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スキルが美味しいなんて知らなかったよ⁉︎  作者: テルボン
第2章 魅惑の生活が怖いって思わなかったよ⁈
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19話 討伐収拾

「子供達は全員居たよ」


「そっか。ありがとう、サナエさん」


サナエさんに、料理を運ぶ際に居なくなった子供がいないかを確認してもらっていた。

だけど、全員ちゃんと居たようだ。どうやら杞憂だったみたいだな。


「あ、村長。ちょっと頼みたい事があるんですけど」


丁度、後ろを通り過ぎるところだった村長を呼び止める。


「何?もしかして逢引の誘いかしら?」


「違いますよ。作って欲しい陶磁器があるんですけど、お時間ありますか?」


「あら、依頼?別に構わないけど、代わりに私の仕事をしてもらうわよ?」


「村長の仕事ですか?」


「いいえ。陶芸家としての仕事よ。まぁ、詳しくは食べてからにしましょう」


言われた通り、アラヤは昼食を済ませた後、村長宅の裏にある工房に呼ばれてやって来た。そこには、職人スタイルの村長が待っていた。


「来たね。先ずは依頼の絵か製図。後は使う用途を教えてもらおうかな」


アラヤは、近くにあった製図板(前世界の黒板に似ている)に次々に絵を描きこむ。


「お願いしたいのはこれらです。用途はトイレ。こっちが便座で、こっちが貯水タンクです。レバーや浮弁となる部品が、この二つで、レバーを動かす事で浮弁が上がり、貯水タンクの中に溜めた水が便座へと流れます。その流れで汚物を押し出して処理します。水洗トイレと呼ばれる物です」


本来なら、タンクに水を引き込む為の水道と浮き玉が必要だけど、水路完備は大型事業だ。この村ではとても現実的ではない。だから、今は魔法や桶で水を溜めるタイプが無難だと思う。


「へぇ。これを完成したらガルムに売り込む気か?」


「いえ、そこまでは考えてませんでした。だけど、成功したらガルムさんに話すのも有りですね」


「よし、分かった。求める形と強度で作ってみよう。それじゃあ、今度はこっちの要求だけど、ある場所の陶石と土を取ってきてほしい」


「陶石と土ですか?」


「ああ。私の磁器作りには欠かせない陶石だ。それと土が少なくなってきてね。補充したいって事だよ」


「分かりました」


「場所は、この村から東に進むと一つの低い山がある。その山には断層が見えている場所があり、良質な陶石と土が沢山ある。そこを掘って、多くを持ち帰ってほしい。道具と台車は外にあるから、早速頼むよ」


そんな気はしたけど、やっぱり今から行く事になった。今日の午後の仕事は酪農家の手伝いで、ミルクの試し飲みをさせてもらえる楽しい仕事だったのに。


「普段は三人くらい守衛を連れて向かうけど、坊やは一人でも大丈夫かもね?」


「その判断はよく分かりませんが、とりあえず行ってきます」


外には荷車があり、その上に鍬・ツルハシ・スコップと全て揃えて乗っている。 村長が愛用しているのだろう。大分年季が入っているのに、どれもよく手入れされている。



アラヤは、村の入り口に居たザックスに声を掛ける。


「今から、村長に頼まれて東の山に向かうんだけど、何だかやる気無いみたいだね?」


「ん~?二日酔いが残ってるんだ…」


まだ立ち直れて無いのだろうか。しかし、そんな状態で仕事をされても困るんだけど。


「それで、ライナスさんは?」


「…彼奴はベスとイチャついてるみたいだぜ。全く、毎日毎日会いに来ては出かけてやがる。仕事しろってんだ!」


いや、あんたもな!とアラヤは心で突っ込んだ。ここでこのまま愚痴を聞いてても仕方ない。


「それじゃ、行ってくるね」


ぶつぶつ言っているザックスをほっといて、アラヤは東の山に向かった。

道中は、平原地帯だったので急ぐことができる。ここで初めて無属性魔法を試してみることにした。無属性魔法は主に、重力操作と補助魔法が多いようだ。

代表的とも言える加速魔法ヘイスト。身体の体重減と、筋力強化による加速というものだ。加速時間はさほど長くは無く、魔力消費は高めなので多用は禁物だ。

しかし、今回はヘイストから分岐したムーブヘイストを使用してみる。これは加速を脚力にのみに限定したヘイストで、効果時間も長くて魔力消費も少なめである。


「ムーブヘイスト!」


荷車の車輪にも負荷が来るだろうと思うので、補強の意味も込めて掛けておく。


「よーい、ドンッ!」


勢いよくスタートしたアラヤは、既に人間辞めちゃってるレベルの速さに驚く。


「私達、風になってる!」


何故か複数形で叫んでみたが、その声を正確に聞き取れる者は居ないだろう。なので、恥ずかしい事も悪口も叫び放題だ。ストレスが溜まったらオススメだね。

あっという間に目的の山に到着した。しかし、アラヤはグッタリと膝を地に着けていた。


「う……気持ち悪…」


加速した下半身と、変化しない上半身の感覚の差に、脳が追いついていなかったのが原因かもしれない。これは慣れるまで時間がかかりそうです。


「…気を取り直して、発掘を始めないとな。先ずは断層を探さなきゃ」


断層を見つけるキッカケは直ぐに分かった。荷車でできたであろう轍を発見したからだ。数ヶ月前のものから、何年か立つ轍もあるみたいだ。どれも同じ場所へと向かっている。

道中、ホーンラビットを見かけたが、今回は目的が違うので隠密を使い避けて通る。

やがて山の中腹の辺りで、目的の断層を見つけた。所々に掘り起こした箇所があるので間違いないだろう。

断層に鑑定を使用すると、様々な層に陶石の反応が無数に見つかる。粘土に使われる赤褐色の土も直ぐ側にある。村長や俺は鑑定があるだけで、無駄な場所を掘る必要が無いから大助かりだ。

俺の場合、掘り起こして掻き出した土を、アースクラウドでそのまま荷台に移動できるから、更に一手間楽になる。

陶石は木箱4箱に山盛り、残りは土を積めるだけ積んだら、荷車がギシギシと悲鳴を上げ出している。無属性魔法グラビティを使用して、重力を軽くする。これで何とか壊れずに帰れるだろう。


「⁉︎」


突然、索敵に反応が現れた。その数は12。アラヤの背後に立ち退路を断つように並んでいる。振り返ってその姿を鑑定で確認する。


「ストーンハウンド⁉︎」


待ち構えていたのは犬型の魔物。但し、皮膚はゴツゴツとした石材の皮膚だ。鉱石や石材を好物としている。どうやら、餌を大量に取られてご立腹らしい。


「エアカッター」


奴等の皮膚は堅過ぎて、風の刃は通らない。おそらく、炎系も効果は薄いだろう。


「さて、どうするかな…」


「ガルルルッ‼︎」


次から次に、飛びかかるストーンハウンドを躱しながら、アラヤは水属性のバブルショットを当てていく。しかし、本来なら窒息を狙う魔法なので、動き回る奴等には当然大したダメージは与えられない。


「だけど、これならどうだ?サンダーランス!」


「ギャウン‼︎」


濡れた体に走る電撃。流石にこれはダメージが通って、口から煙を出して次々に倒れた。硬い魔物には、この戦い方も有りだね。


「さてと、そろそろ帰らないと夕飯に間に合わないな」


倒れたストーンハウンド達はまだ息があるが、別にわざわざトドメを刺す必要も無い。何より魔力をこれ以上消費すると、帰りのムーブヘイストとグラビティに影響が出そうだからね。


「よーい、ドン!」


再び、ロケットスタートで走り出し、村には夕飯前に帰り着いた。行き程の酔いも無く、意気揚々と村長宅に荷車を運ぶ。


「村長、ただ今帰りました」


工房から村長が顔を出して、アラヤと荷車を交互に見る。


「一人でこの量を運んだのか?しかも夕飯の時間になる前に…あんた、ひょとして実はドワーフだったりするんじゃないの?」


自分が、一人でも大丈夫かもって言ったのに、その驚きは違うんじゃありませんか?人間ですよ、一応。ハイが付いてるけどね…

俺、人間辞めちゃってるのかね…?

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