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BraIn Vat  作者: 本けいと
3/9

2話 日常と崩壊2

「覚悟しろよカナ!それにジョウ!公の場で恥かかせてやるぜ!」

「少し静かにしていただけますか」

「あいつ公とか言えたんだな」


結果を言うと決勝戦の相手はアルトだった。なんと都合のいい。アルトに限って。

既に試合は開始直前で、広い闘技場の中心近くににカナとアルトが対峙していた。ジョウはカナと無線で通信している状態なので、アルトにジョウの声は聞こえない。

試合開始地点は闘技場内で区分けされた範囲の戦場の中で、左右それぞれの側で事前にある程度自由に決められるが、お互いにこの数メートルほどの距離で構えると理解していた。互いのスタイルは分かり切っているからだ。


観客席にいる参加者やその知人の声が響き、サポート席にいるジョウの耳を刺激する。彼らの殆どは闘技場内で同時に試合をする人達の応援だ。逆に自分たちを見ている人はどれくらいいるのだろう。カナは付き人というこの場では珍しい存在で強さも十分ではあるが、この会場では上には上がいる。自分のコミュニティの仲間を尻目にカナを観戦する他人はそんなに多くはないだろう。それほどにこの場でもコミュニティの繋がりが強いのである。

そして今回のように、同じコミュニティ内での試合など滅多にない事なので、ジョウは少し戸惑っていた。応援してくれる『夜空』の皆も複雑な気分だろう。


【開始まで、あと20秒】


大きな声が会場にこだまする。試合は一斉に始まるので、この放送がそのまま合図となる。


「怖気づいてんじゃねえか?」

「馬鹿なことを言わないでください」

「やっぱピリピリしてんじゃねぇか」

「これはいつも通りです」

「だな」


心底同意できる。と思いながらジョウは最後にカナに呼びかける。


「いいか、カナ。わかってるとは思うが、ごちゃごちゃ考えるなよ。練習通りだ」

「はい、ジョウ」

「相手がアルトでも、俺たちのやることは変わらん。今日も勝つぞ、いけるな?」

「あなたとなら」

照れくさい、と言う言葉は放送のマイクによって表に出ることはなかった。


【試合、開始】



―――瞬間、カナは数メートル先のアルトの懐まで来ていた。

と同時に、


「RS」


というジョウの合図の元、カナの右手に短剣(ショート・ソード)が送られる。

カナは予めそれを持っていたかのように右手を既に振り上げており、そのまま切り下す。


しかし高鳴る金属音とともにその行く手は阻まれる。

確認するまでもなく、アルトが刀で応じていた。

初手確殺。ジョウとカナの得意技の一つだ。武器転送や持ち替えの隙をサポーターが埋めることによる初期行動の短さを利用して、確実な先手を取る。しかしアルトのようなレベルの相手ともなると後手には回れど負けに繋がるような対応はほぼありえない。


0コンマの沈黙の後、数度の金属音が鳴り続ける。

短剣では刀を捌ききれるほどの余裕を持てないとカナが悟るより早く


「LGS」


左手に小型拳銃(レギュラーガン)が転送される。

合図を受けたカナがノータイムで至近距離で発砲を行う。ジョウがカナの左腕の位置までほぼ把握しているので、この合図の時カナは構える時間すら殆ど使わない。

それをアルトは回転する形で向かって右にかわした。

体勢を崩したアルトに右から鋭利な光が迫る。しかし、


バシュッ


という音とともにカナの肩から光が漏れる。

同時に視界の端に小さく、ジョウ達には赤い、アルトには緑の文字で20Pと表示された。

カナの右突きをかがんで避けたアルトが回転し向き直りながらカナ目がけ刀を振り上げ、それが掠ったのだ。


「まだだ!RBG!」


右に転送されたブースト・ガントレットの推進力を使い、カナは5メートル近く上昇する。

一時離脱するのか、と追撃を加え損ねたアルトが見上げると、


「LA」


左手に片手斧(バトル・アックス)を構えたカナが急下降していた。


咄嗟に刀で防ぐ。刀は過剰負荷に弱いが、胸の前でギリギリ支えきった。

猛攻の終焉にアルトが口角を上げかけたとき、


――――カナはブースト効果付きのガントレットを自分の斧の背目がけて振り下ろした。


ズドンッ


という衝撃とともに、胴体を浅く切られた感覚と、砕け散る刀の音、そして赤い45Pの文字の情報がアルトを襲った。

考えるより先に、アルトはカナの追撃を避けその場から瞬時に離れる。それを見切り、カナも後退する。

単純な速度ではかなわないので、大きな隙が無ければ相手が引くときはそれに合わせるのがカナの定石だった。


「…………いやいやそりゃないでしょ!斧ごとあんなブーストかけられたら刀なんて折れるに決まってんじゃん!」

「そうですね、狙いましたから」

「んだそりゃ!決勝だからって限度があるぞ!」

「ルールにはありません」


先ほどの場所には、深々と斧が突き刺さっている。カナが最後まで殴り切った証拠だ。


互いの視界には現在の得点として、20-45と表示されている。

試合形式は単純明快で、当たりに応じて点が入り、100P先取である。ダメージを与えた側には緑で、与えられた側には赤でポイントがその都度視界に表示される。

基本的に攻撃は受ける側の身体を少ない抵抗でするりと通過し、ダメージ描写としてその部分が緑に光るようになっているが、武器や装備によってのみそれを防ぐことが出来る。

よって相手の攻撃をよほど見切り続けない限りは、短期決戦傾向のルールとなっている。

ちなみに闘技大会決勝に限り、試合後の武器の修理や調整が保証されているのである。それが理由でカナは武器の負担を軽視した戦い方をしたのだ。


「あーあ、刀の悲鳴が聞こえるわ」


そういうと、アルトは砕けた刀を消し、両手持ちの長剣(グランド・ソード)を持つ。


「次で決めるぜ」


途端に顔つきを変えたアルトは突きの構えから、カナへ向けて一直線に地面を蹴る。


「いくぞ、LV」


突き刺さった斧が消え、代わりに転送されたのは連射型のバルカン・バヨネット。

間髪入れずにそれを連射する。

アルトは並外れた瞬発力で避け続け、接近する。そのまま突くかと予測しカナはいなすため右に避ける。


「カナ右だ!」


しかしアルトは直前で剣を頭上に運び、そのままカナ側右から斜めに振り下ろした。

ジョウの声に反射的に応じたカナが、それを間一髪で左のバルカン・バヨネットで防ぐ。

無限のような数秒の競り合いが過ぎる。しかしそれをジョウが崩す。


「LB2」


バルカン・バヨネットよりも長さの小さい、両刃付きのブラスト・バヨネットに置き換わる。


接点が離れ、互いの体が支えを失ったことによる一瞬の隙。

カナはそのままの体勢で、長剣の腹目がけ銃弾を放った。


ドウッ


という衝撃がお互いの体を駆け抜ける。アルトは弾かれた勢いでやや背を向ける形となる。


しかしそれで終わりではない。

その衝撃を推進力に利用したカナは、前方左下目がけ跳躍する。同時に勢いを生かしたままバヨネットを振りきる。状況的に回避困難な下段攻めである。


――――だが、カナの目の前には先ほど弾いた刃があった。

アルトもまた衝撃を利用し、カナの動きを直感した上で反時計回転切りを繰り出したのだ。



バシュッ


ほぼ同時にカナは胴、アルトは足から光が漏れた。

受け身をとるカナの視界に緑で30P、赤で60Pと表示される。


確認せずとも背水だと分かる。

しかしカナたちにとっては試合が続行している時点で十分である。


カナはすぐさま向き直り、既に振り下ろされている剣をバヨネットで受ける。

アルトの両手持ちとは思えないほどの連続攻撃を、カナは左右のバヨネットとガントレットを利用し器用に捌く。

グランド・ソードの運動量は凄まじく、特にガントレットでは正面から受けた瞬間、もろともやられて試合終了である。よって腹を叩くなどして両刃付きであるブラスト・バヨネットと連携し、切り結んでいる。


「タイマーセット」

「――時間は」

「2秒」


ここでカナはガントレットで長剣の根元近くを殴り、数メートル距離を置く。

そのままバヨネットでの銃撃を警戒したアルトは、


「――――は?」


カナがバヨネットを投擲した(・・・・)のを慌てて避けた。


時間にして1秒に満たない間に、アルトは思考する。

バヨネットはカナと逆側に刺さった。これでは空の左側が隙だらけである。

特に右手がガントレットであるので、武器を変えるにしてもすぐにはフォローができないはずである。

と、アルトは容赦なく無防備なカナに切りかかる。


カナはガントレットによる前方跳躍でそれをかわす。

一時しのぎだ、とアルトが勝負を終わらせようとしたとき、


バシュッ


アルトの目の前に赤く10pと表示されていた。

衝撃の源は右肩。正面上のカナを改めて確認すると、


――――どうやら後方から自分の肩付近を通過してきたと思われるバヨネットを、両手でわしづかみした瞬間を目撃した。


アルトは直感ですべて理解した。

一部バヨネットにはタイマー機能があり、時間経過後に発砲する機能がある。

まっすぐ投擲されたブラスト・バヨネットは、その発砲による推進力で自ら戻ってきたのである。


衝撃によりアルトは、既に振り下ろされるバヨネットを重量のある長剣で防ぐ隙がなかった。


豪快に振り下ろした直後、カナ達の視界には緑色の50Pとともに、試合終了の文字が表示された。


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