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1.女子の中に、ひとりだけ

作者自身が高校時代、ハンドベルに打ち込んだ経験を元に書いた小説です。みんなをひとつにする、不思議な楽器のお話です。

毎日更新予定です。

 桜並木が続く坂を、紺地に白襟のセーラー服をまとった女子学生達が歩いている。桜の続く先には十字架を頂いた礼拝堂が見えている。車が通る気配はなく、皆楽しげに道に広がって歩いている。


 その中に一人だけ、黒い学ランの少年が歩いていた。背が小さいので、ほぼ女子に紛れている。その足取りは心なしか周りより怖気付いている。


 校門をくぐるとすぐ右手に礼拝堂がある。見慣れぬ建物をまじまじと眺めながら、少年は時計を気にして道を急いだ。


 レンガ造り風の真新しい校舎。用心しいしい中に入ると、下駄箱の前で年配の女教師がクラス表を配布していた。それを受け取った彼に、周りの女子生徒は容赦なく好奇の視線を浴びせかける。男子生徒の背中を、女子らは注意深く見送った。


 クラスは一年C組。思い切って扉を開けると、今まで賑やかだった教室は静まり返り、代わりにざわめきが起こった。少年はその反応を気にするそぶりを見せず、ただ前を向いて自分の席を探しに黒板へ向かう。


 市原学いちはらまなぶ。自身の名を発見する。窓際の、前から二番目の席だった。


 しばし好奇の視線にさらされながら、彼は窓の外を眺めた。窓の外は、教員以外みーんな女……女、女、女。


 改めて配布されたクラス表を見る。他のクラスにも男はいるようだ。高校全体で三人。自分と、A組B組にそれぞれ一人ずつ。彼らも今、同じような思いをしているのだろうか。


 担任の教師が入ってくる。関谷せきやという良く禿げた男だった。彼も入るなり唯一の男子生徒を認め、おおと声を上げた。


 まるで珍獣扱いだ。しかし不思議と胸中は荒れなかった。クラス唯一の男子は心の中で繰り返しこう唱えていた。


(いいか、中学時代よりはマシだ)

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