!(ぎゃっ) 1983年8月26日号掲載
!(ぎゃっ)
◇ゴツッ
頭に何かがぶつかった。振り向こうとしたとたん、トビのミルブス君(放し飼い~半野生)が頭をかすめて対岸に向かうのが見えた。けしからん!禽舎で半年も面倒見たのに、一年近い付き合いなのに、ひとの頭をけとばすなんて。
被害者第一号は私。常連ばかり被害が第五号までに及んだ頃、ミルブスのわるさはやや下火になった。おりしも干潟にウミネコやカルガモが集結する時期。悪トビはこうした群の頭上すれすれに舞い下りては、あわてふためいて逃げまどう鳥どもを見て悦に入っているらしい。人の頭をけとばすよりはましな趣味かも知れないが、鳥のカウントの途中で群を追い散らされるたびに、ミルブスの評判の落ちること。
◇「あの白い鳥、何ですか。」
雑居房に収容されたカモやサギを見て、まず発せられる質問の一つである。いつものように、「白さぎの一種で、コサギという種類です。」と答えると、「やっぱりサギね。じゃ、ここにいるのはみんなサギなのね。」
当時、雑居房にいたのはコサギ四羽、カルガモ十八羽、ユリカモメ五羽、ミツユビカモメ一羽。純白、こげ茶、淡いグレーと色彩様々、スタイル多様。解説者はやっきとなって、こっちの黒っぽくてふとったのはカルガモ、嘴が赤いのはユリカモメ、ほら、サギとはずいぶん違うでしょ、としどろもどろ。
◇チクッ
「あいたっ」と思わず腕を見た。アリか何かにかまれたと思ったのだ。ところが、腕にとまっていたのは、何とミノムシ。一センチにも満たないちいちゃなミノをふりたてた勇姿。
風に飛ばされてきて、あたりには適当な食物も見当たらず、腹立ちまぎれに(?)私の腕に思いきり食いついたというわけ。
ゾーッ。
◇「この猫、ソメたんですか」
「えっ」と聞き返すと、「ほんとにまっ黒ですねえ。染めたんですか」
わが家の黒猫、ススムちゃんのこと。もちろん断じて「染め」たりなんぞはしていない。うすくとら縞が透けて、白い差し毛も数本あるという、少々フデキな黒猫であるからして「染め猫」と思われたのだろうか。それともこの辺では猫の黒いのをあまり見かけないためだろうか。
ついでながらススムちゃんとは、クロネコヤマトー宇宙戦艦ヤマトー古代進 からいただいたという単純な名である。
◇そのカブトムシは、コフキコガネくらいの大きさしかなかった。ツノも八ミリ足らず、大きめのカナブンのようだった。保護区のアシ原のまん中にあるツバメのねぐら、その調査の際に捕えられたのだから、そこまで数百~数千メートルの距離を飛んできたわけだ。幼虫から飼われ、羽化したところで放されたか、逃げたものだろう。つらつら考えるに、行徳や浦安一帯のカブトムシの生息数(飼育箱以外ではめったに見られないはずだが)は、なみのクヌギ林よりはるかに多いに違いない。従って、カブトムシが保護区に飛んできても何の不思議もない。
さて、このカブトムシ君は、あてがわれたスイカの皮にしっかりしがみつき、離れる気配もなかった。ところが二晩目にふっと姿を消し、発見時にはコップに入った水の中に沈んでいた。引き上げてもぴくりとも動かない。いくら待っても動く気配はなく、哀れにも生涯を閉じたと思われた。しかし、半日後かすかに足を動かしはじめ、間もなく息を吹き返した。そしてあてがわれたキュウリに再びぴったりとしがみついて汁を吸っていた。
八月もはや中旬、秋の渡りが日増しに目立ってきている。うだるような暑さがふっとやわらぐ日暮れ時、満ちてきた潮に追われるシギが、すき通るような声で鳴き交わしている。
オシロイバナのはなやかな色、ゴイサギの声‥‥‥夏っていいなあ。あっという間に去って行く。




