120話 魔力増強素材?
オモカツタの街を、昼を待たずして後にしたアラヤ達は、次なる目的地を北西にあるガーンブルの村に向かっていた。
インガス領主が居る街プイジャールに向かわない理由は、グスタフの親が領主だという事と、次の領地に向かうならガーンブルの村経由が1番早い事が理由だ。
大体、オモカツタの街でかなり目立ってしまったから、プイジャールの街にも噂が流れてもおかしくない。
「うーん、LV足りない状態での無詠唱は、消費魔力が2倍掛かりますね。しっかりと詠唱すれば通常の消費魔力ですけども…」
「別に無詠唱の方が楽で良いでしょ。だって魔術の素養で魔力消費が半分なのだから気にしなくて良くない?」
「その考えは危ないと思います。いくらサナエちゃん自身が、踊りや魔力電池で魔力を回復できるとしても、消耗戦や連戦になった際には回復する間も無いかもしれません。ましてや、私達はアラヤ君とカオリさんみたいに魔力量が多い訳ではないのですよ?」
後ろで、アヤコとサナエが新しく覚えた魔法の使い方で揉めている様だ。仲裁役のカオリは仮死状態中である。これは一度休憩を入れた方が良さそうだ。
アラヤは先頭で積雪を溶かして進むクララに合図をして、馬車をゆっくりと止めた。
「ここら辺で昼食にしようか」
「アラヤ君、聞いてましたよね?貴方ならどうしますか?」
超聴覚を全員が持っているので、聞いてなかったが通用しない。こういう時は厄介だな。
「ん~、アヤコさんの言い分は最もだけど、このメンバーが魔力切れに陥る事態には、そうそう起こらないと思うけどね」
「勇者や魔王が相手でも、ですか?」
「う…?そんな状況は…」
「無いとは言えませんよ?アラヤ君は巻き込まれる体質のようですから」
まさかのアラヤが責められる結果になる。
「と、とにかく、ご飯の準備しよう?あ、そうだ。ベヒモスの拳があるんだった」
「えっ⁈アレを昼食として食べるんですか?」
分別の勇者が、ベヒモス戦で斬り落とした拳をアラヤが回収していたのだ。アラヤは、もちろん食べる用にと考えていたのだが、アヤコ達には抵抗がある様だ。
「象肉の手だよ?」
「イヤイヤイヤ、思いっきり人の手の形じゃないですか!」
「肉片にしたら大丈夫だよ。ちょっと大き過ぎるから、小指の第二関節くらいだけで良いかな?」
「ええーっ⁉︎アラヤ君以外、食べれませんよ!」
「そんな訳ないでしょう?今までも魔物の肉は食べたりしてるし、全員が俺と同じ様に、強化胃酸と各耐性があるんだからさ。それに、この肉からは大量の魔力を感じるんだよね。魔力量アップに繋がるかもよ?」
「「「うぅ…」」」
「じゃあ、この肉を使った料理は俺が作るから、皆んなは魔鉱石シェルター作りを頼むよ」
今や全員が料理技能を持っているので、アラヤも当然料理ができる訳だが、レシピを知らないアラヤのレパートリーはかなり少ない。せいぜいステーキの様に焼くだけの料理になるのがオチだろう。焼き加減は技能で何とかなり味は大丈夫だろうけど、指の形を連想させるそれは避けたいと考えたサナエが、仕方無しに手伝いを申し出た。
「そんなに嫌?」
「動物系の魔物肉事態は、癖のある肉という認識で大丈夫なんだけど、人型の魔物肉は抵抗あるよ」
象人間の肉は、人間寄りか…。アラヤは自分は平気なのが、おかしいのかなと考えてしまいそうになる。
「ハンバーグで良い?」
「決まりだね!」
サナエの提案に即決する。自分が変なのかという迷いも一瞬で吹き飛ぶあたり、アラヤは美味く食べれれば幸せなのだ。
「何とかアースクラウドのダブル魔法を使えました」
「鉱石化、私出来た」
シェルター作りが終わったアヤコとクララは、用意されている料理を見て内心胸を撫で下ろした。
「じゃあ、食べてみよう。いただきます!」
アラヤが最初に一口食べてみる。食感は普通のふっくらハンバーグで、噛む度に肉汁が口の中に広がる。
「普通に美味い」
アラヤの後に続いて、アヤコ達も食べ始める。見た目が違うだけで、抵抗無く食べる事ができた。
「なんだろう、身体の芯から温かくなってきた」
アラヤは状態が気になり、自身を鑑定する。状態は正常だが、魔力の値が若干増えていた。冗談で言ったのだが、まさか本当に魔力値が上がるとは。魔力量が多く残った食材だからだろうか?
「皆んな、魔力値を確認してみて?僅かだけど上昇してるよ?」
「「「えっ⁉︎」」」
全員が確認して、一回の食事で魔力量の値が20上昇している事が分かった。
「凄いね!食べるだけで成長する食材じゃないか」
「驚きです。これは沢山食べる必要がありますね」
「う、頑張って食べるようにするかな…」
「全然、食べれます」
魔力が増えると分かった途端に、皆んながベヒモスの肉の評価を変えるのだから、ゲンキンな話だね。
しばらくは、肉類はベヒモスの肉を使用する事が決定したのだった。
「さぁ、腹ごしらえが済んだら、暗くなる前にもう少し村との距離を縮めておこうか」
この積雪を溶かしながら進むやり方で、村まではおそらく後2日は掛かる。アラヤ達は街から離れる速度を、落とす事は極力避けたいと考えていたのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
オモカツタの街の衛兵駐屯地の司令室に、大罪司教のベルフェルが訪れていた。兵長であるグスタフに聞きたい事があったのだ。
「…という訳で、知っていたら教えてほしいのです」
「う~ん、坊やの行き先ね?私も2、3日は滞在すると聞いていたから、何処に向かったかは分からないわ。私よりも、商業ギルドか討伐隊を編成した冒険者ギルドに聞いた方が良くな~い?」
「もちろん尋ねましたよ。両ギルド共に個人情報は教えられないと言いましてね。しかし、居合わせた冒険者からバルグ商会の人間という事と、宿屋の場所までは分かったのですが、既に出た後でして。宿屋の店主も、少年の行き先までは知らないと仰る」
「それなら、街の何処かに滞在している可能性よりも、街を出たと考えるべきかしら?それにしても、坊やを探す理由が、大罪教皇からの勲章授与って本当なのかしらん?」
「もちろんですよ。勇者と彼の活躍で、かの厄災級魔物であるベヒモスを生け捕りに成功したのですから。ただ、勇者にも話を持ち掛けたのですが、美徳教団側に断られたんです」
「う~ん、確かに功績は有るかもね~?」
グスタフは、1つの教団がここまで彼を探す理由が、今一つ信じ切れないでいたのだ。それに、アラヤの行き先を知らないのは事実なのだし。
「仮に街を出たとして、積雪が酷くなるこの時期的に、更に北上したとは考えにくいわね。彼が欲しがっていた調味料等は、他の街に行かなくともこの街で揃った筈だし。目的を果たしたから、南に帰ったのかもしれないわよ?」
ベルフェルは、顎に手を当てながら考える。
元来た道ならば、南西の関所を辿る訳だが、その先にあるのは王都領のデピッケルか…。
そもそも、彼等は今の時期にこの街に来る必要性があったのだろうか?
この街にもバルグ商会が有り、欲しい調味料等は定期的に行う運搬で、王都やデピッケルでも手に入れられる筈だ。
彼等がこの街に来たのには、他に理由があるのかもしれない。例えば…逃亡だとしたら?
「そうか。だとしたら、北上した可能性が高いな」
「あら、私の意見は南って言ったんだけど、ガン無視かしら?私の意見を聞く気無いなら、もう帰って頂戴」
追い出される様にして司令室から出されたベルフェルは、未だアラヤ達が逃げる理由を考えていた。
この時期で、王都やデピッケルで起きた事…。
「ああ、そういえばデピッケルには王都から2人の勇者が移動して来たと連絡がありましたね…」
それが理由なら、今直ぐに帰る事などはあり得ない。ならば、行き先は北上という事になる。
「この街から北上するルートは3つ。インガス領最大の街プイジャール、北西のガーンブル村、北東の港町エームール。どのルートへ向かったかな?クク、全てのルートで追えば問題ないか」
ベルフェルは至急大罪教団に戻り、彼等を追いかける人員をかき集めるのだった。




