53 やっぱり最後はパーティーかよ
おれは要らないと言ったのだが、ドラードの名誉勲章なるものをくれるらしい。
そのため、正装してパーティーに出席してくれと言われた。冗談じゃない。
「だいたい、正装しろって言われても、そんな服持ってないよ」
大統領執務室を兼ねるグリーンハウスの大広間でモフモフに文句を言ったら、「それは黒田さまがご用意してくださるそうです」と笑った。
「でもさ、いいのかね。おれのせいで、ドラードはメチャメチャ損したんだぜ」
「そんなことを思うドラード人は、一人もおりませんよ」
そう言ったのは、裏口の方から入って来たメイメイだった。ワザとじゃないとはいえニセの情報を流した件は、お互いさまということで、先ほど和解した。
「それは、守旧派だけじゃないのか?」
その質問にはモフモフが「ドラード人全てが、中野さまに感謝していますよ」と答えた。
「だと、いいけど。モフモフたちの子供の世代になって、恨まれないかなあ」
もちろん、おれは例え話で言ったのだが、モフモフの顔が赤くなった。
「どうしてご存知なのですか?」
「えっ、そうなの?」
すると、メイメイまで赤くなった。
「実は、わたくしも」
「はあ、そりゃ、良かったな。二人ともおめでとう」
さすがに姉妹、ユニゾンで「ありがとうございます」と言った。
「ええと、でも、メイメイは、結婚はまだじゃなかったっけ」
「はい。ですので、大変申し訳ないのですが、今日の中野さまの祝賀会と、わたくしたちの披露パーティーを兼ねさせていただけないでしょうか?」
驚いた。そんなこと、地球ではありえない。
「おれは全然いいけど、それでいいの?」
メイメイはニッコリ笑って頷いた。
「元々ドラード人には婚約や結婚の披露パーティーの習慣がないのです。姉の時も、みなさまのフェアウェルパーティーと兼ねさせていただきました。今回も中野さまのパーティーですので、縁起がいい、と思います」
「そうか。じゃあ、段取りはメイメイたちに任せるよ」
「ありがとうございます。あ、それから、お手空きでしたら、荒川さまが少しお話をしたいとおっしゃっておりました」
「なんだろう?」
例の会議室にいるとのことなので、おれはすぐに行ってみた。
扉の【大統領顧問室】という表示はすでに外されていた。
中に入ると、荒川氏が私物を片付けているところだった。
「失礼します。おれにお話があると聞きましたが、今いいですか?」
「おお、もちろんじゃ。座ってくれ。わしも少し休憩したい」
コーヒーを淹れてくれるというのを止め、おれが準備した。黒田氏が持ってきてくれたという、本物のコーヒーだ。
「うむ。やはり、ドングリコーヒーより香りがいいのう」
「そうですね」
コーヒーを一口飲むと、荒川氏はフーッと深い溜め息を吐いた。
「夢のようじゃなあ。あの溢れるほどの黄金が消えてしまうとは」
「すみません」
荒川氏は笑って首を振った。
「謝る必要など少しもない。本当によく決断してくれた。改めて、わしからも礼を言う」
荒川氏は深く頭を下げた。
「よしてください。恥ずかしいです」
「いみじくも、森の精霊の言っておったトリックスターじゃったんじゃなあ、中野くんは」
おれは部屋の奥に目をやったが、巨大な伝声器はすでに撤去されていた。荒川氏も、同じところを見ている。
「森の精霊は、再び黒子に徹するという。マムスター、いや、ドラード人たちはもう自力でやって行けるし、そうすべきじゃとな。わしもそう思う。ああ、森の精霊から、くれぐれもきみに感謝していると伝えてくれと言われたよ。さて、そういうことで、この部屋は再び長老会議に使われることになった。もっとも、グリグリは、今後も大統領は必要と考えておるらしい。聞いたかもしれんが、モフモフが妊娠したから、当分は旦那のイサクを臨時大統領とし、近いうちに選挙をやるそうじゃ」
「へえ、なんかすごいですね」
「ああ、彼らなりに、一生懸命考えておるんじゃ、この惑星の未来をなあ」
少し淋しそうな荒川氏に、おれは聞いてみた。
「荒川さんは、これからどうされるんですか?」
「いよいよ引退して、隠居生活を楽しもうと思ったんじゃが、悪いやつがおってのう」
苦笑する荒川氏の視線の先に、ちょうど部屋に入って来た黒田氏の姿があった。
「ふん、そんな殊勝なじいさんじゃないだろう。まだまだ娑婆っ気が抜けんくせに」
「ふふん、おまえほどではないわい」
おれは、まだポットに残っていたコーヒーをカップに入れて黒田氏に出した。
「おお、ありがとう。英雄にそんなことをしてもらっては恐縮するよ」
「やだなあ。ちっともヒーローじゃありませんよ」
おれが照れて真っ赤になるのを笑って見ていた黒田氏が、荒川氏に「中野くんも加わってもらったらどうだ?」と尋ねた。
「どうじゃろう。学生さんじゃから、勉強が優先じゃろう」
「何の話ですか?」
黒田氏がその質問を引き取った。
「わがはいから説明しよう。色々あって頓挫していたが、ドラードの黄金を輸出するために作った貿易会社がまだ残っている。廃業するのは簡単だが、折角だからドラードの工芸品などの輸出を細々でもやりたいと考えている。これなら小規模でいいから、わがはいと荒川以外に二三人いればいい。なるべくドラード人を雇いたいが、まだまだ仕事を熟せないだろう。そこで、黒田星商から出向させようと思ったが、きみが入ってくれれば百人力だ」
「そんなの、買い被りすぎですよ。とにかく、田舎の親に留年だけはするなと言われていますので、精々コンビニのバイトぐらいしかできません」
そういえば、あの店長、まだ働かせてくれるだろうか。
そんなことを考えていると、入口の方から「本人が買い被りって言ってるんだから、無理に誘うことないじゃない」という声がした。
もちろん、シャロンだ。
黒田氏はすっかりメロメロの顔になり、「そうだな」と頷いた。やれやれ。
シャロンは、何故かツカツカとおれのそばに来た。
「あたしは課外授業があって、夜のパーティーまでいられないから、メイメイちゃんたちによろしくって言っといてちょうだい」
「ああ、そうなのか。わかった、伝えるよ」
「それと、もう一つ」
「何だい?」
「あんた、チキン野郎にしては良くやったわね。ご褒美をあげるわ」
フワッといい香りがしたかと思うと、おれの頬っぺたに何か柔らかいものが触れた。
「え?」
「じゃあね!」
パタパタと去って行くシャロンを呆然と見送るおれを、黒田氏が泣き笑いのような顔で見ている。
その横で荒川氏が、「縁は異なもの、じゃなあ」と呟いた。
パーティーが始まるまで、おれは呆然としたままだった。
黒田夫人がタキシードを持って来てくれた時も、おれの顔をチラチラ見ているのはわかったが、うまく喋れなかった。
タキシードに着替え、グリーンハウスの大広間でセレモニーが始まっても夢うつつの状態だった。
それでも、イサクの手造りだという、やたらと大きな木製の勲章を首から下げられた際に、自然に巻き起こった拍手には感激した。
中でも、一番喜んでいるのはプライデーZだった。やったー、やったーと叫んでいる。
声こそ出さないが、チャッピーもずっとおれの周りから離れない。
「チャッピーちゃんの飼育許可が下りたわ。これで堂々と地球に連れて帰れるわよ。もっとも、中野さんの部屋では飼えないでしょうから、しばらくはウチの庭で預かることになるけど」
そう教えてくれたのは黒田夫人だった。
「はあ、ありがとうございます」
黒田夫人がプッと吹き出した。
「わたしも意外だったけど、あの娘としては、精一杯のお詫びのつもりだったと思うわよ」
「え、チャッピーのですか?」
「いやねえ、今のはシャロンの話よ」
「あ、ああ、すみません」
黒田夫人は少し笑いながら、「あまり真剣に受け取らないでね」と言った。
「それは、もちろんです」
「シャロンは、ああ見えてとても淋しがりやなの。息子もナオミさんも実家から飛び出して、シャロンが生まれた頃はとても生活が苦しかった。それで構ってもらえない分、一層勉強に打ち込んだみたい。ところが、天才だということが知れ渡ると、それぞれの実家から関心を集めるようになった。両親との間に挟まれて、葛藤もあったでしょうね。それで余計に他人にきつく当たるようになったの」
おれはようやく落ち着きを取り戻し、微笑んだ。
「わかってますよ。本当はいい子だって」
「ありがとう。これからも仲良くしてあげてね」
「うーん、それはまだ難しいかもしれません」
黒田夫人も苦笑しながら、ステージの方に目を向けた。
「あら、そろそろ新郎新婦のお出ましよ。紙吹雪は用意した?」
「もちろんです。盛大にブワーッとやりますよ!」
次の瞬間、会場は去年の倍以上の紙吹雪に包まれていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
本作は、初めて単体で十万字を超える作品となりました。
ショートショートから執筆活動を始めたわたしにとっては、短距離走者がマラソンを完走したような気持ちです。
ただし、登場させたキャラたちがもっと暴れたがっているので、いずれ続編を書きたいと思っています。
それでは、また。




