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BraIn Vat  作者: 本けいと
8/9

7話 遭遇1

最初に聞こえたのは一回の銃声だった。

静寂の中でやや遠くに聞こえたそれはジョウの耳にもしっかり届いた。

ジョウは呆然と音の聞こえた方に目を向ける。

距離はそれほど離れていない。むしろここまで来た道の方が長いくらいだろう。


続いて複数の銃声。

発砲音が不規則な点から、撃ち合いだろう。

ジョウはため息をついた。

自分が騒ぎを起こすのを思いとどまった途端に起きたからだ。治安が悪いのだろうか。


と、ジョウはそのまま踵を返す。

譲の忠告に従うわけではないが、やはり騒動など起こしていいこともないし、そこに身を投じるのも同じことだろう。

タダでさえ問題だらけであるのに、さらにいざこざに巻き込まれるつもりもない。特に人間同士の争いなどに顔を出して得などあるはずもないだろう。

そう考え、ジョウ達はそのまま反対方向に歩き始めた。


銃声は続いている。数からして10人近くいるだろう。

何とも激しい銃撃戦だろうか。普通ならすぐに終わるだろうに。

と、ジョウが耳で分析していると、銃声の数が次第に減っていくのが分かった。


6人…………5人………


どれくらいのインターバルをもって1人1人が撃っているかは正確には分からないが、普段から闘技場で様々な銃の発砲音を聴いていたジョウにとって何となくの人数を把握するのには十分だった。


3人………


このあたりで、ジョウは違和感を感じた。


2人…………1人?


そして、銃声は無くなった。


おかしい。

ジョウは足を止める。

ジョウが音を聞いたときまず始めに考えた現場の状況は多対多だ。

あそこまでの集団で銃撃戦となるならば、それが可能性として高いと思ったからだ。

しかしそれでは、よほど互いの集団の戦況が拮抗していない限り、こんなに時間はかからず殲滅又は降参で銃声も人数が多いうちに消えるはずだ。単に拮抗していたという可能性もあるが。

その違和感から次に考えたのが、少数、もっといえば1対多。しかしこれでは更に違和感が残る。

少数側が強すぎるのだ。銃声から言って少数側がほぼ相手を殲滅している。しかも銃弾をかわしながら。そんなことがあり得るのか。


ジョウは向き直った。そして、現場に歩を進める。

だいぶ都合のいいように推理したかもしれない。実際ジョウは自分が今冷静でないとも感じている。

しかし、少なくとも同じ人間には(・・・・)そんな芸当はその道の専門家でも難しいだろう。

ジョウは譲からもらった二つの資料から、自分達ワールズの住人とこの世界の人間との能力の違いを今しがた知ったばかりだった。少なくとも、人間は車は1人で運べない(・・・・・・・・・)らしいということを。


割と強引な解釈だとも考えたが、しかし少しでも手掛かりになる可能性があるなら、向かわない手はないだろう。

ワールズの住人に会う。それが今の最優先事項だ。


ジョウの足は次第に速く回り、駆け足となっていた。

ふと後ろを見ると、いつもの無表情のカナがしっかりついてきていた。

こんな時にも、自分の思いつきについてきてくれることにありがたみを感じながら、ジョウは現場に向かう。

元がそんなに遠くもないからか、大体の位置は目視で掴めていた。後は、現場を見つけるだけだ。

住宅地を抜けた二人は数回角を曲がり、路地に入る。



するとそこには、10人程の倒れている人間の中心に、直立している男がいた。

ジョウは一目でわかった。ワールズの住人だ。

会った記憶はジョウにはなかった。しかし、そのいで立ちは人間のそれではなかった。

ワールズの人間に共通する、身体のいくつかの箇所に装着しているリングと、側頭部の突起だ。

またジョウと比べても体格がよく、片腕で重機関銃(ヘヴィーマシンガン)を抱えていた。

重機関銃シリーズをあまり利用しないジョウ達だったが、その高火力は十分に理解していた。


カナはすかさずジョウの前に来て、構える。

そこでようやく男がジョウ達に気がついた。


「――――ふーん」


反応は淡泊なものだった。

まるでそれを事前に考慮していたかのような態度だ。



「…………聞くまでもないだろうが……お前は俺達と同じか?」

「本当に聞くまでもないね」


多くを省略したその会話で、確認作業は終わる。

見た目も雰囲気も、傍から見ればこんなにも人間と違う。


「君達は……どこのコミュニティかな?」


ジョウは一瞬の躊躇の後に応える。

話す方がメリットがある。


「『夜空』のジョウだ。こっちは付き人のカナ。そっちは」

「『バトラーNO.54』のkazu_cmtだ。カズでいいよ」


周りには依然として人間が倒れたままであり、その会話はとても場違いなものだった。

時折うめき声が聞こえることから、全滅というわけではないのだろう。

ジョウはしかし、あくまでカズに視線を向ける。

その体格にはやや似合わない少年風の口調の裏に何があるのか。


「…………ここで……何をしてるんだ」

「何って?多分同じ理由なんじゃない」

「情報収集か」

「そうそう。こっちに来てから訳わかんなくてさ、取りあえず同士を探そうとしたんだよ。こーやって会えたんだからまあいいよね」

「――――違う、この状況を聞いているんだ」


ジョウは少し声を大きくする。

それがどういう感情なのか分からなかった。


「これ?探してたら追い回されたからこうしたんだよ」

「なんでそうなった」

「さあ?ちょっと暴れたからかな」


それ以外にあるのか。とツッコミを入れる。

ただ暴れる理由もわかる。ジョウが先ほど考えた騒ぎを起こすという案の延長線上だからだ。

しかし、ジョウはやはりいい気分になれない。

その会話に興味がないのか、はたまたジョウの思考時間に嫌気がさしたのか、カズは声を上げる。


「そんなことよりさ!情報だ情報。何か知らない?」

「…………まず、お前がどこまで知っているのかも分からない」


というと、カズはあまりいい顔をしなかった。


「…………何か、最初呼び出されたときに近くにいた奴から少し話されたな。アイツが操作してたとか言いやがってた。やっぱホントなのか?」

「…………そうみたいだな」


そうして二人は情報のすり合わせをする。

しかし、ジョウから教えられることはあっても、どうやらカズからの情報は殆ど無いようであった。

カズはどうやら、一度明るくなってまた夜が来るほど――――この世界ではその時間こそを一日とするらしい――――前あたりに、ここにやってきたらしい。そして闘技大会の情報とすり合わせると、ワールズに最後にいたのはジョウ達の5日前という。ついでに彼も闘技大会の出席経験があり、今回上位の戦いに参加できなかったのが不満であったらしい。呑気なものだ。



「ふーん、んじゃやっぱこいつら人間がこの変な事件を起こしたってことか」


カズは不快そうに言う。

その気持ちは確かにジョウにもわかる。

しかしジョウは、先から溢れるある気持ちがその共感を拒んでいた。


「――――君達は、これからどうするのさ」

「…………どうするって……」


うわの空でその言葉を聞いたジョウにはその質問の意図はすぐに分からなかった。


「話を聞いたところ、情報を集めに動き始めてたみたいだけど」

「その通りだ」

「んじゃさ、俺と一緒に来ない?」


なるほど、確かにそれがいい。当然考えられる提案にジョウは納得する。

知らない顔ではあるが、同じ境遇の仲間がいるのに別行動をする理由もない。特にこのような緊急時ならば尚更だ。


しかし、


「…………それは無理だな」


ジョウは笑顔のカズにそう答えた。そして同時に下に目を向ける。

倒れた人間たちだ。


「俺達は騒ぎを起こしたくはない。余計な事件に巻き込まれたくないからな。こういう騒ぎに巻き込まれるのもだ」

「…………」


カズの顔から笑顔が消える。


「そして、もう一つ」

「……なんだよ」

「なんだかんだで、人が倒れるのはいい気がしないな」


ジョウは笑みを含めて言った。

こいつら人間に特に情をかける気はない。しかしやはり人間に限らず自分以外を平気で傷つける気は今のところ起きない。

この世界にはワールズ以上に様々な動物もいるらしい。この感情はそれに対するものと変わらないだろう。


「…………へー……」


ふとジョウが顔を上げると、カズは完全に無表情になっていた。


「…………君はこいつらの味方をするんだ」

「――――なんだと?」


カズの声は先ほどと打って変わって平坦なものだった。


「こいつら、俺達をこんな状況に合わせたんだよ?」

「それはそうだが、こんな風に蹂躙する意味もない」


ジョウは冷静に返答する。

ジョウの中では今現在、単純に優先順位の問題でこういう結論に達したのだ。

今性格のつかめない目の前の男と組むと、ろくな目に合わないだろう。

この短時間で出会ったのが余程の幸運、というわけでもない限り、そのうち同士とはまた出会えるだろう。

第一、ここに来てこの光景を見た瞬間からジョウは目の前の男に不快感を抱き続けていたのだった。


「……まあ、そういうことだ。悪いな」


ジョウは気にしないように踵を返す。


「カナも悪いな、俺の我儘だ」

「いえ」


そういってその場を立ち去ろうとし――――


「――――!?」


甲高い音が響いた。ジョウが殺気を感じ振り返ったその瞬間。

ジョウの目の前で、カズの短剣をカナがジョウを守るように腕の防具で防いでいた。




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