174話 里帰り
イシルウェの故郷に行く事が決まったのだが、ミヤウツの街から後戻る事となった。戻る先はオードリーの故郷のウラスガミ村だ。
「まさか、ウラスガミ村の近くだったとはね。イシルウェも、言ってくれれば良かったのに」
「いや、元から寄るつもりは無かったからな」
イシルウェは気落ちしているのか、明らかに声のトーンも下がっている。それ程に帰りたくないのかな?ちょっと悪い気がするけど、彼とは対照的にチャコはウキウキしている。
「今思えば、妙に急いで移動する事も無かった。オードリーも行きはごめんね。せっかく来たから、故郷でゆっくりしたかったでしょ?今度は急がないから、自由にして来て良いよ?俺達は、村の外で魔物狩りでもして待ってるから」
「故郷と言っても、教団に入る前の5歳までですので、そこまでの愛着は無いのですが…。そうですね、せっかくなので墓参りでもしてきます」
ウラスガミに着いたアラヤ達は、オードリーと別れて村の近場に野営シェルターを作り上げた。
「さて、待っている間、久々に魔物狩りで新たな技能を探してみようかな?」
アラヤがクララの背に乗ろうとしていたら、アフティが走って来た。
「私もご一緒させて下さい!」
アフティの狙いは新たな従魔を作る事みたいだ。羅刹鳥はあくまでアラヤ達の従魔なので、自分の従獣か従魔が欲しかった様だ。
「良いよ。さぁ乗って?」
「クララ様、すみません」
「行きだけ。帰りは、従えたものに、乗りなさい」
なんだかんだ言っても、クララは腰をさげてすんなりと乗せてくれた。単にアラヤの前でのアピールをしただけなのだろう。
「さて、私達は少なくなった魔力電池や魔鉱石作りに取り掛かりましょう」
アヤコ達は減った消耗品の補充と、傷んだ椅子や皿等の修理に取り掛かった。検査した結果、妊娠していなかったサナエも参加している。ただ、本人はかなり落ち込んでいる。
「サナエちゃん、確かに今回は残念だけど、アラヤ君が言うように、親になるには私達はまだ若すぎます。20歳になったら解禁できる様にアラヤ君を説得しましょう」
「んー、それじゃダメよ。家を確保した後しばらく動かないなら、今がチャンスなんだよ?アラヤには、18歳になったらって皆んなで一緒に説得しよう?」
仮の未来とはいえ一度は確かに身籠ったいう感覚が、彼女を執拗にしている様だ。
「…分かりました。でも、それなら誕生日を調べなきゃいけませんね。私は前世界の誕生日が、10月6日ですから…紫竜月ですね。あら、私はもう18歳なってましたね」
「私はクリスマスだから、12月の白竜月で後2日じゃない!月日を気にしてなかったから、すっかり忘れていたわ」
「でも焦ってはダメです。先ずはアラヤ君の言質を取ってからにしましょう。彼をその気にしないと、更に引き延ばされるかもしれませんから」
ムフフと怪しい笑みを零す2人に、ハウン達は若干引いている。
「あ、そうでした!ファブリカンテ、ちょっと良いですか?」
「はい、なんでしょうか」
「貴女が作るツワリの緩和薬、調合に海藻類が多いのは免疫力を上げるから良いんだけど、ケンゴウカジキ(カジキマグロ)の吻の粉末は入れたらダメですよ。あれには、メチル水銀が多く含まれていますから」
「ツワリの緩和薬ですか?それにめち…?ケンゴウカジキは栄養豊富で、様々な滋養薬に多く使われています。ツワリ時には、入れない方が良いのですか?」
「大量摂取はダメって事。胎児はとても敏感で、水銀中毒を引き起こしてしまうの」
この世界で、メチル水銀の事を話しても分からないだろう。だがサナエには、先に見た未来でアヤコが行った行為が、この事だったのだと理解した。
「アヤ…」
「さぁ、そうと決まれば作戦会議ですよ?先ずは、精の付く食べ物から仕掛けていきましょう」
女性陣が盛り上がる中、チャコはイシルウェの姿が無い事に気付いてシェルターから外を覗いた。
すると、盾を持つ大っきなアスピダと、飛竜達の世話をしているイシルウェを見つけた。チャコが飛竜を怖がっている為、その世話をイシルウェがしているのだ。
「アスピダ殿、その古い盾はかなり重くなった様に見えるが、新しい盾はアラヤ殿からまだ頂いてないのかね?」
「まだ試験段階らしいです。なんでも、生きた状態を保つ方法がまだ確立出来てないとか…。それに、この死んでしまった盾も、元はアラヤ様自身の皮膚から出来た物。重さはありますが、硬さは竜鱗で盾の最高クラス。もはや私が守られている様で、捨てる等有り得ませんからね」
何やら話しをしているのは分かるけど、飛竜が怖くて近付けないチャコは、雪の玉を作ってエイッとイシルウェに投げた。
「あっ…!」
しかし、雪玉は的外れな方へ飛ぶと、フワフワと宙に浮いたままになった。
『雪玉合戦したいの~?』
チャコには見えないが、風精霊が雪玉を掴んでクルクルと回していたのだ。
不思議そうに雪玉を見つめるチャコを見て、シルフィは悪戯心が擽られた。
『ンフフ~、ちょっと面白いかも~』
雪玉を浮遊させながら、チャコの周りをグルグルと飛んで彼女の目を回させる。
『仕上げは、こんな感じっ!』
雪玉は空高く登って行き、あっという間に見えなくなった。
「飛んでっちゃった…」
少しして、再び白い玉がゆっくりと落ちて来るのが見える。しかしそれが、投げた雪玉とは全く違う大きさになっていた事に気付いた。
『あ、あれ?やり過ぎちゃったかも…』
シルフィは、上空で風で雪を集めて大きくしたのだ。ただ、予想以上に集まってしまい、巨大雪玉となってしまった。
「パ、パパ‼︎大っきな雪玉が落ちて来るよ~!」
「おお、チャコ。飛竜に興味が出て来たのか?」
「違うの!上、上なの~っ!」
チャコの指差す先を見ると、確かに大きな雪玉が落ちて来るのが見えた。だがしかし、その大きさはシェルターと同等の大きさだった。
「な、何ーーっ⁉︎」
驚き固まるイシルウェ達を、アスピダは庇う様に盾を突き上げて構えた。
『もう、情け無いわね』
雪玉は、真上で突然寸断され、イシルウェ達には当たらずに落ちた。
イシルウェは声がした方を見上げる。そこには、シルフィーではなく、チャコくらいの大きさの風精霊が、ニヤリと笑っているのが見えた。
『久しぶりね、イシルウェ。貴方が里を出てから10年振りかしら?』
『くっ…。モースか。君が居るって事はまさか、奴も近くに居るのか⁉︎』
イシルウェは、辺りの巨木を急に警戒しだした。それを見たモースはフフフと笑う。
『残念だけど、彼女は居ないわ。未だに、いいえ、貴方が出てからは異常なくらいに、とても会いたがっているけどね?』
ブワッと鳥肌が立ったイシルウェは、直ぐにチャコの手を取りシェルターに入ろうとする。
「パ、パパ?雪玉、チャコのやつじゃ無いよ?」
精霊が見えてないチャコは、シェルター内で怒られると思ったのか、チャコは行きたくないと足を止める。
『ん?パパ…だと⁈ちょっとその子を見せなさい』
モースは、チャコに向かって風の手を伸ばした。しかし、それは更に上空からの風で拡散する。ようやく降りて来たシルフィが止めに入ったのだ。
『おや?風精霊のパートナーを作ったのかい?成長したものだ』
『ちょっとそこ~、勘違いしないでよね?私はデレルウェのパートナーじゃないから~』
『何だ、違うのか。まぁ良いわ。巡回ついでで来ただけだったけど、彼女に土産話が出来たからね。いやぁ~、帰ったら反応が楽しみだわ~』
悪戯に笑いながらモースは姿を消した。ガクッと両膝を突き頭を抱え込むイシルウェに、チャコは大丈夫?と背中を摩る。
「チャコ、やっぱり私の家に行くのは止めないか?」
「どうして?」
「あの里には悪魔が居るのだ…」
イシルウェの嘆きにも似た答えに、チャコ達はどういう事だろうと首を傾げるのだった。




