7.B組のハーレム男
教室の窓際で、学はため息をついた。
手元には弁当とノートが広げてある。この学校は古くからある進学校。授業は公立のそれに比べて早く、冬休み前には一年の学習内容を全て終わらせてしまうという。
同学院の中学からの進学者らは全体の四分の三を占め、彼女らは既に大学受験を見据えている。大学進学率はここ二〇年、常に九五パーセント前後を保っている。
(女子校の風情どころか、授業にも付いて行けなくなったとしたら……)
ちらと室内へ視線を移す。女子というのは大したもので、もうグループを作り昼食を囲んでいる。
(みんなすごいなあ)
その時、ふと学の頭に昨日の男子の顔が浮かんだ。
(他の男子生徒は、どうしてるかな)
再び窓際に目をやる。芝生の中庭が見え、そこにぞろぞろと十人ほどの集団が歩いて来た。あっと学は声を出しそうになる。
昨日門の前にいた男子だ。彼の後ろを女子達が付いて行くような格好でやって来る。小さな中庭はその集団で陣取られた。
(すげ。ハーレム状態)
やはり、イケメンは扱いが違う。しかも彼はどこか女性慣れしていて、何やら楽しそうに会話まで始める。
(俺チビだし地味だし、ああはなれないな)
学が弁当に取りかかかろうとすると、隣にいた女子のグループが
「何アレ」
と、中庭に軽蔑の視線を送っていた。
「B組の西田君と取り巻きでしょ?媚売り過ぎ!あれって小学校からの内部生?」
「何か、自分達は特別って思わないとやってらんないみたいだよね」
自分に向けて言われたわけではないのに、学は背中に冷や汗をかく。女の敵は女……。学は恐ろしくなった。
「市原君はさあ」
急に声が投げかけられ、学は驚いた。
「ああはならないでよね!」
お、俺が……?
ぽかんとして何も言えないでいると、他の女子がクスクス笑い出した。
「やだ、やめてあげなよ」
「市原君困ってるじゃん」
「ああはなれないでしょ、ああは」
どっと笑いが起きる。ああ、この感じ。
中学の時と同じだ。
学は全てを諦め、再び中庭に目をやった。
男子を囲む会から離れた調理室の前の花壇で、ひとり女子が弁当を食べているのが見える。
(あっ、あの人)
昨日ハンドベルを演奏していた人だ。
(ここにも、ひとりで食べている奴がいるよ)
学は彼女に、そう叫びたい気分だった。