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3.黄金のベル

 私立の設備は公立とは一線を画す。ホールの一方の側面には十字架とイエスキリストのステンドグラス、もう一方には天井の高さまであるパイプオルガンが埋め込まれてあった。


「S学院高校新入生の皆さん、おはようございます。我が校は創立一三〇周年の節目に男子生徒を迎え、女子校から共学化への道を歩み始めました。今年は小学校に十名、高校に三名の男子生徒を迎えることになりました。残念ながら中学からは新入生はありませんでしたが、徐々に男子の数も増えて行くことでしょう。まだまだ地元では女子校のイメージが強く、またそれは在学生の皆さんも同じかと思われますが、是非男子生徒を温かく友の一人として迎え入れてあげるよう……」


 ホール壇上に活けられた百合の香りに包まれ、中年の女校長が語る。


 上手く歌えない讃美歌、慣れない聖書の分厚さ、ページの繰り。学校に来てまだ一時間だが、学は既に疲れ切って椅子にもたれている。


 校長の背後に目が行く。見慣れたオーケストラの楽器の前に、何やら見慣れぬ楽器が並べてあるのを彼は見付けた。


 それは金色に輝く、白や黒の手持ちが付いた、大小およそ二~三十個のベルだった。

長机に緋色のベルベットがかけてあり、その上に整然と並べられたそれは、天井のライトに照らされ静かに輝いている。この学校は本当に珍しいものが沢山ある。


 学は式次第を見た。


間奏

オーケストラ部&ハンドベル部による合奏

「主よ、人の望みの喜びよ」


 気付けば校長の話は終わっていた。


 校長は去り、代わりに楽器を手にしたオケ部員が出て来る。その中に、学は見覚えのある姿を発見した。


 先程文句を言われても引き下がらなかった、栗色の髪の少女だ。皆より少し遅れて入って来た。白い手袋をしながら、金のベルの前に立つ。彼女は右手に三つ、左手に四つ、器用にベルを挟んで待機する。


 指揮者がやって来て、まずオケ部に合図する。彼女らは楽器を構え、良く知ったあの音楽を奏でる。


 ベルはそのままずっと待機していたが、指揮者がようやくベルに向かって手を振ると、オケ部がぴたりと止まりベルが動き出した。


 七つのベルを、手首の角度を変えるだけで器用に一音ずつ鳴らす。時に二個ずつ置き、二個ずつ持って、ベルベットの上を右へ左へ移動しながら、音を拾うように彼女は持ち替えを繰り返す。


 バラバラのベルを音色としてあくせくと演奏して見せた彼女は、見事オケ部演奏のパートに繋いだ。


 周りの生徒が、前のめりになってその珍しい曲芸を見つめている。


 学もそれは同じだった。


(すごい!大道芸みたい)


 オケが演奏してはベル、ベルが演奏してはオケとメロディが連なって行き、最終的に互いに同じ音を寸分も狂わず合わせて奏で、演奏は無事終わった。


 保護者、観客から拍手が起こる。壇上の生徒達はその拍手に表情ひとつ変えず、何事もなかったように幕尻へ下がって行った。


 興奮の余韻醒めぬ中、理事長の話が始まる。学はずっと代わる代わる舞台で踊り光っていたあの楽器に心奪われていた。


 再び式次第を見る。ハンドベル部……


(あのベルを演奏していた人の他に、部員はいないのかなあ)


 気付くと、パイプオルガンの大音量が流れていた。周囲の生徒らが立ち上がり始めたので、学も慌てて立ち上がった。


 学は再び誰もいない舞台を見る。金色のベル達はただ静かに光っている。

とりあえず、本日は冒頭一気に三編公開してみました。作者自身が高校時代、ハンドベルに打ち込んだ経験を元に書いています。この不思議な楽器の面白さもお届け出来れば……

毎日更新予定です。

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