184話 魔力玉の味
翌朝、ファウンロド宅の呼び鈴が押され、光精霊が部屋を駆け回る。
『起きて~、お客様だよ~』
ファウンロドが水晶玉を確認しに行くと、水晶玉に写る来訪者は村長のアルディスだった。
「おはようございます、村長。朝早くにどうしました?」
「おはよう、ファウンロド。早くにごめんなさいね。ちょっとアラヤ様達とお話がしたいのだけど、面会できないかしら?」
「彼等はまだ寝ていますので、しばらくお待ちください」
一度通信を切り、アラヤ達の下に向かう。あの呼び鈴で、当然の様にアラヤ達も起きていた。
「話は聞いてたよ。彼女を上に呼ぶのはやめておこう。イシルウェ達が居るからね。俺達が下に降りるよ」
ファウンロドと共に、巨大樹の根元まで葉絨毯を落下傘代わりにして投下した。
この高さは、前世界のバンジージャンプでも無いんじゃないかな?風精霊が居なければ即死だね。
「来て頂きありがとうございます」
降りて来たアラヤ達を迎えたアルディスは、彼等の後ろをチラチラ見る。どうやら、イシルウェの姿を捜しているみたいだ。居ないと分かると、少し残念そうな表情を見せたが直ぐに戻した。
「実は本日、皆様に村からの御礼とした宴の場を用意しております。午後より、村の広場にて開催致しますので、御参加をお願いいたします」
「わざわざ宴を?そこまでしていただかなくても良かったのに」
「もちろん、皆様に合わせた肉料理も多くご用意致します」
この村の料理はどちらかというと野菜メインだから、正直物足りないと感じているアラヤは、最後の肉料理というワードで口の中に唾液が溜まった。
「それと、これが本命なのですが、一般の方にはおそらく生涯会う事ができない方との謁見をお願いしたく…」
「ええっ⁉︎村長、宜しいのですか⁉︎」
これにはファウンロドが驚愕している。彼がここまで驚くのだから、余程の人物だと見える。
確かに、世間からは隠蔽している村なのだから、高貴な方が身を潜めている可能性もあるな。
でも、そんな方と会ったところで、アラヤ達の得になるとも思えない。
「いやいや、会わなくていいですよ?俺達みたいな余所者が、その様な高貴な方とそもそも会う事は避けるべきですよね?」
厄介事にもなりかねないと考えたアラヤは、断るべきと考えたのだ。
「…すみません、正直に申し上げますと、通常なら確かに避けるべき事です。彼の方を隠し保護する事が、村長としてこの村に残る理由の発端ですので」
「それなら…」
「ですが、この謁見は彼の方も希望しておいでです。件のお話しをした際に、貴女様に大変興味をお持ちになりまして。それと、こちらは私個人の要望なのですが……チャコ様の同伴をお願いしたく思います」
「チャコを?」
アラヤ自身に興味を持つ事は、手前味噌じゃないがそれとなく分かる。他種精霊達のパートナー持ちという時点で、興味は立つだろう。しかし、人間の幼女を同伴してと言うのはどういう事だろう?
「どうしてか、理由を聞いても?」
「……イシルウェの為…チャコ様の為にとしか言えません」
グッと何かを堪えている様なアルディスに、パートナーの風精霊がそっと背中に触れる。
『私からもお願いするよ。何とか、貴方達の方でイシルウェを説得してくれないかな?』
「う~ん、本当に2人の為になるんだろうね?」
アラヤは、2人をまだイマイチ信用できないのだが、今回は嫁達が賛成派に加わった。
「きっと大丈夫だよ、別にアラヤみたいに、取って食おうなんてしないよ?」
「そ、それちょっと酷くない?…まぁ、分かりました。一応、彼を説得しますけど、身の危険や不審な行動があれば、俺達は彼等を連れて出て行きますからね?」
「ええ、ありがとうございます」
アルディスは深く頭を深く下げると、モースと共に帰って行った。
「ファウンロドさん、彼の方ってどんな人?」
「うっ、それは口に出せないというか…公で名前を呼んではいけないというか…」
なんかそのフレーズだと、某小説の悪役魔法使いみたいだな。まぁ、彼等の態度からすると、危険な相手では無いのだろうけど。
「と、とにかく、村人すら気軽に会う事が叶わない方で、謁見できるのはとても名誉ある事だと思うよ!」
「そっか。まぁ、俺には宴で沢山の料理と出会う事の方が嬉しいけどね~」
「にいやは、そればっかしだし…」
「村の蓄えが心配ですね…」
「えっ?そんなに食うの⁉︎」
アラヤ達が冗談を言って笑っていると、突然ファウンロドが膝から崩れ落ちた。
「ぐ、ぐぅっ⁈何だ⁉︎急に体が重くっ?」
アラヤ達にも僅かだが、重力に抑え付けられる感覚がある。これはグラビティか?
『アラヤ、見つけたわ』
闇精霊が、茂みの奥から少し大きなカタツムリを逆さまに持って現れた。どうやら無属性精霊の様だ。
『お、下ろすんだなぁ?頭に血が上るんだなぁ』
『じゃあ、このグラビティを解きなさいよ』
風精霊とファウンロドが得に重力に抑え付けられている様だ。その後直ぐにグラビティは解除された。
『ご、ゴメンなんだなぁ。知っている顔に似てたんだなぁ。だからついやっちゃったんだなぁ』
『知らないわよ~!もうっ!』
「まぁまぁ、落ち着いて」
膨れるシルフィーを宥めて、アラヤは逆さまの状態から戻すようにエキドナに頼む。
「それにしても、君はこの前の無精霊かな?」
アラヤからマジマジと顔を覗き込まれた無精霊は、恥ずかしそうに頷いた。
「む、無属性にも、精霊が居たのか⁉︎初めて見たよ!」
ファウンロドも驚き殻を触ろうとするが、パートナーじゃないので当然触れない。もどかしく思ったファウンロドは、魔力玉を作り差し出した。
「私とパートナーになる気はないかい?」
無精霊はファウンロドとアラヤを交互に見ると、触角同士を打ちつけてパンパンと鳴らした。
『ど、どうせなら、2人の魔力玉の味で決めたいんだなぁ』
『この殻野朗、焼いて食べるか?』
火精霊が、調子に乗るなと髪の火を荒げる。されど、ビクビクしながらも無精霊は続けた。
『ぼ、ぼ、僕にだって、え、選ぶ権利はあるんだなぁ?皆んなだって、そうじゃないのかなぁ?』
「アラヤ君、確かに無精霊の言う通りだよ。ここは公平に、魔力玉で選んでもらおう」
いや、まだ俺は誘っていないんだけどね。流れ的に競う事になってるし。まぁ、誘うつもりではあったから良いけど。
アラヤは、ファウンロドが作り出した同程度の大きさの魔力玉を作り、その横に並べた。
ゴクリと唾を飲み込むサラマンドラ達が見守る中、無精霊は二つの魔力玉の前に立つ。
『先ずはエルフの魔力玉を頂くんだなぁ』
魔力玉をパクッと口に咥え込むと、モグモグと美味しそうに味わっている。
『風の魔素が多く含まれてて、後味とてもサッパリとした味わいなんだなぁ!とても美味しいんだなぁ!』
魔力玉が後味サッパリって、意味がサッパリなんだけど、あっさり風味って事かな?
『続いて変わった人間の魔力玉を頂くんだなぁ』
再び口に咥え込む無精霊は、その動きを止めた。途端に目に涙を浮かべる。
『美味ぁいんだなぁ!いろんな魔素が含まれていて、特に闇の魔素が後味引いて、まさに病みつきになりそうなんだなぁ!』
無精霊のトロンとした悦に浸る表情を見て、ファウンロドは己の負けを悟った。
『エルフの魔力玉もとても美味しかったんだなぁ!だけど、この人間には絶対に勝てないんだなぁ!でも、自信を持って良いんだなぁ!』
「ぐ、ぐぅっ!慰めにもなってない⁈し、しかし、それは認めなきゃならないだろうな。それに、私にも一応、中位風精霊が3人居るし、光精霊も従えている。それなりには美味しい筈…。アラヤ君、…絶対に引き抜かないでくれよ?」
「し、しませんよ!」
『最早、中毒性のある悪魔の食べ物なんだなぁ!誘えばイチコロだと思うんだなぁ!』
ファウンロドの不安を煽る無精霊を、サラマンドラ達が取り囲む。どうやら皆んな御立腹らしい。
『そんなに増えたら俺等の取り分が減るじゃないか!』
『私は認めないからね~』
『もう少し配慮が必要だと思うぞ』
『何故上目線?…何様、かしら?』
『みなさん、せっかくのあたらしいなかまですから、おんびんに…』
『焼いたカタツムリ…食べれるかも…』
『ご、ゴメンなんだなぁーー⁉︎』
宴を前に、アラヤ達に新しい仲間が加わった。無属性精霊のカタツムリ、名をスカルゴと名付けた。
これにより、アラヤは全属性の精霊達と契約した事になったのだった。




