191話 ソーリンの戦い
「遅い…まだ坑道を抜ける正規ルートは分からないのか!」
坑道の分岐広場。
帝国の兵士達が、所狭しと隊列を組み待機している。
分岐広場には、50を超える分岐坑道があり、土地勘が無い彼等には鉱山からの出るルートが分からなかった。
全ての坑道に人員を割く訳にもいかないので、3人1組として5つの坑道ずつに調べさせているのだ。
「ラズエル少佐、1つの坑道に入った組が帰ってきません」
調査も坑道数の半分に差し掛かった頃、待てども兵士が帰ってこない坑道があった。
「良し、そこに10名を送り込め」
その坑道は狭く、兵士達は1列になり進んで行くと、彼等の前に違う分岐広場が見えた。しかし、先頭の兵士がそこへ足を止める。坑道の出口付近に、気配を感じるのだ。
「早く進めよ」
警戒していた兵士を、後続の兵士が押し出した。広場へと押された兵士は、窪みに躓いて前のめりに倒れた。
「何するんだ!押すな…よ?」
その倒れた目の前に、先行して戻っていない兵士達が縛られて気絶していた。
「おいおい転ぶなよ、鈍臭い奴だな~」
振り返ると、後ろに居た兵士達が笑いながら入って来る。その入り口を取り囲むようにして、5人のドワーフ達が隠れていた。その手にはマトックが握られていて、入って来た兵士の1人を一撃で打ちのめした。
「くっ‼︎ドワーフが待ち伏せてるぞ‼︎」
兵士の1人が、隙を見て直ぐ様報告に戻る。残された兵士達は、更に現れたドワーフ達に囲まれ、一斉に斬りかかるも身体能力が高いドワーフには当たらず、蹴りの1つで吹き飛ばされてしまう。
「ノーマルが、次から次へと出て来るのぉ?レミーラの言う通りだった。しかも此奴等の言語、全く分からんの!帝国の者かの?」
「フン、何処の誰だろうと関係無いわ!儂等の鉱山を荒らすとは、タダじゃあ済まさんぞ!」
ドワーフ達も、奥から次々と現れる。今日は、雷雨明けで久々の仕事だと、多くの鉱夫が鉱山に出て来ていた。
「レミーラの話じゃ、凄く多い数が居るらしい。此処に繋がる他の坑道からも来るかもしれん。そこにも向かおう!」
この分岐広場の1つの坑道を抜けると、鉱山から出る事ができる。彼等は、地の利を活かしてこの場で食い止めなければいけないのだ。
「1人は街長に連絡しに向かえ!」
1人の鉱夫が鉱山から出ると、心配そうにしているレミーラ=バルグが入り口に居た。
彼女は最近、鉱山へ鉱石発掘に来ていて鉱夫達とは顔見知りになっていた。
「中は大丈夫でしたか?」
「いいや、お前さんの言った通り、帝国の人間がわんさか居るようだ。最奥に居た2人は、やはりやられた様じゃな」
「そんな…」
「そうじゃ!お前さんが街長に報告してくれ!ワシも戻り戦わねばならんでの!」
その表情は既に闘争本能剥き出しで、高々と笑いながら走り戻って行った。
レミーラは、こうしちゃいられないと、デピッケルの街長の下に走り出した。
街長が居る役所は、繁華街がある商業エリアに有り、父の店(武器屋)の近くにある。
「おや?レミーラ、そんなに慌ててどうしたんだい?」
息を切らしながら役所に着いた彼女は、背後から優しく声をかけられた。
「ああ、ソーリン兄ちゃん。ちょっと街長に急ぎの報告があって…」
「そうか、じゃあ連れてってやる」
「えっ⁉︎」
彼女はいきなり担ぎ上げられ、いわゆるお姫様抱っこの状態で、役所の中に入り階段を駆け上がっていく。レミーラは、注目を浴びて赤くなった顔を隠している。
「失礼します」
止める秘書を無視して街長室の扉を開けると、侵入者であるソーリン達に拳銃という名のガールベルク領産の武器を向けている街長が居た。
「何だ、バルグ商会の倅か…」
侵入者がソーリンだと分かった街長は、向けていた拳銃を下ろした。
「急ぎの報告にて、ご無礼をお許しください」
街長は椅子に腰掛けると、その鋭い眼光で2人を睨んだ。
彼はドワーフでは無い。しかし、威厳と風格は誰をも抑えつける存在だった。
しかし、事は一刻を争う。レミーラは怖くとも言わねばならない。
「あ、あの!鉱山の奥から帝国の兵士が大勢現れたんです!」
「何⁉︎それは、どういう事だ?」
「そ、それが、今日の朝に例の声が聞こえて、私は鉱山に向かったんです。そしたら、声もハッキリと聞こえて…」
「ちょっと待て。その例の声とは何だ?」
「街長、このレミーラは、精霊言語という技能を最近修得しまして、鉱山に住む精霊達からの声が聞こえるのだそうです」
これは、彼女が鉱山に入り浸る様になった頃に、伯父のガルムの鑑定により分かった。肝心の精霊の姿は見えないが、彼女が鉱山に発掘に来ると、探している鉱石の場所を声で教えてくれるようになっていた。
「その精霊達が、古竜の寝床の奥からいっぱい来るって言ったんです。多くの人間達がやって来るって」
「それが現実になり、帝国兵が現れたと?」
「はい!兵士が街に来ない様に、今、鉱夫達が足止めしています」
街長は少し考えると、机の上にあったベルを鳴らした。すると直ぐに秘書が部屋へと入って来る。少しソーリンを軽く睨んだが、気を取り直して街長の前に急いだ。
「今から警護兵を鉱山出口に向かわせ、街への出入り口の守りを固めよ。冒険者ギルドにも触れを出し、鉱山内部の帝国兵の捕縛の依頼を出せ。最悪の場合、坑道を閉鎖して構わない」
「私も行きましょう」
ソーリンは鉱山に向かう事に名乗りを上げた。街に被害が出ない様にしなければならない。守らなくてはならない者が、今の彼にはあるからだ。
「無理はしないでくださいね?」
レミーラが心配そうにそう言うが、ソーリンは大丈夫だと笑顔で返した。
10名程の冒険者を連れて、ソーリンは鉱山の中へと入った。中からは、既に戦いの声と音が聞こえてくる。
「坑道は狭い。君達5人は最後の要のこの出入り口を守ってくれ。残りは私と奥に進もう」
ソーリン達が奥へ進んで行くと、分岐広場で乱戦している最中だった。
負傷しながらも大暴れするドワーフ達に対して、帝国兵士達は連携して戦っている。坑道の通路での有利性は既に無く、次から次へと現れる兵士の数に、対応が出来なくなっていた。
「坑道は任せてくれ!」
使い慣れたハルバードを片手に、ソーリンは坑道にいる兵士を斬り付けた。
今のソーリンには、不安は無かった。何故なら、アラヤから貰った数々の魔鉱石と、カーゴツナギ風耐魔戦闘服を着ているからだ。
直ぐに坑道を走って来る兵士達に、彼はフレイムを放ち追い返す。こうして戦っていると、アラヤ達と戦っていた時を思い出す。
「此奴等一体、何人居るんだ⁉︎」
キリがないと喚く鉱夫達には、連戦で流石に疲労が見える。
ソーリンは、1人坑道を突き進み、敵の全体を見ようと考えた。
槍技とフレイムで戦い進むと、鉱山の中腹に当たる分岐広場に出た。そこでソーリンは驚愕してしまう。
広場には、所狭しとまだまだ兵士が集まっていたからだ。
「全くもって腹立たしいドワーフどもだ!後続の部隊が到着する前に終わらせるつもりだったというのに!」
おそらくは上官であろう黒尽くめの兵士が、分からない言語で怒りを露わにしている。その彼の後ろに、魔術士らしき部隊が20人程更に現れた。
「…ハァ、こうするしか無いか…。許せ、ナーシャ…‼︎」
ソーリンは振り返り、坑道の入り口を破壊して崩落させた。これで奴等は簡単には出る事は出来ない。もちろん、彼自身も出られないが。
「道連れになってもらうぞ‼︎」
ソーリンは崩壊の嵐の魔鉱石を使い、兵士達へと放つ。
多くの兵士達が氷塊と砂嵐に巻き込まれて重傷を負うが、素早く対応した魔術士達の魔法防壁が嵐を消し去る。
直ぐに反撃が始まり、兵士達が次々と斬りかかってきた。
ソーリンは、槍捌きと魔鉱石の魔法の連発で何とか粘るも、腕や足に傷を負っていく。流石にこの数の暴力には勝てる見込みは無い。
「コイツは俺が殺る」
黒尽くめの帝国少佐ラズエルが、抜剣して向かって来る。それに伴い、兵士達は離れていく。
一騎討ちのつもりか?それは好都合だと、ソーリンは渾身の槍突きを放つ。
「未熟!」
一瞬にして、ハルバードの柄が斬り落とされる。だが勢いを止めずに、ソーリンはその柄で突き上げを狙った。
「甘いわ!」
掴まれた柄を持ち上げられ、腹を蹴り飛ばされる。この男の蹴りは、ドワーフと変わらないくらいに強力の様だ。肋骨が数本肺に刺さったらしく、ソーリンは吐血する。
「ここまでか…」
もはや立ち上がる事もできないソーリンに、ラズエルは剣を向けた。
彼が死を覚悟したその時、広場内に光の柱が数箇所に現れた。
「あ!居た居た!探したよ、ソーリン!」
光から突然現れたその人は、ソーリンの横へとトコトコと無警戒に歩いて来た。
「アラヤ…さん?」
「バルグ邸や商会にも行ったんだけど、誰も行き先知らなかったから、随分と探したよ~」
状況が飲み込めないラズエルは、何故自分は大人しく見ているのだ?と気付き、その掴む剣を横に薙ぎ払った。
「…久しぶりの再会を、邪魔しないでくれるかな?」
薙ぎ払った筈の剣は、その子供の様な男の指で挟み止められていた。その手の甲は鱗状で、力はドワーフの様に強く微動だにしない。
「アラヤ、久しぶりの再会話は後にして、ひと暴れしましょうよ?」
サナエはチャクラムを取り出し、久しぶりの戦闘にウズウズしている。それは、カオリやクララも同じ様だ。いつから、ウチの嫁達はそんなに戦闘好きになったのかね?
「そうだね。ソーリン、話は後だ。直ぐに終わるから待っててね?」
その後ソーリンは、目の前で繰り広げられる光景を、懐かしく思い、且つ非現実差を増したなぁと思うのだった。これぞ正しく、蹂躙と呼ぶのだろうと1人頷くのだった。




