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第3章.夏合宿

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36.オケ部というちょっとした地獄

 バスと生徒らでロッジの庭先は埋め尽くされた。とても大きな丸太造り風の建物がある。その奥に小さな白い礼拝堂も見える。


「では、荷物を各部屋に置いたら、食堂で昼食ね!」


 先に来ていた末続が出迎え、五人は男女分かれてそれぞれの部屋に荷物を下ろした。男子三人の泊まる建物は大きな建物とは別棟で、部屋も小さかった。向かいの部屋に男性教諭らもまとめて泊まることになっているらしい。山下が部屋の様子を見に来て、三人を食堂へ誘った。


 食堂へ向かうと、明日菜が男子に手招きした。ひとつのテーブルは十人掛け出来る大きなものだった。その上には、仕出しの弁当がきっちりと十並べてある。山下含む大人達は顧問やコーチの集まる別テーブルへと移動し、男子三人は明日菜に促された席に着く。


 これだけの大きな席なのであと五つは椅子が空いていることになる。そこにやって来たのはオケ部の一年女子五名だった。戸惑いながら座って来た五人にレイラが気を遣って声をかけた。


「あなた達オケ部の一年?このお弁当持って、あっちの席で食べたらどう?」


 彼女らはその言葉に、ええっと……と困惑の表情を浮かべている。互いの顔も見ず、目線を弁当に落としている様子は少し異様だった。


「その、グループとか、あるみたいで。追い出されちゃって……」


 一人がやっとのことで言い、西田はうわっと露骨に嫌な顔をした。岬は心配そうに彼女らを見つめている。


 学はといえば、言いにくそうにそう語った顔の女子に見覚えがあった。


 同じクラスの小宮沙織こみやさおりだ。おさげで少し太っていて、大人しそうな女子。一度も話したことはない。気まずさを感じ始めた辺りで、末続が割って入って来た。


「ベル部員さん、これ食べ終わったら、私服に着替えて『鶴の間』に集合ね!」


 はーい、と五人は返事をして、他のテーブルの動静を見守った。遠くで、いただきますの号令をオケ部の顧問がかけているのが聞こえる。それを合図に、弁当が一斉に開かれる。中身はよくある幕ノ内弁当だった。


 オケ部の面々が全くの無言だったので、先に座っていたこちらが気を遣う。


「小宮さんは、何の楽器をやってるの?」


 同級のよしみで、学は小宮に声をかけた。小宮は驚いていたが、すぐに


「バイオリンを」


と呟く。学は初めて、同級生と会話らしい会話をした。


「そう……」


 会話は終わった。


「おい、もっと何か続けろよ。見合いじゃねーぞ」


 良かれと思って西田が会話に入って来ると、後ろのテーブルの女子集団がどっと笑った。小宮はそれで更に縮こまってしまう。学も西田も、しまったと思った。


「習ってるの?バイオリン」


 見かねてレイラが声をかける。小宮はようやくほっとした表情で


「はい、でも……中学からやり始めたんで、皆ほど上手くないんです」


と悲しげに笑った。すると隣にいたオケ部の女子が、


「私もだよ!」


と会話に入って来た。話すきっかけを得て、小宮はその女子と色々話し出した。彼女の名前は荒井優香あらいゆうかと言い、西田と同じクラスなのだそうだ。荒井の登場に安心したのは小宮ではなく、ベル部員の方だったかも知れない。


「凄いでしょ?合同合宿」


 ニヤリと笑って、明日菜が囁いた。


「男子達はもう生気吸い尽くされてる?大変なのは、こっからだよ!」


 予定表を見た限りでは、食事・風呂・寝る以外は全て練習のように書かれていた。


「あの行程表は、マジでその通りだから!寝る前までずーっとベルだよ!腕が休まるのは、寝る間だけだかんね」


 レイラが納得づくの顔で頷いている。本当に、その通りのようだ。


「あと、うちらみたいな少人数は風呂とか食事とか、譲ることも多いからそこ忘れないでね。でも、勢いに押されそうになったら踏み止まる勇気も必要だよ。女子は少数派には容赦ないから、男子は特に頑張ってね!」


 いつの間にか黙していたオケ部の一年生も、覚悟を決めるように明日菜の奮う熱弁に聞き入っていた。


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