春の散歩道 1982年4月16日号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1982年4月16日号掲載
春の散歩道
福栄二丁目のセブンイレブンの角から観察舎の前を通り、行徳高校へと抜ける道は、かつての堤防敷だった。観察舎入口は車止め作で仕切られ、自動車の通り抜けができないので、車で来所される方にとっては、駐車場もなく何かとご不便をおかけしている。しかし、注意深く歩いてみると、この一キロあまりの遊歩道も、結構楽しい観察コースになっている。
セブンイレブンの角から福栄公園のかたわらを通って行くと、頭上を横切る高圧線が目につく。鴨場に出入りする鳥たちにとっては、どうしても越さなくてはならない関門である。夏の夕方などは、ねぐらに帰るムクドリが電線や鉄塔にびっしり並んで、リャーリャーとにぎやかに鳴いているが、ムクドリも今は巣作りの最中。大群にはならず、公園のクローバーをわけて餌をとる姿が目につく程度。高圧線の下で見ていると、サギやカモが苦労しながら高度を上げて、何とか上を越えて行くところが見られる。電線の間を通り抜ける時など、見ていてはらはらするような光景だ。
左手にひろがる泥地(欠真間三角と呼び名をつけた)はかつて舟付場だった。行徳市街の家庭廃水の流入によって、見るかげもなく汚れはて、臭気もひどい。しかし、周辺をふちどるヒメガマのしげみには、何つがいかのバンがすみついている。畑から泥地の上をピウ、ピウとにぎやかに鳴きながら飛ぶ鳥がいたら、コチドリと考えてよい。こんなに汚れた泥地でも、鳥たちがかろうじて住みついている。四月下旬になれば、夏鳥のヨシゴイやオオヨシキリも戻ってきて、しげみの中に巣をかけることだろう。
車止柵のそばに、三次館長が腕をふるって掲示板を立てられた。行事予定や身近な自然のたよりを掲示して行く予定だが、そのすぐそばに、葉脈が白く浮き出た異様な植物が生えている。どぎどぎと鋭いトゲにおおわれた巨大なオオアザミである。ヨーロッパ原産の帰化植物で、去年までなかったはずだが、付近の株から種子が飛んできたのだろう。
右側のヤマザクラの若木にもちらほらと花が咲いた。三年前に植えた時は指くらいだったが、腕くらいの太さに育ったものもある。あと十年もすれば、桜吹雪が見られるかも知れない。一方、十年選手のニセアカシア林は、地下にのばした根から若木が次々に立ち上がり、毎年じりじりと勢力圏をひろげている。冬の間、コミミズクやトラフズクの格好のとまり場だった裸の枝には、やっと黄緑色の若芽が芽吹いてきた。
水路を隔てた新浜鴨場の竹やぶでは、ゴイサギたちが巣作りをはじめている。グワッ、ゴワ、グワッとしゃがれたラブコールにまじって、ギャアーというけんかの声が聞こえ、巣材の小枝をくわえて顔を出すものもある。
千葉県下のサギのコロニー(集団繁殖地=サギ山ともいう)は本当に少なくなってしまった。その残り少ないコロニーでさえ、声がうるさい、ふんが汚いと目の仇にされ、サギたちは次々追い立てられて行く。昔はふんを肥料にするため、サギ山は大事にされたというのに。
ここ行徳では、餌場を失ったサギ類が年々減少するためか、幸か不幸かは知らず「サギ公害」とまでは言われていないようだ。めっきり減った白鷺類に対し、ゴイサギが何とかながらえている裏に、観察舎で給餌する魚のアラがいくらか関係しているかも知れないと思うと、何とも複雑な気分になってしまう。
さて、観察舎からよく見える「目玉商品」は、ここのところダイシャクシギ。体長の三分の二もある長いくちばしをたくみに使って、次から次へとカニをとる様子は、いつ見ても面白い。冬鳥のカモやカモメたちは四月末にはほとんど姿を消すが、シギ・チドリなどの旅鳥が五月半ばまでは見られる。
観察舎から行徳高校までのでこぼこ道のかたわらでは、スイカズラのつるが日増しに伸びて行く。五月のなかばには「スイカズラの小径」のすばらしい香りが楽しめることだろう。