でも肝試しを好んでやる人達が居たね。俺はしない派だったけど。


「その後から大変でさ。村で起こる問題や不吉な出来事は全て、遺跡を荒らした年長の俺のせいにされたってわけ」


「なるほど、それで肩身が狭くなって村を出たんですね」


「まぁな。だから正直言うと、今回村に帰るのは俺は遠慮したかったんだよな」


そうは言っても、フユラ村の道案内と間を取り持つ事ができる人間は他に居ないらしいからね。

そうこう話をしている間に、荷馬車は森を抜けて草原地帯へと入った。


「モドコさん、もう少し進んだ先に村道がある。そこを左折すれば、後は村までは一本道です」


因みに、右折するとゴブリンキングが居た森へと向かっているらしい。

とうとう村に到着間近か。タオ君とハルちゃんは、やや気が落ちてきている。見慣れた景色に、ゴブリンに攫われた事等を嫌でも思い出してしまうのだろう。


「それにしても、魔物を全然見かけないな。この辺りにも、低級な魔物は普通にいたんだけどな」


確かに、今朝出発してから、気配感知にはスライムすら反応がない。村の警備が行き届いているのだろうか。


「村を囲む塀壁が見えてきましたよ」


フユラ村の塀壁は、手前に堀があるタイプで、壁自体には上に鼠返しが取り付けてある。どれも、真新しい感じがする。


「僕達が居た時には、こんな状態ではありませんでしたけど…」


「まぁ、とにかく門は開いている。このまま行ってみるとしよう」


荷馬車が門の前に着くと、フユラ村の守衛らしき男が二人現れる。


「お前達は何者で、この村に何の用だ」


「私達はヤブネカ村の村民で、貴方達の村の子供達を保護していたので、連れてきました」


守衛の二人は顔を見合わせた後、中に入るように合図を出してその場を退いた。

村の中は閑散としていて、住宅の中には人の反応はあるのに、窓の隙間から覗いてるだけで、出てくる気配はない。


荷馬車は村の中央で止まる。そこに、数人の村人達が待っていたからだ。

タオ君とハルちゃんが荷馬車から降りると、その村人達が駆け寄ってきた。


「タオ!ハル!無事だったのか!」


「タオ!お前達だけか⁈他の子達は居ないのか⁈」


二人がコクンと頷くと、ワナワナと泣き崩れる村人達。その後ろに居た一人の老人が、モドコ店長の前にやってきた。


「なぜ、この子達だけがヤブネカ村に居たのかを説明して頂けないか?」


「はい、実は…」


店長が、事の経緯を説明する。どうやら、この老人がフユラ村の村長のようだ。


「すると、ヤブネカ村の子供達も攫われて、それを村人達が救いに向かって救出したと。そして、他に捕らわれていた子達で、生きていたのはこの子等だけだったという事ですな?」


「ええ。体調も戻り、帰しても大丈夫と判断したので連れて来た次第でございます」


「先ずは、お礼を申し上げる。二人をお救い頂き、誠にありがとうございます。そして、その元凶たるゴブリンキングの討伐も、感謝申し上げる。実は、我々の大半はもう子供達を諦めておった。故に、数人の親達が王都に赴き、冒険者ギルドにゴブリンキングの討伐を依頼してきた」


「冒険者ギルドにですか?」


「ああ、既に6名の冒険者達が村に訪れ、村の塀の強化と、周辺の魔物を討伐をしておりました。そして今日、ゴブリンキングの討伐に向かったばかりでしてな」


「ああ、行き違いになってしまいましたね」


「まぁ、彼等も敵の不在が分かれば戻って来るでしょう。しかしそれよりも、よくゴブリンキングを倒せましたな。まだロードに進化していないとはいえ、村人である我々には到底勝てるような相手では無いと思いますが」


「それは、皆がいろいろと頑張ってくれたおかげですな」


そう言ってモドコ店長がこちらを見たので、老人村長が荷馬車に乗っているアラヤ達に気付いた。


「まさか…ザックスか⁈」


そっぽを向いていたのに、10年以上会ってない筈のザックスに気付いたようだ。村長は鑑定持ちじゃないんだけどね。


「貴様が居ると不幸が増える!さっさと出て行くんじゃ!」


「いやいやいや、村長さん、いくらなんでもそれは酷くないですか?彼も救出で頑張ってたんですよ!」


流石にムカついてきた。ひょっとして、子供達が攫われても、自分達が救出しようと努力すらしてないんじゃないか?


「アラヤ君、落ち着いて。…村長、彼は今やヤブネカ村のかけがえのない住人です。村の住民を無下に扱われるのは、流石に良い気持ちはしませんよ?」


「う、うむ。それはすまなかった」


「元々、村に長居するつもりはありませんので、安心してください。あと、ヤブネカ村からの支援物資を持参しましたが、必要…ですか?」


「す、すまない。お気遣い感謝する」


ザックスさんに酷いこと言ったのに受け取るのかよ⁈本当にカッコ悪いですね。店長も、別にやらなくても良かったんじゃない?


「それでですが、西の山岳地帯に入る許可をもらいたいのですけど?」


「うむ、素材採取が目的じゃな?許可はするが、自己責任で頼むよ」


ああ、許可を得る目的もあったのね。それなら、さっさとこんな村から出ちゃいましょうか。アラヤは急いで荷物を降ろした。


「師匠~!」


再び荷馬車を動かそうとしたら、タオ君が両親を連れて現れた。


「息子を助けて頂き、本当にありがとうございました‼︎」


手を握られて、凄い感謝された。うん、本当に良かったよね。なぜか、タオ君は頭を下げる両親の横で照れている。


「あれ?ハルちゃんは?」


辺りを見回すと、駆けてくるのが見えた。隣には母親らしき女性もいる。


「ししょ~、もう行っちゃうの?」


「うん、別の用事があるからね」


「あの…」


ハルちゃんの母親が、深々と頭を下げる。そして、出した言葉はアラヤの背後に向けられていた。


「兄さん、ごめんなさい!」


「別に、俺は何もしちゃいないよ」


タオ君から今朝聞いてはいたけど、本当にハルちゃんのお母さんが、ザックスさんの妹だったなんてね。


「娘を、ハルを助けてくれて、本当にありがとう!」


「だから、俺は特に何もしちゃいないって。だから気にすんな。店長、もう出発してください」


ザックスさんは背中を見せたままで、妹さんの顔を見ない。そのまま荷馬車は村の入り口へと走り出す。


「師匠~!ありがとうこざいました~‼︎」


「ししょ、また来るよね~!」


見えなくなるまで、アラヤは二人に手を振り返した。そして横を見ると、今更ながらに男泣きするザックスさんがいた。うん、これで兄妹の仲は直ったと思いたいね。

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