7 ホワイトじゃなくてグリーンって、アスパラかよ
おれの絶叫など、どこ吹く風、元子とシャロンは両手を手すりから離してバンザイし、「ヒューッ!」「イエーイ!」と大声ではしゃいでいる。
おれは思わず目をつぶろうとして、ハッと思い出した。何かの記事で、ジェットコースターで目を閉じると恐怖が増す、と書いてあったのだ。おれは力いっぱい目を見開いた。
他にも恐怖を和らげる方法が載っていたはずだ。思い出せ、おれ。
そうだ。進行方向を先に大声で言う、というのがあったぞ。
「下ああああーっ! 上ええええーっ! 右いいいいーっ! 宙返りいいいいーっ! ああああーっ! もう無理いいいいーっ!」
あと数秒で失神する、というところで水平移動になり、減速し始めた。
「あら、もう終わりなの?」
「もっと、楽しみたかた、でーす」
前の二人のお気楽発言に、後ろの席のメイメイが笑った。
「よろしければ、また乗ってください。今は、取り急ぎ、大統領官邸に向かいましょう。忘れずにシートベルトをお外しくださいね」
先に二人が降り、メイメイも降りようとして、ふと、おれが座ったままなのに気づいてくれた。
「中野さま、どうされました。あ、まさか」クンクンと鼻を鳴らし「良かった。お漏らしではないようですね」
漏らすかよ!
「いや、腰がさ、ちょっと」
「ああ、そうですか。わたくしがお手伝いいたしましょう」
そう言うや否や、メイメイはおれの両脇に手を差し入れ、ズボッと座席から抱え上げると、そのまま駅のホームに降ろした。
「中野さま、歩けますか?」
「も、もちろんさ」
本当はまだ膝がガクガクするのだが、先に降りた二人がおれの方を見て笑っている気がして、とても弱音なんか吐いていられない。
ジェットコースター、いや、モノレールの終点は、見覚えのある場所だった。ドラード人が生活の拠点にしているアゴラ、すなわち、巨木の空洞に溜まった黄金と土砂でできた土地のうち、最初にモフモフが連れて来てくれたところのようだ。
「ここは、ホテルグリーンシャトーがあったアゴラだな」
メイメイが笑って頷いた。
「はい。グリーンシャトーを改装し、大統領官邸にしました。通称は、グリーンハウスです」
それだと【温室】という意味になる、と教えてやろうかと思ったが、考えてみれば、ホワイトハウスだって【白塗りの家】だ。
茫々だった草原は刈り込まれ、獣道のようだった道路は、日干しレンガが敷き詰められ、随分歩きやすくなっていた。
元子とシャロンはよほどウマがあったのか、ずっと喋りっぱなしで遅れ、何度かおれとメイメイは立ち止まって待たなければならなかった。もっとも、お陰で腰のフラつきに気づかれずに済んだが。
やがて見覚えのある、ツタの絡まるバカでかい丸太小屋が見えてきた。相変わらず、屋根の上では風車が回っている。
「見た目は、あんまり変わってないな」
メイメイは少し顔を曇らせ、「何しろ、急でしたので」と言った。
「そうだ。色々あり過ぎて訊くのを忘れてた。モフモフが大統領って、どういうことなんだ?」
メイメイはちょっと困ったような顔になった。
「すべて、姉からご説明します。とりあえず、中にお入りください」
そう言うと、メイメイは、肉球のある掌で扉を押し開いた。
以前長いテーブルのあった大広間は、細かい葉っぱを編んだジュータンが敷かれ、奥に重厚な木製の机が置いてあった。
その机に座って書類にサインをしているのは、珍しく本物の布製のスカーフを首に巻いているドラード人だった。
「モフモフ!」
モフモフはハッとしたように立ち上がり、「お待ちしておりました!」と叫ぶと、駆け寄って来た。
あの体重でハグされたら大変だと、おれが身構えていると、モフモフはおれの横を通りすぎた。
「え?」
驚いて振り向くと、モフモフはシャロンを抱き上げてグルグル回りながら、「本当に、ありがとうございます!」と叫んでいる。
どういうことだよ!




