2.気の強い美少女
私立S学院は私立のミッションスクールであるがゆえ、毎朝の礼拝を欠かさない。それは新学期でも勿論のことだった。
廊下に名前順に列を成し、讃美歌と聖書を抱えて一斉に入学式へ向かう。中等部は礼拝堂で、高等部は学院ホールにて入学式を行うようだ。中学生はリボンの色がグリーン。高校生は赤。
男子の制服は……何も違いがない、はずだ。
何故なら、中学に入学した男子生徒はいなかったからだ。それもあってか余計に女子生徒の期待値は高く、中学の校舎から顔を覗かせるあどけない少女達は、新しい男子学生を見つける遊びに勤しんでいた。たまに嬌声が聞こえる。それは自分に向けられたものでないことは明らかだった。学は前方に、一年B組の男子生徒を発見した。
彼はなんと、校舎から手を振る女子にニコニコと手を振り返していた。遠目から見ても積極的ではつらつとしていて、なおかつ見た目も整っていることが分かる。学は素直に
(あの人、凄い……)
と衝撃を受けた。同時に、
(ああいうのとは関わらないでおこう)
とも思う。
学院ホール手前で、黒い革張りのトランクケースを持った集団に出くわした。新入生のために何か楽器の演奏をしてくれるのだろう。その中にひときわ肌の白い、緑の瞳と栗色の髪を持った女子生徒がいた。限りなく日本人に近いが、すぐにハーフであると分かる風貌をしている。学は目を奪われる。染髪禁止のこの学校で、その髪色は必要以上に目を引いた。新入生も、物珍しそうに彼女を見やる。
と、集団の一人が当てつけのように栗色の髪の女生徒に向かい大声で
「どうして私達オケ部があんたの為にこんな重いベルを運ばなきゃならないの?」
などと文句を言い出した。新入生らは途端に彼女から目をそらした。が、学は目をそらせなかった。責められている女生徒は涼しい顔で相手を眺めている。その瞳の力は強く、責めた方が徐々に困った、というような顔になった。しまいには
「じゃ下ろしていいです。私一人で運ぶから」
と彼女は言ってのけ、相手の持つ黒のケースを奪おうとする。
(……強い)
学は息を呑んだ。
あんな強さがあれば、自分はあんなにみじめな中学生活を送らなくても済んだかも知れなかった。
(いや、こんなこと考えるのはもうよそう)
学は荘厳なパイプオルガンの音におっかなびっくり、隊列を組んだまま学院ホールの中に入って行った。