107話 ポッカ村の生き残り
「その時の状況を教えてくれる?」
リズと呼ばれたその少女に、魔物達が来た時の状況を詳しく聞く事にした。
「それを見たのは一昨日の昼間でした。弟のアントンと薪木を取りに行った帰り道、村の上空にパリパリと小さな雷が見えました。天気が更に荒れると思い、急いで帰ろうとしたら、その雷が見えた場所に黒い渦の様なものが現れ、初めに1人の羽が生えた女性が現れました」
「その女性は、どんな容姿だった?」
「えっと、羽は黒い蝙蝠みたいな羽をしていて、ほぼ裸の様な格好をしていました。顔まではハッキリとは見えなかったんですけど、その格好から女性だと思いました」
羽の生えた女性の魔物?直ぐに思い付くのはハーピーかサキュパスかな。
「なるほど、それで?」
「その女性が出て来た後に、幽霊に似た男性や鳥の魔物が現れて降りて来ました。私達は自宅に隠れ、その様子を伺いました。女性の魔物に何やら指示を受けていた幽霊らしき魔物は、村に火を放った後に出て行きました。すると、女性の魔物は鳥の魔物にも指示を出し、次々と村の人を襲わせました。家を攻撃された私達は、怖くなって地下室に逃げ込んだんです。でも、出られなくなってしまって、時間が経つに連れアントンも具合が悪くなり途方に暮れていたところに貴方が来たんです」
「そうか、するとやはりレイスはこの村から来たんだな。しかし、気になるのはその女性の魔物だね」
「具体的に、どう気になるんですか?」
隣に居た女性の質問で、もう1人の女性と狼の態度が急に冷ややかなものになる。
「え?あ、いや、この村で見かけなかったなという事だよ?何処かに潜んでいるかもしれないじゃない?」
何故か少年は直ぐに弁明している。
「でも、そうですね。私達が来た時には女性の魔物は見ませんでした。反応が無いのであれば、もう村には居ないという事でしょう」
「うん、そんな気がするよね。だから、後は行き先が何処かだよね?」
リズは、不思議に思っていた。この人達、村に居た魔物を退治しただけじゃ無く、残党が向かった他の場所の心配までもしている?
「あの、もしかして、各地を救っているという、噂に名高い分別の勇者様達なのですか?」
「ええっ⁈勇者⁈とんでもない、ただの商人だよ。インガス領には、調味料を手に入れに来ただけだよ」
「そんなの嘘ですよね?冒険者も居ないただの商人が魔物達を一掃できるなんて、聞いた事無いですもの」
リズの発言で、他の村人達も拝み始める始末に。ああ、無闇矢鱈に人助けをすると、やはりこうなるのか。しかし、生存者が居ると分かって見殺しにも出来なかったしなぁ…
「嘘じゃないよ、ほら、これが商会の会員証だよ」
身分証代わりに会員証を見せると、まだ半分疑いながらも、分別の勇者ではない事は分かってくれたようだ。
「これから俺達は、オモカツタの街に向かう予定なんだけど、君達はどうする?村に残るのかな?」
アラヤは言った後に、しまった!と思った。ここは見捨てて先に行く振りを見せるべきだった。どうする?って聞いたらこっちが誘ってるじゃないか。
「…この村には、もう私達しか居ないようじゃな。私達は歳なので、もうこの地で骨を埋めたいのじゃが、この子供達はまだ幼い。どうか、この子達だけでも街に連れて行ってもらえませんかの?」
年寄りの願いだと言わんばかりに、おばあさんがアラヤに頼み込んできた。だけど、年寄り3人を残して行くのも気が引ける。
「私達も残りますよ。おじいさん達を置いて行く気にはなれません。どうか、我々も置いて行ってください」
「せっかく助けたのに、そんな訳にいかないでしょ⁈」
「そうですよ。貴方達をオモカツタの街へと送り届ける事で、私達も街から報酬が頂けるのです。貴方達が再び村に戻るのは自由ですが、一度は街まで御同行お願いできますか?」
アヤコが、老人達を説得に掛かる。報酬目的と言えば、確かに勇者らしくは見えない。アヤコさん流石だね。
「分かりました。確かにここまでして頂いたのに、御礼も返さないのも失礼な話ですね。では、オモカツタの街までもうしばらくお願いしますじゃ」
「ええ、我々もそうしていただけると有難いですね」
亡くなった村人達を埋葬して、村に残っていた幌付き馬車を、アラヤ達の馬車に連結させる。馬車の重さをグラビティで軽くすれば、連結しても何とか走れそうだ。
アラヤ達の馬車なら、1つの馬車に乗り切れなくもないのだけど、仮死状態のカオリも居るし、あまり親切にするのもダメだと分かったからね。
「それでは出発します」
「でも、道にはまだ雪が積もっていますけど…」
リズ達の心配は何も気にしていない様で、さぁ、馬車に乗ってと促されて、リズ達は仕方なく後ろの馬車に乗り込む。
間も無くして出発した馬車の後ろで、リズ達は通り道を見て驚く。
「雪が溶けているわ⁈」
積もっていた筈の積雪が、地肌が見えるくらいに溶けていたのだ。馬車の前に身を乗り出し、前を覗こうとするが後ろ過ぎて見えるわけがない。それよりも、冷たい風が当たり体が冷えてしまう。
ブルッと体を震わせて、アントンの側に戻りシーツに包まる。私達には元々両親が居ない。リズが小さい頃に病気で亡くなってからは、周りの村人に助けられながらも、2人はいつもこうやって身を寄せ合いながら寝ていた。もう1人、助かった男の子のヤンは、目の前で両親が羅刹鳥に目をくり抜かれたのを見たらしく、ショックで何も喋れない状態になっている。村では威張っていた嫌な奴だったけど、こうまで落ち込んでいると心配になってくる。
「ヤン、寒ければ、私達と一緒に温まる?」
「……ほっといてくれ」
「ヤン…」
ヤンはシーツを深く被り、外方を向いて寝てしまった。リズは、私には何の力も無いなとつくづく思う。こんな時、勇者ならどうやって励ますのだろう?
リズは再び馬車の前に出て、アラヤ達の馬車に呼びかけた。
「すみません、お聞きしたい事があるのですが…」
すると、返事よりも先に馬車がゆっくりと減速しだして止まった。
そして馬車の扉が開いて、女性達が降りて来る。
「今日はこの辺りで野営します。皆さんも、馬車を降りて手伝っていただけますか?」
「え、あ、はい!」
ヤンを1人残して、彼女達の手伝いに皆んなで参加する。というか、手伝う事など簡単な事ばかりで、ほとんど彼女達がこなしてしまう。
「じゃあ、そっちはお願いね」
少年は食材を運び終えると、外へと向かって行く。リズはこっそりと後をつけると、物陰から見て驚いた。
地面がボコボコと持ち上がり、土壁となって迫り上がって行く。それは頭上を超えていき、馬車を含めた辺り一面を包み込んでしまった。それだけでは終わらず、その土壁が石に変わって行く様は、もう意味不明だった。
「ほら、そんな所で見てないで、皆んなの手伝いしててね?」
呆然と見上げていたリズは、アラヤに肩を叩かれてハッと我に返る。余りの出来事につい意識が飛んじゃっていた。
再び少年を探すと、今度は自分達が乗っていた馬車に、どこからか板材を持ってきて、壁と扉を作り始めた。手際が良すぎて直ぐに完成してしまう。中に居たヤンも何事だと起きて、目の前で壁や出入り口用の扉を取り付ける少年に、呆気に取られていた。
「これで夜風は凌げるだろう。さぁ、君も夕飯を食べよう。そろそろ出来上がる筈だよ?うちの嫁さんの料理は最高なんだぜ?」
「「結婚してるの⁉︎」」
ヤンと同時に驚きの声を上げてしまった。今までで一番の驚きだったのだ。強さや魔法にも驚きだが、だって同じ歳くらいにしか見えなかったんだもの。
「えっと、一応皆んな、俺の嫁さんなんだよね。こう見えて、俺は17歳なんだ。なんかこの説明も毎度の事なんだけど」
リズとヤンは互いに見て、今一度アラヤを見た。コレって、夢でも見てるのかな?2人がその事実を受け入れるのには、時間がかかるのだった。




