4 おれは、こういうのに弱いんだよ
すぐにオランチュラだと気づいたが、一年ぶりなので、まだ気持ちが順応できていない。
思わず振り払おうとしたが、逆に、絡みついてきた。そればかりか、ここぞとばかりにペロペロ舐めてくる。
「わっ、やめろ。うひひ、くすぐったいって。ひゃーっ、やめろって!」
「中野さまにお会いできて、喜んでいるのですよ」
「へ?」
オランチュラがしゃべったのかと思ってビックリしたが、もちろんそうではなく、その向こう側に懐かしい姿を発見した。
葉っぱで編んだベレー帽を被った、二足歩行の巨大カピバラのような生き物。
「モフモフ!」
が、相手は苦笑して首を振った。
「残念ですが、姉は今とても忙しく、本来なら自ら中野さまをお出迎えしたいと申していたのですが、叶いませんでした」
「すると、きみは」
「はい、妹のメイメイです。姉からツアーガイドの仕事を引き継ぎました。今被っているベレー帽は、姉のお下がりです」
「そうか、そうだよな」
この惑星の大統領にどれくらいの職責があるのかわからないが、ツアーガイドより忙しいことだけは確かだろう。
それにしても、なぜモフモフが大統領になったのか、メイメイに訊こうと思ったが、その前にこのオランチュラを何とかしないと、身動きもできない。
「メイメイ、こいつに少し落ち着くように言ってくれ。そもそも、なんだってこんなにおれにまとわりつくんだ?」
メイメイは笑いながらオランチュラに現地の言葉で何か話しかけ、おれから離してくれた。
「この子は、一年前中野さまに助けていただいた、あのオランチュラなのです」
「へえ、そうなんだ。まあ、そう言われても、おれには他のと見分けがつかないけどな」
メイメイは少し悲しそうに「ここをご覧ください」と言って、オランチュラの左の三番目の足を指差した。その足だけ、途中で折れ曲がっている。
「パパ・ロビンソンに縛られたロープが足に絡み、凧に引っ張られた際に折れてしまったそうです」
「……そうか、可哀想なことをしたな」
だが、メイメイは笑顔で首を振った。
「これだけで済んだのは、中野さまのお陰です。この子も、それが良くわかっています」
「なるほどなあ。あ、でも、今日おれが来るのが良くわかったね。メイメイが教えてあげたのかい?」
すると、メイメイは慈しむように、オランチュラの頭を撫でた。
「いいえ、誰も教えておりませんし、教える必要もありません。この子は、ケガが治ってから毎日、宙港に来て中野さまのお帰りを待っていたのです」
「……」
おれは、鼻の奥がツーンとして、何も言えなくなってしまった。
その時ドアがノックされ、返事も待たずに元子が入って来たため、おれは慌てて目を擦った。
「お目覚めなら、出発よ。早く準備して」
元子は、ぶっきらぼうにそれだけ告げると、すぐに出て行った。
なんだよ、少しも国賓待遇じゃないじゃないか。
おれが荷物入れからリュックを出していると、メイメイが遠慮がちに「中野さま」と声をかけてきた。
「え? なに?」
「よろしければ、この子を一緒に連れて行っていただけませんか?」
「ええっ、でも」
断るために何かうまい口実を探そうと考える間もなく、オランチュラはメイメイの手を振り切って、おれに抱きついて来た。
なんだか、子供の頃に実家で飼っていた、コーギーのチャッピーを思い出してしまった。もちろん、オランチュラは小型犬であるコーギーの何倍もでっかいが。
「うーん、仕方ないか。でも、ドラードにいる間だけだぞ。こんなの、とても地球に連れて行けないから」
「ありがとうございます」
メイメイは、嬉しそうにオランチュラの背中を撫でた。
「中野さま、よろしければ、名前を付けていただけませんか?」
「はあ。ま、じゃあ、二代目チャッピー、かな。いや、二代目よりジュニアがいいかな。でも、ジュニアは変か。うん、単純にチャッピーでいいや」
メイメイが伝えたらしく、オランチュラ、いや、チャッピーはおれを舐めまくった。
「ひーっ、わかったって、もう!」




