52 安らかに眠ってくれよ
「河童スーツ、全速力だ!」
「了解ちまちた」
急加速したため、おれはプライデーZが遅れないよう、逆にスプリングを引っ張った。
と、おれが下に気を取られている間に、上から巨大な影が接近し、おれの横をすり抜けて湖底へ進んで行った。ドライドンだ。
ドライドンはおれと一枚岩の中間で止まると、脚をいっぱいに拡げた。半透明の体越しに、岩の欠片が飛んで来るのが見える。
《ドライドン、危ないぞ!》
おれは思わず水中スピーカーで叫んだが、もちろん、理解はできないだろう。
プライデーZがおれの横に並び、《彼なりの罪滅ぼしだと思います。厚意を無にしないよう、急ぎましょう!》と諭した。
身を挺しておれを護ろうとしてくれたチャッピーに起きた奇跡は、ドライドンには起きそうもなかった。
おれはせめて最後の言葉を掛けた。
《アクラ!》
友という意味のその言葉が、果たしてドライドンに届いたのかはわからない。
次の瞬間には、無数の岩の欠片がドライドンの体に突き刺さったからだ。
「さらばだ、アクラ……」
思わず速度を緩めてしまったおれに、プライデーZが声を励ました。
《ボス! 気持ちはわかりますが、急がないと!》
《うん、そうだな》
おれは改めて河童スーツに「全速で上昇だ!」と告げた。
「下から何かこっちに飛んで来てまちゅ」
「え?」
見ると、ドライドンの体を貫通した岩が何個かあり、その中の一個が真っ直ぐおれの方に向かって来ていた。
「河童スーツ、避けろ!」
「間に合いまちぇん」
気が付くと、おれの前にプライデーZが来ていた。
《おいっ、プライデーZ、おまえまで自分を犠牲にするな! やめろ!》
《お任せください! よーし、喰らえ鉄拳! ロケットパーンチッ!》
バシュッという音と共に、プライデーZの残った方の片腕が岩目掛けて飛んで行った。火薬が入っていないため、ぶつかると同時にグシャリと潰れたが、衝撃で岩の進行方向が僅かに曲がり、おれのすぐ横を通り過ぎた。
プライデーZは、踊るように水中を飛び跳ねた。
《やったー、やったー、やったーぜーっと!》
《おい、あんまりはしゃぐな。もうすぐ水面だ》
ザバッと水音を立てて、おれとプライデーZは水面から出た。
「河童スーツ、少し上昇して停止飛行しろ。様子を見る」
「あいあいちゃー」
いかん、いつの間にかプライデーZに感化されてる。
すぐに湖面の中央部分に白いドーム状のものが浮かんできた。黄金神殿だった宇宙船だ。元々白かったのだろう。
宇宙船は水面から浮き上がると、おれと同じようにホバリングしている。その下の部分から白い水柱が湖面に繋がっていた。よく見ると水柱から湯気が立っている。水蒸気爆発のエネルギーを吸収しているらしい。そのためか船体が光って来た。
宇宙船は徐々に明滅を繰り返しながら、明るさを増している。それがピークに達したと思われた刹那、ドーンという腹に響く音と共に、宇宙船を中心としたリング状の光の環がサーッと広がった。
そして、次のリングが、また次のリングが、果てしないかと思えるほど続いた。
やがてリングの出現する間隔がゆっくりになり、ついに止まった。
と、宇宙船の上部に丸い穴が開いて、ドッペルが出て来た。手招きしている。
「河童スーツ、あいつの近くに寄れ!」
「いえっちゃー」
落ち着いたら荒川さんに頼んで、河童スーツの言葉遣いを修正してもらおう。今はそれどころじゃない。
「どうした、何かトラブったのか?」
おれの問いかけに、ドッペルは笑顔で首を振った。
「いや、順調だ。一応、説明しておこうと思ってね。元素転換機によって創られた金は、全て変換したつもりだ。基本的には土と石だ。土は適当に有機物も含ませている。石の方だが、いずれ必要になるだろうから、一部を鉄鉱石や銅鉱石などの地下資源にしてある。また、地下にあるものの一部は丸ごと石油にした。どこにあるかは探してくれ。基本的な環境は、以前と変わらないよう調整はした。これから先は、ドラード人にお任せするよ」
「ありがとよ。まあ、おれが礼を言うのも変だけどな。ところで、おまえはこれからどうするんだ?」
「とりあえず、気の毒なドライドンを弔ってやろうと考えている」
「そうか。おれからも頼むよ」
おれは頭を下げた。
「気にするな。かれは本望だったと思うよ。まあ、それが済んだら、また旅に出るよ」
「え? どこに?」
「足の向くまま、気の向くまま、というやつさ」
ドッペルは心なしか淋しそうだったが、おれは気がつかないフリをした。
「うらやましいな。気をつけて、という必要もないか。じゃあ、お別れだ」
おれが差し出した手を、ドッペルはギュッと握り返した。
「中野くん。ドラード人や森の精霊、それに地球人たちによろしく伝えてくれ」
「ああ」
ドッペルはニッコリ笑って宇宙船の中に戻った。
「ふーっ。さあ、おれたちも帰ろうぜ。まだ終わったわけじゃないからな」
「アイアイサー!」
「あいあいちゃー」




