15話 投票で何選ぶ?
「さぁ皆んな、今回の売り上げから選べる商品の数は…5品だ!どの商品に投票するかは決まったかな~?」
なんなんだ、村長のこのノリは⁈玄関から現れたと思ったら、いきなり村人達を煽るような言い方をするなんて、そんな煽り文句に真面目な村人達が応えるわけ…
「「「おおおおおーーーっ‼︎‼︎」」」
村人達もノリノリじゃないか!早くも会場は熱気に包まれている⁈
「それじゃあ、今から配る紙に名前を書いて、欲しい商品の前に置きなさい。投票が多かった商品から順に10品選び、その商品は投票した者の中から私が抽選で選ぶ。異論がある者は居るか~?」
「「異論ありませ~ん」」
護衛の人達が一人一人紙を配っていく。こんな事に手伝わされて、何か申し訳ない気持ちになるね。
「「アラヤ」君」
二人に腕をがっしりと掴まれる。その込められた力とは反比例して、これまでにない甘えた笑顔を見せる。思わず赤面しそうな状況を、腕に食い込む爪の痛みで我に返る。
「私はあの本達が欲しいです」
「私はあの服と絹の反物が欲しい」
「「投票してくれますよ、ね?」」
これはどう答えたら正解なの⁈しかも欲が出て品が増えてない?
追い込まれた俺の取った答えは、
「俺はあの剣が欲しいです!」
並べてあった武器類の中で、適当に派手な剣を指差した。自分自身も欲しい物があるから、ごめんなさいという逃げの答えだ。
恐る恐る二人の顔を見ると、何の感情も分からない怖い程の無表情だ。
「そう、分かったわ」
「ええ、分かりました」
淡々とそう答えて、投票する人達の中に入って行った。俺、やっちゃった?ひょっとして二人共に嫌われてしまったかも?
アラヤはトボトボと落ち込みながら、自分が欲しいと指差した剣の前に紙を置いた。
「それじゃあ、結果発表いくよ?先ずは王都産ハニーキャンディ20個瓶入り、32票。これは2瓶あるから2名だね。始めの当選者は…」
村人達は一斉に静まり返る。村長は集めた紙を木箱に入れて、わしゃわしゃと掻き混ぜる。その中から一枚の紙を取り出して、ニヤリと口角を上げた。
「始めの当選者はザックス!おめでとう!」
「やったー‼︎すまねぇ、ライナス!どうやら、俺の方が運が良かったようだな!」
当選者は、ライナスと同僚の守衛。周りからも拍手され、すっかり有頂天になっている。
「次の当選者は、…ライナスだ!おめでとう!」
「なぬっ‼︎」
「どうやら、運は同じだったみたいだな」
二人は村長から瓶を受け取ると、最初から決めていたかのようにある人物の前に駆け寄った。そして、手に入れたばかりの瓶を差し出す。
「ベス!俺の伴侶になってくれ!」
「いいや、ベス!俺の方と一緒になってくれ!」
二人は、食堂の料理人であるベスに求婚をしたのだ。いや、ライナスが惚れてるのは知ってたけど、ライバルが居たとはね。
「よろしくお願いします」
彼女は、ライナスの瓶と手を優しく掴んだ。ライナスはウォーッと拳を高く突き上げて喜んでいる。一方、ライバルのザックスはよろよろと村長の前に行き、「食堂に寄付します…」と瓶を渡していた。うん、頑張れ!
「さぁ、続いての商品は、グラーニュ地方産の酒樽!25票で1名のみ。……当選者は、ハンナ!おめでとう!」
「あんた!やったよ!」
「お、おう」
何と、棟梁の奥さんが当てたみたいだ。もしかしてこのイベントは、独身の男女や夫婦に、思いや感謝を伝えやすくする為に開いているのかもしれない。
「さぁ、続いての商品は、王都産の絹の反物、20票で1名のみ!……当選者は、ナーシャ!おめでとう!」
「あらあら。当たっちゃったわ!」
絹の反物は、織物屋のナーシャさんが当選した。プロに渡った反物は、きっと綺麗な服へと生まれ変わるだろう。ごめんよ、サナエさん。多分、俺の運じゃ手に入らなかったと思うよ。
「さぁ、次の商品は、レニナオ鉱山の装飾鍛治師作のイヤリングだ!15票で1名!当選者は…………トーメ!」
マジで⁈トーメさん、欲しかったの⁈80代でも、まだまだ乙女なんだね!
「さぁ、最後の商品だ!レニナオ鉱山、武器鍛治師【業物】のショートソードだ!10票で1名だ!当選者は………サナエ!おめでとう!」
え⁈何でサナエさんが?服が欲しいって言ったじゃない!どういう事?
剣を受け取ったサナエさんは、真っ直ぐに俺の元に来た。
「欲しかったんでしょ?アヤも投票したみたいだけど、私が当たったってだけ。はい、あげる」
「あ、ありがとう…」
差し出された剣を、呆然と受け取る。周りを見ると、村人達から祝福されている。その中に、グッと下唇を噛むアヤコさんが…
ええ?違うよ?これは、ただのプレゼントみたいな事だと思うよ?
投票会が終わり、護衛兵達が商品を集め始めると、村人の多くが帰り始める。サナエさんとアヤコさんは、俺を待たずに居なくなってしまった。これは…嫌な予感しかしないぞ…
「ガルム=バルク様!どうか、私達の品を見て下さい!」
村長宅から出て来たガルムに、大工職人達が自作の品々を展示する。どれも腕によりを掛けた工芸品の数々だ。
「ふむ。これだけは頂きましょう。ここに残っている品と一つ交換して良いですよ。後は、残念ながら次に期待しましょう」
自分の品が選ばれた大工は、何度もお礼の言葉を言って、ドレス服と交換していた。
「すみません!私の品も見てもらえませんか!」
アラヤも、急いで自分の品々を展示する。
「これはまた変わった品々を……これは小舟ですか?」
「はい。小舟と言っても、荷物や人をあまり多く運べる舟ではありません。このパドルで水を漕ぐ舟で、貨物船などが通れないような、浅瀬や川などに適したカヌーという舟です」
「ほう。浅瀬や川専用の舟ですか。面白いですね。こちらの箱は?」
「オルゴールといいます」
箱の蓋を開けると流れ出す音色に、眉がピクリと反応した。
「歯車を用いたカラクリ箱ですな。しかし、音色がイマイチです」
「はい。本来なら、中にある円筒と櫛歯は金属を使用するのですが、代用品が無かったので…」
「ふむ。では次回にはそう改良した物を持参して下さい。次は収納可能な机と椅子ですね。これは大衆向けに良さそうです。この小さいのは…?」
「竹とんぼという、子供向けの玩具です。遊び方は、棒状の部分をこうやってっ!」
遊び方の例を見せたつもりが、空高く上がって見えなくなってしまった。
「ふむ。高さを競うと。しかし、回収が困難ですね。それで最後のこれは?これも玩具ですか?」
「これは、戦をモチーフにした将棋と呼ばれる玩具です。一応、説明書も用意しました」
説明書を手渡し、駒を並べて見せる。もちろん、駒の文字はこっち使用に変えたけどね。
「ふむ。良いでしょう。改良点も考慮して全て頂きます。お好きな品を3つ選びなさい」
「ありがとうございます!」
やったぞ‼︎これで二人の機嫌を取り戻す事ができそうだ。喜んで品々を物色するアラヤの後ろ姿を、ガルムは自慢の髭を触りながら眺めている。
(ふむ。これは良い掘り出し物でしたかね?)
品を選び終えたアラヤの肩に、ガルムが手を置き微笑む。
「君の名前は?」
「アラヤと申します」
「ではアラヤ。夕食後に、村長宅で再び会いましょう。君といろいろ話をしたい。どうかね?」
「はい、喜んで」
アラヤは、今一度お礼と頭を下げると、荷物を抱えて彼女達の元へと走って行った。
「素性が鑑定できない上に、この知識…」
ガルムはこの村に来て、営業用ではない今日一番の笑顔を見せた。




