5.いじめ首謀者、安との再会
連れて行かれた先には、顔馴染みの面々。
「財布連れて来た」
どっと若者らしい笑い声が起こる。その中に、全く笑わないひときわ体の大きい少年がいる。
安清崇だ。学を中学時代悩ませた元凶である。
「おい、いーからちょい二百円出せ」
こちらを見ずに彼が言う。みんなに構わずゲームに熱中しているようだ。その場にいた他の連中は気を遣うように笑って
「安が出せって言ってるぞ、ほら」
と取り成すように学に囁いた。学は緊張の面持ちでポケットから財布を取り出す。すかさず奪われ、それは安の手元に上納された。そんな状況にあっても学は冷静に
(まだ連中でつるんで……こいつら皆どこ高だっけ)
などと考えていた。
安の制服は知っている。この地域ではまずまずの進学校だ。他の連中の制服は、見覚えがない。それぞれ違う高校へ行ったようだ。
「お前、ここら辺じゃ見ない制服着てんな」
同じことを相手側も考えていたようだ。学はどきりとする。好奇の目が学の校章に注がれている。学は言うもんか言うもんかと心に念じた。
「……そういやお前、どこ高……」
安がようやく口を開いたところで、学は先手必勝とばかり
「安君は、どこの高校」
すると安は無言のまま、手元にあった学の財布を顔面めがけて投げ付けて来た。鼻柱に命中し、財布は学の足元にぽたりと落ちる。
「返すぜ」
学は顔を抑えながらもすぐさま財布を拾うことはしなかった。しゃがんだところに誰かの蹴りが入るであろうことは、中学生活で最も学び、予測できることのひとつだったからだ。
周りの連中が笑う。しかし誰も財布を拾わない。学は何かおかしい、と感じた。安はゲームが上手く行かなかったのか、それともただの苛立ちか、筐体をガツンと一発、蹴飛ばした。
「おい、お前もう消えろよ」
ようやく学に視線を合わせて安が言う。学が口を一文字にしたまま特に何も言えないでいると、取り巻きのひとりが
「安の高校さあ、めっちゃ怖い先輩いるのな。ほぼヤクザみてーな……そいつ、見た?」
と話題を変えようと試みた。それが安に火を付けた。
容赦のない回し蹴りが彼の横腹を直撃し、彼は床に倒れこんだ。学を含め、その場にいた少年達は一斉に顔を青くする。
「余計なこと言ってんなよ」
消えそうな声でそう言って、安は再びゲームに興じ始めた。もう学の財布など眼中にないようで、自らのポケットから小銭をまさぐっている。
「やめてやる、あんな高校」
安は誰にともなく呟いた。
「何もすることねーよ高校なんか。することねえ、もう行かねえ」
全員沈黙して安を見つめる。
学は不覚にも、その言葉に胸を刺された。
(俺、そういや……)
急に動悸が激しくなる。
(何であの高校に入ったんだっけ)




