28話 ブルパカ
ヤブネカ村の村長宅の客間。アラヤ達三人は、村長に結婚する旨を報告に来ていた。
「へぇ、じゃあ二人と結婚するんだね?まぁ、二人は貴族の出だろうってのは分かっていたけど、アラヤも貴族だったのか。アラヤは鑑定で見られないからね。それにしても、正気に戻って、すぐ結婚って…アヤコがまた無理に押し付けてないだろうね?」
「アハハ…」
アヤコさんって、村長にも危険視されてたんだね。ショタ好きらしいから、ひょっとして勉強会でも…怖いから想像はやめよう。
「それにしても、二人が結婚となると哀しむ男共が多いね。特にサナエは人気高かったからね~」
「二人共、モテてたんだね。知らなかったよ」
「サナエは、守衛達みたいな血の気の多い男達から人気でね。あの踊りを見た奴がほとんどだよ」
「ああ、なるほど。サナエさんの踊りは見惚れますからね」
サナエさんは照れたのか、そっぽを向いてしまうが、耳が赤くなっているので丸分かりだ。
「アヤコはね、親御さん達とザックスに人気だよ」
いや、個人名は聞きたくなかったかな。よりによってザックスさんか。二回目の失恋、ごめんなさい。
「おじさん達には興味はありませんので」
アヤコさんはショタ以外は興味無しですと、バッサリと拒否する。
「あの、この国での結婚するにあたって必要な儀式がありますか?神父を呼んで挙式みたいな」
「そうね。結婚の場合は教会で、司祭の前で永遠の愛を誓うのが一般的よ」
どうやらこちらの世界も、変わらない形式のようだ。問題は、この村には司祭?や教会は無い事だな。
「この村での挙式は、どうしてるんですか?」
「ああ、この村では、この家で挙式をしてるよ。婚葬はフレイア大罪教の仕事だから、私が司祭役で大丈夫なの」
「村長が司祭って、どういう事ですか?」
「アラヤは、鑑定で私の苗字があるのを知ってるよね?」
「はい」
村長の苗字はピロウズだ。つまり、貴族か王族の家系という事だ。領主とかなら分かるけど、何で村長なんかやってるんだろう?
「私の居たピロウズ家は、親族からも司祭になった者もいるくらいの、代々フレイア大罪教派でね。私も、洗礼を受けてるから代役ができるのさ」
「それでは、司祭は村長さんにお願いします。ここで挙式をするのでしたら、更に掃除をしなきゃいけませんね。掃除と飾り付けは私に任せてください。アラヤ君とサナエちゃんは衣装の手配をお願いします」
途端に仕切りだすアヤコさん。サナエさんはムムムと堪えているが、やむなく従うことにしたようだ。
織物屋に来た二人が店の扉を開けると、ナーシャさんが上機嫌で出てきた。その姿に二人は驚く。
「「ウェディングドレス⁉︎」」
「あら、二人ともいらっしゃい。見て?絹で作ったドレスなんだけど、凄く可愛いいの」
うん。凄く似合ってる。シンプルなデザインだけど、大胆に肩とデコルテが露出している。胸元が強調されるね。サナエさんも、彼女の前や後ろに回って、可愛いと連呼している。
「ナーシャさん、そのドレス、二着無い?」
「残念ながら、生地が足りなくてこの一着しか作って無いの。それに、自分用に作った物だから、あげられないわ」
うん。もっともな意見です。大体、ナーシャさんのサイズだと、二人には大き過ぎるからね。サナエさんを見たら、何故かすねを蹴られました。口に出して無いのに、何故分かったんだろう?
「生地が無いなら仕方ない。代わりの生地で作って貰おう」
「何?ドレスが欲しいの?」
「うん。俺達、結婚するんだ。あ、アヤコさんもね。それで衣装が必要になってね」
「そ、そうなんだ…。じゃあ、挙式に着るドレスが二着と、新郎の正装が一着欲しいのね?」
「うん。絹のドレスが良かったんだけど、他の生地で良いのがある?」
「この村では普通、挙式ならブルパカの毛皮で作る衣装でやるわよ?」
「ブルパカ?」
「そう。首の長い牛の魔物でね。東の平原地帯に生息しているんだけど、そいつの毛で作る毛織物は、王都でも人気らしいよ」
「良し!それなら俺は狩りに行ってこよう。サナエさんは、幾つか衣装のデザインを考えてて?」
「分かった。でも、今から行くの?夕飯まで三時間くらいしかないけど」
「大丈夫。任せて」
今のアラヤには、前回の発掘した山の手前に広がる平原なら、片道十五分で着く自信がある。
荷車とショートソードを準備して、村の入り口から全速力で走って向かう。
案の定、十五分足らずで着く事ができた。後は、早めに目標を見つけて狩るだけなんだけど。
「お?あそこに居る群がそうかな?」
羊達の様に群れをなしている影が見えたので、そっと近付いてみる。
「うわぁ…残念な生き物がいるよ…」
おそらく、いや、間違いなくこの生き物がブルパカだろう。
首が長く、胴体部分はモフモフとした長く柔らかな毛に包まれている。外見は途中までアルパカそのものなのだが、頭と体格は牛という残念な姿。
「ンモ?」
モフりたいのに、可愛さが足りない。いや、ボーっとしてる姿は可愛いかも?
しかし相手は魔物。先頭にいた一頭が、こちらに気付いた途端に身構える。
鼻息を荒立たせ、前脚で土を蹴り突撃の準備をしだした。
おっ?ボス的な立場の奴かな?よし、相手をしてやろう。アラヤも、荷車を離れてショートソードを構えて待つ。
『お前達、見てモー?あの小さい人間なら、俺の角で空まで飛ばして見せるモー』
ああ、言語理解で魔物の話が分かるんだっけ。どうやら群の仲間に威厳を見せたいらしいな。残念だけど、それは無理だと忠告してやろう。
『ちょっと、そこのボスブルパカさん!』
『ンモッ⁈人間が喋ったモ⁈』
ボスさん以外のブルパカ達も、動揺の声を上げた。まぁ、そうなるよね。
『悪いんだけど、君達じゃ俺には勝てないよ?』
『何を言う!人間の子供なんかに俺様が負けるかモー!』
ん?かもしれないって事?どっちか分かりづらいな。
『それなら、俺に負けたら全員の毛を刈らせてもらうけど良い?』
『モ、問題無いモー!俺様、負けないモー‼︎』
ボスブルパカは、アラヤに向けて渾身の突撃を行った!
当然、アラヤは難無く躱す。
『もう一度だモー‼︎』
うん。この突撃を見れば、闘牛のように見えて、ちょっとだけ残念さが減るね。
可哀想だけど、終わらせていただきます。
「グラビティ」
『ンモーッ⁈』
途端に、ボスブルパカは地面にペッタリと突っ伏した。そこへアラヤは歩み寄り、ボスブルパカの横に屈む。
両手を合わせて一言。
『【弱肉強食】頂きます』
食べる前の挨拶をしてから、ガブリと首に噛み付く。
『ヴンモッ‼︎‼︎⁉︎』
噛んだ瞬間から、肉の繊維の食感や、血や肉汁の味等の全てが、今までに食べた事がないような旨味で溢れてきて、それと同時に体に快感が走る。
『弱肉強食により、ブルパカの全ての技能を食奪しました。技能 咆哮LV 1、集団引率術LV 1、体温調節LV 1を取得しました。咆哮は威圧に下位互換として吸収されます。威圧がLV2に昇華しました。』
「嗚呼っ!美味かった‼︎」
口に付いている血を腕で拭う。今回の快感と旨味の余韻は割と短くて、今はちゃんと正気を保っている。物足りない感じは残るけど、たぶん他のブルパカを食べても、技能も快感も何も得られないだろう。
そもそも、ピクピクと痙攣するボスブルパカを見て、仲間達のブルパカは震えている。これを更に襲って食べる気には、ちょっとなれないな。今回は毛が目的だしね。
「ヒール」
とりあえず、痙攣しているボスブルパカを完治してあげる。
『では、約束通り毛を全員刈らせてもらうからね?』
『ンモッ‼︎分かったですモー…』
バリカンは無いので、雑だけどショートソードで次々と毛を刈っていく。荷車に山盛りの結構な量が集まったよ。
『ああ、それと、毛がまた良い長さに生え伸びた頃に、また来るかもしれないから。その時はよろしくね?』
『ンモモモ…‼︎』
言葉にならないくらいに震えてたけど、寒かったかな?体温調節の技能があるからきっと大丈夫だよね?
これで衣装の材料は手に入れたよ。因みに、ボスブルパカの毛は血が付いてたので刈らないであげたよ。だって、技能無いからね?




