46 黄金神殿の秘密って、何だよ
おれを網に閉じ込めたまま、ドライドンは潜行し始めた。これじゃ案内じゃなくて、拉致だ。
結局、プライデーZは魚雷パンチを見失ったらしく、片腕のまま泳いで来ている。こうなると、スプリングを外してしまったのも良し悪しだ。
おれは水中スピーカーで呼びかけた。
《おい、プライデーZ、残ったロケットパンチは大事にしろよ》
《アイアイサー、キャプテン!》
それじゃ海賊だと思ったが、またややこしくなるからここはスルーして、亜空間通信を起動させた。とりあえず、情報を仕入れておきたい。
『荒川さん、黄金神殿って、そもそも何なんですか?』
『うむ。元々中央湖には中心部に小さな島があった。中の島とか、神の島とか呼ばれておったそうじゃ。そこに、いつの時代に建てられたかもわからぬ古びた石造りの神殿があった。残念ながら古すぎて、どういう神を祀っていたのかはわからん。オランチュラたちの大戦争時代の末期、やはり神の怒りを買ったのか、一夜にして島ごと水没してしまったそうじゃ。その直前に元素転換機によって石がすべて金に変わっておったので、幻の黄金神殿として伝えられておるんじゃよ。そこに最後の元素転換機が持ち込まれたとすると、水没する前じゃろうな』
『巻物には何か書いてなかったんですか?』
すると、話し手がシャロンに替わった。
『巻物を書いたのは、オランチュラの科学者だったみたい。元素転換機の改良をしようとしてたらしいわ。でも、実験に失敗して、何か非常事態になったから、簡単な経緯を記して、湖に流したんだって』
うーん、とにかく行ってみるしかないようだ。おれは一旦通信を切った。
かなり水深が深くなり、周囲が暗くなってきた。
「河童スーツ、照明を点けろ」
「了解ちまちた」
どこから照明を出すのかと思ったら、頭の皿の部分が外れ、その下にある蛇腹式の細いアームが伸び、皿がおれの正面に回ってきた。そこから、ハロゲンランプのような強力な光が発射され、サーチライトとなって周辺を照らし出した。
まず、目に飛び込んできたのは、網ごとおれを引っ張っている巨大なドライドンの姿だった。
こうして落ち着いて見ると、形は確かにオランチュラに似ている。光の届かない湖底近くに棲んでいるから、色素が抜けて半透明になったのだろう。細い八本の脚は平べったくなっており、それをオールのように使ってかなりのスピードで泳いでいる。途中で息継ぎをする様子もないから、鰓呼吸をしているようだ。完全に水棲動物に進化している。
その潜って行く先に、キラリと光るものが見えて来た。
「河童スーツ、あの光ってるところをズームアップしろ」
「アップちます」
見えて来た。
全体が黄金なのは当然だが、神殿というからギリシャのパルテノン神殿のようなものを想像していたら、実際にはストーンヘンジのようなものだった。元は岩だったと思われる巨大な金の塊が、サークル状に立ち並んでいる。その中心部に、周りの素朴な金の塊とは異質な、完璧な半球型の黄金のドームがあった。
元素転換機があるとすれば、当然、あの中だ。
少し目を転じると、黄金神殿が乗っている湖底の盛り上がりが見える。上部が真っ平らな典型的なテーブルマウンテンの形をしている。おれは、宙港のある丘を思い出した。島の形が崩れずに、そのままストンと沈んだのだろう。
ここまで来れば、もう網の中に入っている必要はない。早く直接調べたい。
おれは、再び亜空間通信で呼び掛けた。
『シャロン、頼みがある。おれを引っ張ってるこのドライドンに、そろそろ網から出すように言ってくれ』
『ふん。あたしはあんたの通訳じゃないのよ。まあ、今はそんなこと言ってる場合じゃないから、特別にやってあげるけどさ』
文句を言いながらも、シャロンはまたあの耳障りな古代オランチュラ語でドライドンを説得してくれた。
最初は、神聖な場所だからと抵抗していたようだが、口八丁のシャロンに敵うはずもない。結局説得され、咥え続けていた網を、口元で噛み切った。
網は、切れた部分から独りでに開き、おれの体も外に出た。
ドライドンはスーッとその場から離れ、黄金神殿から一定の距離を周回するように泳ぎ始めた。これが彼もしくは彼女の定位置なのだろう。言わば、神殿の守護天使だ。
それを見届けると、おれは目的地を前に武者震いをした。決して怖いわけじゃない。いや、ホントだって。
おれは相棒にも声を掛けた。
《プ、プ、プライデーZ、黄金神殿へ向かうぞ》
《かしこ、かしこまりました、かしこ》
《そこは、アイアイサーだろう。ま、いいけど。とにかく、あの中心部のドームを目指す。行くぞ!》




