39 スーパースターよりトリックスターって、なんでだよ
「中野くん、大丈夫じゃ、心配いらん。すでにカラス天狗スーツの水中用バージョンは作ってあるよ」
おれの了解も得ずに、何を勝手に決めているんだろう、このじいさんたちは。
ここは論戦する覚悟を決めて反論しなければ、いいように使われてしまう。
「冗談じゃありません。どうしておれなんですか。水中なら、ドラード人の方が得意じゃないですか。それに、えー、それにですね」
横に座っているシャロンにバカにされそうで、思わず言い淀んだが、これを伝えなければわかってもらえないだろう。
「まあ、あんまり言いたくはないですけど、えーと、つまり、おれは泳げませんよ」
予想通り、シャロンがフンと鼻先で笑った。
「だから言ってるじゃん、あたしが行くってさあ。こんなチキン野郎に大事な仕事を任せられないわよ」
そう言われると、やはり腹が立つ。
「なんだよ、その言い方! おれは臆病で言ってるんじゃない。他に適任者がいるだろうって話さ。ドラード人はみんな泳ぎが得意なんだし」
荒川氏が「マムスターはダメなんじゃ」と残念そうに首を振った。
「彼らにとって、第一地区は聖域じゃ。その中でも中央湖は、『中の湖』と呼ばれ、古代の神々の墓所として崇められておる。その水中に入るのは絶対のタブーなんじゃ」
モフモフが「すみません」と頭を下げた。
「うーん、そうなのか。でも、だからといって、おれじゃなくても」
すると今度は、黒田氏が「すまん」と謝った。
「きみを推薦したのは、わがはいだ。理由を説明させてくれ」
「はあ、いいですけど」
「感謝する」
そう言って、一旦黒田氏はフーッと深呼吸した。
「さて、物事を為そうとするとき、一番大事なことは何だと思う、中野くん?」
「うーん、やはり能力でしょう。ですから……」
「ちょっと、待ってくれたまえ。確かに能力はあった方がいい。だが、それより大事なのは、わがはいは運だと思う」
「えええーっ、自分で言うのもなんですが、どっちかというと、おれは運が悪いですよ。元子、あ、いえ、小柳補佐官なんか、『トラブルに巻き込まれる超能力がある』なんて言ってたくらいです」
元子が「あら、冗談よ。悪気はないわ」と苦笑した。
黒田氏もちょっと笑顔になり、説明を続けた。
「確かに、一見そう思える。だが、よく考えてみてくれたまえ。去年は、なんだかんだあったが、結果的に宇宙海賊の陰謀が阻止された。今年はギメガ星人の野望が潰え、ゴルゴラ星人が追い出され、シャロンは誘拐犯の元から脱出することに成功し、グリグリは自ら秘密を告白した。すべて、中野くんが絡んでいる。わがはいたちが何ヶ月も解決できなかった問題が、一日二日で決着してしまった」
荒川氏も大きく頷いた。
「そうなんじゃ。ああ、それから、大繁殖していた毒キノコのマンドラは、ホワイトクリーナーZを改良したピンククリーナーZが、すべて除去したよ。ちなみに、Zには特に意味はないがのう」
黒田氏がおれの両肩に両手を乗せた。
「つまり、きみは『持っている』のだよ、中野くん」
おれは、さすがにちょっといい気分になったが、こんなことでは騙されない。
「それは違います。去年海賊を退治したのは、小柳補佐官たちスターポールですし、今年もほとんどがそうです。まあ、シャロンは自力ですが。おれはいつも、巻き込まれてヒドイ目に会ってるだけです。やはり、小柳補佐官が適任だと思いますよ」
元子は肩を竦めた。
「残念だわ。わたしの任期がもう少しあれば、そうしてもいいんだけど。ギメガ星人の問題が解決次第、スターポールに戻るという出向契約なのよ」
その時、元子の胸のバッジから電子音が響いた。
「もう呼び出しが来ちゃった。宇宙には悪い奴らが多くて困るわ。みなさま、これで失礼します」
元子は軽く一礼すると、颯爽と出て行ってしまった。なんだよ。
《われらも、中野氏が良いと思う》
おれはまたしても、ギクッとしてしまった。先に、何か合図を送って欲しいよ。
《地球に、意図せずに問題を解決してしまう『トリックスター』という概念があるそうだが、まさに中野氏はわれらのトリックスターだ。別に煽てているわけではない。これは事実だ》
荒川氏も大きく頷いた。
「頼む、中野くん。もちろん、わしらも全面的にバックアップする。念のため、新しいカラス天狗スーツには、亜空間通信機を装備した。これがあれば、どれほど深く潜っても、ストレスなく会話ができるんじゃ」
どんだけ潜らせるつもりだよ!
迷っているおれに決断させたのは、黒田夫人の「中野さん、わたしからもお願いするわ」の一言だった。この人に頼まれたら断れない。
「わかりました。でも、おれだけじゃ無理です。もう一人連れて行きます」




