48 おれがおまえで、おまえがおれで、ってややこしいよ
国民的アニメのファンだというおれに、いや、おれじゃないおれに、ああ、もうややこしい。
本人は違うと言っているが、ここは一応わかりやすくするために、ドッペルと呼んでおこう。そのドッペルに、おれは尋ねてみた。
「おまえが何者で、どういう経緯があるのか知らないが、ここに元素転換機はあるのか?」
ドッペルは苦笑した。ちなみに、おれの苦笑は、あまり気持ちのいいものではなかった。
「結局、それか。ま、あるっちゃ、あるけど」
「なんだよ、勿体ぶって」
ドッペルはぐるりと周囲を見回し、ニヤリと笑った。
「ここさ」
「はあ?」
「おれたちは、今まさに、元素転換機の中にいるよ」
「えっ」
おれは自分の体が黄金化し始めていないか、慌てて自分の手を見た。
「心配しなくていい。今は作動していないよ」
「だ、だよな」
ドッペルは、フーッと息を吐き、伸びをした。
態度悪いぞ。っていうか、他人からは、おれってこんな感じに見えているのか。ヤダなあ。
「まあ、元素転換は、この宇宙船の機能の一部だけどね」
「宇宙船?」
「そうだ。で、元素転換機もおれも、言ってみれば宇宙船の備品さ。おれは、謂わば、ナビゲーター兼カウンセラー兼その他諸々の雑用係だな。アバターは必要に応じて使っているけど、本体は宇宙船に組み込まれているプログラムだよ」
「ここが宇宙船だというなら、乗組員はいるのか?」
ドッペルの表情が、少し哀しげなものに変わった。
「マスターか。もう、とっくにいないよ。ま、最初から説明するかな。何か飲むかい?」
「もし、飲めるなら、美味いコーヒーをブラックで」
驚いたことに、おれがそう言い終わった瞬間には、横のテーブルに湯気の立ったコーヒーが出現していた。
「す、すげえな」
「元素転換機は、本来、こういう目的で造られたものなんだ。あらゆるものを別の元素から自由に生み出せる。長期間の宇宙旅行には欠かせない備品だよ」
おれは、あまりにも進んだ科学は魔法と変わらない、という話を思い出した。
「ということは、金以外の元素にも転換できるってことだな」
「もちろんさ。逆に、何故金に固執するのか、その方がわからないよ。ああ、ゴメン、脱線したね。そもそもの話に戻そう。どうかコーヒーを飲みながら聞いてくれ」
以下はドッペルの話である。
……おれのマスターは宇宙を股にかける旅行家で、しかも長命な種族だったから、おれも一緒に色んな惑星を見て回ったよ。
マスターがこの惑星に来たのは、今からおよそ二万年前だ。まだオランチュラが文明を築く以前さ。
その頃には、さしものマスターも寿命が尽きようとしていた。そこで、この惑星を終の棲家と定め、墓所を建てることになった。もっとも、墓そのものは宇宙船をそのまま使うことにしたから、あとは乗せる台だけだ。
ちなみに、マスターの種族は巨大な岩が好きで、簡単に移動させる技術も発達していたから、宇宙のあちこちでモニュメントを造っている。地球にもいくつかあるはずだ。
ストーンヘンジとか、あとピラミッドなんかもそうさ。
まあ、そんなことより、今はこの惑星のことだね。
ドラードは地殻変動が少ない惑星なので、あまり大きな岩はない。今宇宙船が乗っているこの岩は、うんと北の海の底から運んで来た。
その後、住民に踏み荒らされないよう、カルデラ湖の中央に浮かべたんだ。まあ、岩を水に浮かせるのは、そう難しいことじゃないからね。
宇宙船の外側をサッと黄金化し、それらしく整えてから、マスターは入滅した。
それに合わせて、おれも機能を停止した。まあ、殉死みたいなものだね。だから、おれが眠っている間にどういうことが起きたのか、正確なことはわからない。
おれが目醒めたのは、大戦争時代の真っ只中だった。あまりにも騒がしく、寝ていられなくなったんだ。
目が醒めてすぐ、惑星表面の異常な元素の偏りを検知した。
極端に金が多くなっていたんだ。オランチュラたちがいつの頃か、宇宙船の周囲に聖地の目印として並べてくれたらしい岩も、すでに黄金化していた。
おれは、すぐにアバターを使って調べてみたよ。
どうやら、おれが眠っている間に誰かが宇宙船に侵入し、一部の技術を盗んで元素転換機を造り、戦争に利用したのだ。
腹も立ったが、それより、何とかしなければ、この惑星の生態系は破壊されてしまう。おれは戦争を止めようと何度かオランチュラのアバターを送り込んだが、すべて黄金に変えられた。
これは思い切った荒療治が必要かと覚悟していた頃、また、宇宙船に侵入者があった。
彼は科学者で、最初に侵入して秘密を盗み、元素転換機を造った張本人だった。
その時、本人とも話したが、そもそも戦費を賄うために、造った金を売ろうとしたらしい。武器に使われたのは、本意ではない、と言っていた。
そこで、これを無効化する技術があるかもしれない、と思って侵入したのだそうだ。
もちろん、なくはないんだが、おれがそこまで現地に干渉していいのか、悩ましいところだった。
そうこうするうちに戦火は激しくなり、これ以上、他の技術まで利用させないよう、一旦島ごと水没させることにした。水に浮かせる装置を止めただけだがね。
一方、科学者は、どうしても元素転換機を無力化する方法を知りたいと、島に残った。おれは、彼を許せない理由があり、簡単なヒントしか与えなかったけどね。
実は、おれがまだ眠っていた頃、彼は空腹に駆られてマスターの遺体を少し齧っていたんだよ。
その後、もはや戦争そのものが継続不可能となって、独りでに終息した。残されたのは、処理しきれないほどの黄金だ。
科学者は研究を続けたが、問題が二つあった。
変換を戻す対象を金に限定することと、その量が多すぎることだ。また、技術的な困難とは別に、そのための莫大なエネルギーを、どうやって確保するのかにも悩まされた。そして、今なおそれは解決はしていない。
そうだよ。彼は今も生きている。
その科学者こそ、きみたちの言うところの、ドライドンだよ。
彼はマスターの遺体を食べたために、異常に長命になってしまった。そして、水中生活に適応した姿に進化したんだ……。




