3 前途多難な予感しかしないよ
「狙われるって、おれはあんなトカゲ、いや、ティラノ野郎に恨まれる覚えはないぞ」
元子は苦笑した。
「バカね。バラゲは別にあなたを狙ったわけじゃないわ。あいつは、【絶滅の惧れのある全宇宙の動植物の保護と惑星間の違法取引禁止に関する条約】、すなわちリンカーン条約に反対するテロリスト集団のメンバーよ。あなたは運が悪かっただけ」
そこまで言って、元子は不思議そうな顔で、こう付け加えた。
「もしかして、あなたってトラブルに巻き込まれる超能力とか持ってるの?」
んなわけ、あるかーい!
だが、おれが言い返す前に、元子が吹き出した。
「冗談よ」真顔に戻り「あなたを狙ってるのは、宇宙海賊ロビンソン一味の残党よ。陰の参謀という異名を持つ、ドクター三角という男らしいわ」
「どうしておれだよ。海賊を捕まえたのはあんたたちだろ」
元子は肩をすくめた。
「わたしに言われても困るわ。まあ、黒田さんご夫妻は有名人だし、荒川さんは神出鬼没だし、わたしは警察官だし、結局、無防備なのはあなただけ、ってことかしら」
「冗談じゃない。おれはただの貧乏な学生だ。去年だって、偶然巻き込まれただけだ。おれを狙うなんて、逆恨みもいいとこだ」
元子はおれを宥めるように「まあまあ」と言いながら、両手をおれの肩にのせた。
と、そのままグッと力を籠め、まるで跳び箱のようにおれの頭上を飛び越えた。
「おい! 失礼だろ!」
おれが振り向くと、元子は高校生ぐらいの女の子前に降り立ち、「お待ちしてましたわ、お嬢さま」と挨拶している。
元子はお嬢さまと呼んだが、見かけはごく普通の女の子だ。肩の辺りで揃えた栗色の髪を片側だけ結び、水色のフワッとしたワンピースを着ている。
女の子はポッと頬を赤らめ、「お嬢さま、違います」と言った。
少し言葉に外国なまりがあるな、と思ってよく見ると、ハーフっぽい顔をしている。栗色の髪は自然な色なのだろう。
「じゃあ、シャロンさん、とお呼びしますわ。お祖母さまから、くれぐれもご無事にお連れするように言われました」
「よろしく、お願い、しますです」
握手を交わす二人を見て、おれは我慢しきれず、声をかけた。
「何これ? おれはどうなるの? お嬢さまって、誰さ? あんたはおれのボディーガードじゃないの?」
元子は苦笑した。
「ごめんなさい。ドラード臨時政府が、国賓として地球から招待したのは、二人よ。自称貧乏学生の中野伸也さん、あなたと、黒田シャロンさんよ」
「え? 黒田って?」
「そう、黒田ご夫妻のお孫さんよ」
女の子はペコリと頭を下げた。
「よろしく、です」
か、かわいいじゃないか。
「あ、ああ、まあ、黒田さんの孫なら、仕方ないな」
おれの顔を見て、元子が苦笑している。いいじゃないか、ほっといてくれ。
宇宙船の前まで移動すると、元子は腰に手を当て、等分におれたちを見て、話し始めた。
「それじゃあ、宇宙船に乗り込みましょう。さすがに専用機じゃありませんが、一応、ファーストクラスをご用意しました。個室です。万が一に備え、脱出用カプセルも兼ねています。では、わたしは船長と警備の打ち合わせがありますので、お先に失礼しますね」
元子が乗り込んでしまうと、シャロンと二人きりになってしまった。
「ええと、じゃあ、おれたち、いや、ぼくらも乗船しようか」
すると、シャロンは笑顔のまま「なめんなよ」と言った。
「はい?」
「ハーフのJKだからって、なめんな、っつーてんの」
ええーっ、どゆこと?
おれが呆然としていると、シャロンはさっさと乗り込み、「まあ、すごい、ですねえ」などと言っている。
とんだブリッ子だ。
おれは、深く溜め息をつき、黙って自分の個室に入った。そのまま、人工冬眠用のカプセルに横たわり、すぐに遮蔽スイッチを入れた……。
……人工冬眠からの目覚めはさわやかだった。おそらく、爽快に感じるガスか何かを噴霧しているのだろう。
目の前に【いつでもカプセルの扉を開放できます】という赤い表示が点滅している。
おれは、「開放!」と命じた。
すぐにカプセルの上から足元まで光の筋が入り、パカッと左右に開いた。
と、同時に。
大型犬ほどもあるクモが、おれに覆い被さって来たのだ。
「ひえええええーっ!」




