カワウの災難 1992年12月25日号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1992年(平成4年)12月25日号掲載
カワウの災難
十一月十七日の火曜、カモの調査で保護区に入っていた大学院生の嶋田君が息せききって戻ってきた。大きなカワウを抱えている。嘴にはなんと十センチもあるまっ赤なルアーがぶら下がっているではないか。日曜日、丸浜川の水車のところで大きなルアーをつけたカワウが見られたとのこと。同じ鳥に違いない。
「弱りきっているみたい。近寄っても振り向きもしないんだ」
ルアーにはさしわたし三センチもあるギャング針が二つもついていた。一つは首の皮膚と嘴の外側にがっちり食い込み、下嘴に大きな穴をあけている。もう一つは半ば呑み込まれて舌や喉に刺さり、口の中は変色して腫れ上がっている。
さあ大変、今日は主人がいないから、私が何とかしなくてはならない。しかし、ギャング針は錨型なので、二つで合計六本の針先が全部突き刺さっているのだ。おまけに針先にはアゴがついている。まず針先を突き出してアゴを切り取り、それから針を抜かなくてはならないが、一本を動かそうとすれば、他の針先も動いて傷口を広げてしまう。
嶋田君にカワウをおさえてもらって外側の針はどうにかはずした。しかし、口の中の針にはこわくて手が出ない。だいたい、私は人さまの指に刺さったトゲを抜くことすらできないのだ。
こういう時に頼りになるバイト生の石川君がいてくれたのは幸いだった。嶋田君がカワウの嘴を目いっぱいひろげ、私が懐中電灯で照明係をつとめている間に、石川君が針のアゴを切り、一本ずつ針を抜いた。腫れ上がった舌をちぎりそうになったり、切りとった針先が喉にとびこむかとひやひやしたが、十五分ほどで無事にギャング針を取り除くことができ、心底ほっとした。頼もしいお兄さんたちがいなかったら、どうなっていたことやら。
喉の中がひどく腫れ、カワウはヒューヒューと苦しそうな呼吸をしていた。しかし食道には傷がなく、餌の魚はどうやらのみこんだ。二日ほど首を背の羽に入れ、しょんぼりとたたずんだままだったが、食べてくれさえすれば回復は早い。三日目には入れておいた箱から勝手に出るようになり、一週間もたつと、いやいやながら手から餌を受け取って食べた。十日もしないうちに、人の姿を見ると寄ってきて餌をねだるようになった。
半月後の十二月二日、すっかり元気になったカワウに環境庁の標識足環をつけ、丸浜川の堤防に出した。カワウは何のためらいもなくまっすぐに飛び立ち、仲間のいる保護区の海面へと楽々とはばたきながら飛んで行った。




