6.やることなんかねえよ
そう、全てはこのいじめから抜け出すためだった。
なのに今こうしていじめっ子と再会し、こともあろうに彼と似たようなことまで考えてしまっている。それに気付いた時、学の頬に、弾けるように安の掌が飛んで来た。
「おい、聞こえなかったのか。消えろって言ったんだよ」
安が忌々しげにこちらを睨む。
「てめえの顔、今日は特に苛付くんだよ」
学は用心しながら足元の財布を拾うと、今度こそ速攻の走りで駅前の人混みへ向かった。学が消えるのを見送りながら、取り巻きらは
「勿体ない!」
と叫んだ。
「あの調子なら、もうちょっと〝お引き出し〟出来たのに!」
「今日、どうしたんだよ安」
それらの声を遮るように、安は筐体をどかんと叩く。連中どころか、周囲の客まで静まり返った。
その頃。
学は走って走って、人気のない路地で息を整えていた。
(俺は、俺は、このままじゃ)
学はうなだれた。
(同じだ、あいつと)
中学一年次から「たかり」は始まった。
たかる方は大きな金額を一度にたからない。どうも安にとっては金より、学の困る顔が見たい、苦しめたいという欲求の方があるらしく、いつも小銭ばかりを要求した。断れば殴る蹴るもあったが、彼は痣や目立った外傷が出来ないよう、絶妙な力技でもって小突き回すのだった。安は校内では一見勉強も出来る普通の生徒であったため、学が教師に訴えても信じてもらえず、かわされてしまうことがほとんどだった。学は持ち前の義務感から学校には休みなく行ったものの、心は疲弊してしまった。
だから、あの学校を選んだ。
地元から遠く離れた、元女子高。しかし。
(入ってからのことなんて、何も考えていなかったな)
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