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スキルが美味しいなんて知らなかったよ⁉︎  作者: テルボン
第1章 異世界生活が苦しいって知らなかったよ⁉︎
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03話 惨状

 

「これで良しって感じかな?」


 三人は、緩い崖で年月により巨木が倒れてできた天然洞窟を、偶然見つけて身を潜めていた。

 たった今その入り口に、木の枝や葉によるバリケード兼明かり漏れ防止を終えたところである。


「「……」」


 奥に戻ると、二人の女子は焚き火を無言で見つめている。


「二人共、落ち着いたかい?」


「…そいつは無理だろ。いや、むしろチビは何でそんなに落ち着いてるんだ⁈」


 土田 早苗。彼女は腕の痛みは完全に無くなり、無事健康体となった所為で落ち着きが無くなってしまったようだ。ダンスをしていただけあって、そのスタイルは引き締まっている。


「な、何ジロジロ見てんのよ⁈」


「いや、もう痛みは無いみたいだなと思って」


「う、その事は、その…助かったというか…ありがとう…だけど」


 お礼を言うのは慣れていないらしく、モジモジしだした。少し可愛いな。俗に言うツンデレか?


「あの、倉戸君…」


「何?篠崎さん」


「此処は…違う世界なんですよね?」


「多分…いや、間違い無く、異世界だろうね」


「もう、戻れないのかな?」


「分からない。方法があるかもなんて事は無責任過ぎて言えないかな。大体、何の情報も無さ過ぎて夢かもと思いそうだし。まぁ、痛みを味わったから、現実なのは分かったけど」


「そうね。死ぬところだったし…」


「み、見捨てたりしないよねっ⁈」


 突然、篠崎さんが俺の腕にしがみつく。腕には彼女の胸が押し当てられている。その弾力に顔が緩みそうになる。


「と、とりあえず、ちゃんと話をしよう?」


 惜しい気持ちを堪えて三人で火を囲むようにして座ると、倉戸はポケットから袋を取り出した。


「少ないけど、食べよう?」


 それはパシリで買ったジャムパン。投げ返された時にポケットにしまっておいたのだ。しかも何の偶然か、俺はジャムパンと言っても我が校では不人気の三色ジャムパンを買っていたのだ。これは三人で平等に分けられて喧嘩も無い。嫌がらせで選んだけど、俺、グッジョブ!


「これ、ジャム量少ないんだよね。しかも、苺とブルーベリーのジャムは分かるけど、最後がバナナって…ジャムじゃなくクリームじゃない?」


「駄目だよ、早苗ちゃん。食べ物があるだけでも嬉しいのに、文句を言うのは失礼だよ。あ、私は苺でお願いします」


「まぁ、そうだね。じゃ、私はブルーベリー貰い」


「……」


 言いたい放題言われたが、おかげで聞く姿勢は整った。


「それじゃあ、先ずは俺が気を失っていた間の事を教えてくれないかな?」


「……その…チビがロッカーに押し込められてから、伊藤が来て授業を始めたんだけど、教室内が急に光出してさ…」


「床に、魔方陣?みたいなな感じの円と文字がいっぱい現れて光ってました」


「そう。教室全体が光で見えなくなったと思ったら、急に縦揺れの地震が来てさ。教室ごと投げ出されたかと思ったよ」


「その時に、女神…いや、神様だって人に会わなかった?」


「は?神?いや、誰も会わなかったし、目が慣れたと思ったら暗闇の教室で、全員パニック状態だよ」


「という事はやはり…神による異世界召喚では無く、誰かにより教室ごと異世界召喚されたという事か。…その後に、異世界人は来なかったか?」


「いいえ。ただ、先生や荒垣達の姿は無かったわ。他にも何人か居なくなってた。外を調べるって出て行った人達もいたわ」


「…召喚場所をあらかじめ分けてたのかもしれないな。残された人間は、先生や荒垣達を狙わせないようにする為の囮か」


「はぁ?何で私等が囮なわけ⁈先生や荒垣みたいな奴等が何か特別なわけ?」


「断定はできないけどね。神様主催じゃないこういう異世界召喚にはデメリットが大きいんだよ。大体、誰でも簡単にほいほい呼ぶようなものじゃなく、国家レベルで行う大召喚だと思う。そんな大規模な召喚を行う理由は、大概、この世界に無い知識や特技…神の恩恵と呼ばれる特殊技能(ユニークスキル)を持つ者を手に入れる為。理由は色々とあるけど、今は情報不足で魔王討伐や戦争目的とかに呼ばれたかは分からないね」


「…私達は選ばれなかったんですね」


 何故か、選ばれなかったという事にどこか残念そうに俯く篠崎さん。選ばれたら幸せというわけでは無いと思うけどね。


「あ、二人共、ステータスって唱えてみて?」


「「?す、ステータス?」」


「そ。視界にデジタル画面みたいなものが出て来ない?」


「…出ないよ?」


「ん~鑑定持ちじゃないと出ないのかなぁ。じゃあ、篠崎さん、俺に向かって念話って唱えてみて」


「はい。…念話」


 直後に脳の一部を固定されたような感覚が伝わる。


『おっ、できたみたいだね!思った事を念じれば、それが言葉として相手に伝わる君の持っている技能だよ。テレパシーみたいなことだね』


『お、思った事が伝わる…?はわわわわわっ‼︎そ、それは、ととととんでもない事もバレるのでわっ⁈』


『あ、いや、念じなければ大丈夫だから』


 無言で顔を赤らめる篠崎さんに、土田が俺に疑いの目を向ける。すぐさま篠崎さんに、土田とも念話をしてもらい、疑いは晴れた。


「さて、自身で鑑定をしなければ、自分の職種や技能も分からないままだという事が分かった。だから、二人には自分自身の職種と技能を教えておくよ。これを知ってる事と知らない事では、これからの生死に関わってくるからね」


 俺は二人の職種と技能を地面に木の枝で書いていく。


「伝道師…何かザビ○ルさんを思い出してしまいました…」


 それは宣教師では?まぁ、近いのか?


「踊り子って…ま、まぁ、ダンスは好きだからいいんだけど…チビみたいに役に立ちそうな技能には思えない…」


 ん~、効果は恐らくバフ効果だと思うんだけどな。いろいろ検証しないと分からないかな。ちなみに俺の職種は魔法剣士で、身体強化と全属性魔法が使えるとだけ教えた。個人情報の漏洩は控えたい。二人にはまだ、命を預ける程の信用を持てないからだ。

 特に捕食吸収。これは知られたら厄介そうだ。暴食王の技能で、他人と同じ技能を習得できるというもの。今、習得できた技能は、効果は恐らく血液を飲んだ事で発動したんだと思う。

 となると、未習得になっている亜空間収納や言語理解の為に、教室に戻って血液を舐めなきゃならない訳だが。流石にもう乾いてるだろうなぁ。欲しかったな~。多分、アイテムボックス的な亜空間収納。今更仕方ないけど、そもそも誰の技能だったんだろう。

 無いものは仕方ない。気持ちを切り替えよう。


「篠崎さんの言語理解だけれど、俺が目覚めた時に聞きなれない言葉が聞こえたんだよね。あれ、何て言ってたか分かったんじゃない?」


「あ、あれは、その…」


 篠崎さんは、何故か土田をチラチラ見る。すると土田が、はぁ~っと長いため息をついて篠崎さんに大丈夫とジェスチャーした。


「…さっき言ったと思うけど、こっちに来てから外を見に行った奴等がいたんだ。怖くて動けなくなった人達は私達以外にも結構居たし、動ける人達10人くらいで外の様子を見ようって事でさ。その中に、付き合ってたヒロ君…田中 宏もいたわけ。しばらくしてさ…6体のあの化け物が教室にやって来た。………酷い、怖い、混乱、瞬く間に教室内が地獄になったわ。私は固まっていたわ。その化け物達にはリーダーみたいな奴がいたの。見た目少し大柄の奴で、より人間に近い雰囲気だった。そいつの脇に……ヒロの首が抱えられてたの…ううっ、うぅ…ごめんなさい…」


 土田…さんは、そのまま泣き崩れてしまう。ずっと気丈に振る舞って、今まで耐えていたのだろう。


「そ、その、化け物達を避けて廊下から逃げた人達もいたんです。私と早苗ちゃんが動けずにいると、化け物達は逃げた人達を追って出て行きました。そのリーダーらしき化け物ともう一体の化け物が教室に残りました。その時、リーダーらしき化け物がこう言ったんです『コイツらはハズレだな』と日本語で。その後、田中君をロッカーに投げつけました。怒り任せに飛び掛った早苗ちゃんを払いのけ、『もう食っていいぞ!』と言った後は去って行きました」


 ああ、言語理解は魔物の言語も理解できるのか。俺が目覚めた時の状況もやっと理解できた。


「……」

  未だ泣き続ける土田さんの悲しみは、俺には分からない。大事な人を亡くす悲しみは、その人にしか分からないと思う。その人と培った時間や価値感や感情は、他人と同じ事は無いのだから。 解決できるのは、時間と心の強さだと思う。だからと言って、腫れ物を触るように俺は気を使うつもりはない。


「来た時の状況は分かったよ。明日は町か村を探す。だから早めに寝てた方がいいよ。見張りは俺がしてるからさ」


 土田さんは、泣き疲れたらしくそのまま寝てしまったが、「私も起きてます」と篠崎さんは何故か俺にピッタリと肩を付けてきたので、ドキドキが止まらなかった。

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