47 サプライズにも、ほどがあるよ
「河童スーツ、深く静かに潜行せよ」
おれはちょっと映画のワンシーンのようにキメたかったのだが、返事は相変わらず「了解ちまちた」だった。
もう、調子くるうよ。
そんなことより、近づくにつれ、黄金神殿の威容、いや、異様な形がハッキリと見えて来た。明らかに、周辺にある列石部分と、中央のドームは異質なものだ。時代も違うのではないか。
常識的に考えると、原始的なメンヒルが先にでき、近代的なドームが後に建ったはずだが、配置は逆になっている。どう見ても、先にあったドームを囲むようにメンヒルが立てられているのだ。
「拡張現実を表示してくれ」
「残念でちゅが、【黄金神殿】に関ちゅるデータはありまちぇん」
ま、そりゃそうか。だから、行くしかないのだ。イヤな、あ、いかんいかん。予感は封印だ。
「河童スーツ、慎重にドームのあるテーブルマウンテンに降下しろ。そうだな、周辺のメンヒルのすぐ外側ぐらいがいい」
おれは同じ内容を水中スピーカーでプライデーZにも伝えた。
むき出しの岩肌に降り立って気づいたのだが、どうやらこの元は島だった湖底の山は、エアーズロックのような一枚岩のようだ。だから、一気に湖底に沈んでも、上に乗っている構造物が崩れなかったのだろう。
おれはこの巨岩の上を、ゆっくり歩いて行くことにした。
黄金化しているメンヒルは、如何にも無造作に石を切り出したもので、本来は素朴な信仰の対象だったに違いない。
それに比べ、ドームはあまりにも人工的だった。
大きさは学校の体育館ぐらいあり、きれいな半球の形をしている。正面に三メートル四方ぐらいの入口らしい穴がある。穴の中は真っ暗だ。見るからに怪しい。
おれが躊躇っていると、いつの間にか横にプライデーZが来ていた。
《わたしが先に入って様子を窺いましょうか?》
《いや、内部の映像を亜空間通信で荒川さんたちに送りたいから、おれが行かなきゃ。おまえは外で待っていてくれ》
《お一人で、大丈夫ですか?》
《うーん、まあ、何かあったら、すぐに呼ぶよ。あ、そうだ。万が一の場合に備えて、何か命綱みたいなものを持ってないか?》
《荒川さまから、スプリングパンチのスプリングを記念に貰いました。それでよろしければ》
《おお、いいじゃないか。河童スーツのベルトに繋いでくれ》
一応、何かあった場合には、合図としてスプリングを二回続けて引くことした。
《まあ、基本的には、ドライドン以外の生き物は棲んでいないと思うけどね。一応、何かトラップが仕掛けてあるといけないから、危険だと感じたら、すぐ合図するよ。その時は、思い切り引っ張ってくれ》
《了解しました。ご無事のご帰還を、おいの》
《あ、やめて、そいうの。フラグ立っちゃうからさ》
《なるほど。それじゃ、伸ちゃん、行っちゃってー、チェケラ!》
意味不明のダンスを踊りだしたプライデーZにはそれ以上構わず、おれはドームの入口に向かった。
「河童スーツ、照明を頼む」
「あい」
再び正面に回ったお皿の照度を目いっぱい上げても、入口の向こうがまるでブラックホールであるかのように何も見えない。
ええい、もう思い切って入るしかないぞ。
中に入った途端、クラッカーが鳴ってハッピーバースデーを歌われたら、どれだけ幸せだろうと、バカなことを想像した。残念だが、今日はおれの誕生日ではない。
おれは周囲を警戒しながら、入口に足を踏み入れた。
「えええええーっ!」
ある意味、ハッピバースデー以上のサプライズが待っていた。
入口はある種のバリアになっていて、中には水がなく、空気で充たされていた。おれの体が中に入った瞬間に照明が点き、様々な機械や設備が黄金化を免れて、そのまま残っているのが見えた。
だが、そんなことは問題ではなかった。住民がいたのだ。それも、その相手は……。
「驚かせてすまない。コミュニケーションをスムーズにするため、きみをモデルにして分身を作った。決してドッペルゲンガーじゃないよ」
そう、そこに立っていたのは、まさにおれ自身だった。
「お、お、お、おまえはおれ。すると、おれは誰?」
「動揺するのはわかるけど、時間がもったいない。説明を始めるよ。いいかい?」
なんだよ、このおれは。ビジネスライクすぎるぞ。
「あ、ああ、いいよ」
「中の空気は地球の大気の成分に合わせてある。とりあえず、その変なスーツを脱いで、座ったらどうだい。地球人向きの椅子があるだろう」
おれはおれの勧めに従って、スーツを脱ぎ、手近な椅子に腰掛けた。
もう一人のおれも事務用の回転椅子に座り、ニッコリ笑った。
「さて、自己紹介しておこう。おれは地球人の言うところのAI、つまり、人工知能だ。もっとも、造ったのは当然地球人じゃないがね」
「ちょっと、待て。どうして日本語を知ってる?」
もう一人のおれはおかしそうに笑った。
「そうか、まず、そこが気になるのか。簡単に言うと、アニメで覚えたんだよ」
「はあ?」
「おれは独自の通信網を持っててね。きみたちの亜空間通信とやらとも違う、超次元通信だ。ああ、ちなみに、この中にいる間は亜空間通信は遮断させてもらった。きみにキチンと説明したいのでね。話を戻そう。その超次元通信網で、日本のアニメが観れるんだよ。おれはサ◯エさんが好きでねえ」




