31 降ればドシャ降りって、どこの諺だよ
ドラードの一日は、ほぼ二十四時間で地球と変わらないが、一年は少しだけ短い。そのため、去年来た時とは季節がズレているのだ。
前回は遥か下だった雨雲が頭上にあり、当たり前だが雷鳴は上から聞こえてくる。
……などと、落ち着いて分析している場合ではなかった。
雷というのは高い木などに落ちることが多い。そこに電気抵抗の少ない金がギッシリ詰まっていれば、尚更だろう。
「おいっ、プライデー、起きろっ、大変だ!」
「うーん、あと五分」
「子供か! 緊急事態なんだ、起きてくれ!」
「今日はまだ夏休みだよー」
「だから、子供かって! ふざけてる場合じゃないんだ!」
「……はあ、どうしました?」
「雷が来るんだ。早く避難しなきゃ!」
ようやく事の重大さを認識したプライデーは、慌てふためいて飛び起きた。
起きると同時にホワイトクリーナーZに気づき、「あわあわあわ」と意味不明の言葉を発しながら逃げようとしたが、両腕がないため、すぐに転んでしまった。
「落ち着け、プライデー! こいつは味方だ!」
「で、でも、ホワイトクローラー」
「違う違う。徘徊する者じゃなく、清掃する者だ。ホワイトクリーナーZというらしい」
「ど、どうして」
「どうして知ってるかって? 荒川さんと連絡がついたんだよ」
「いえ、どうして、Zなんですか?」
「知るかよ! そんなことより、早く逃げなきゃ」
おれは、ホワイトクリーナーZにカラス天狗スーツのヘルメットなどを出してもらった。
ふと思いついて、「もしかして、ロボットの腕を拾ってないか?」と訊いてみた。
「二本ゴザイマシタ」
「それだ! そいつも出してくれ。ああ、そうか、暗くてわからないな。照明はないのか?」
「非常照明ヲ点灯シマス」
目玉の白眼の部分がボワッと光った。ますます不気味だがしかたない。
出してくれたのは、間違いなくプライデーの腕だった。
ただし、一本はゴルゴラ星人の歯形だらけで、もう一本はスプリングが伸び切っていた。スプリングはどうしようもないから外し、プライデーに両腕を接続した。
「どうだ?」
「はい、なんとか動きます」
「よし、じゃあ出発しよう。カラス天狗スーツ、フル装備だ!」
補助ジェットでおれの体がフワッと浮き上がり、長手袋とブーツ、最後にフルフェイスヘルメットが装着した。すぐにあの渋い声が聞こえてきた。
「雷雲が接近しています。一旦、地上に降りた方が安全です」
「そうだな。では、カラス天狗スーツ。プライデー、あ、いや、そこのロボットをピックアップして地上に向かえ!」
すぐに拡張現実表示が出た。
【中古ロボット。本来家事用のものを違法に改造している模様。ただし、専門家によるものではないため、電子頭脳に何箇所も不具合がある】
「これは不良品のようですが?」
直接は聞こえないはずだが、電波を傍受したらしく、プライデーが「誰が不良品だよ!」と言い返した。
「カラス天狗スーツ、不良品でもおれの仲間なんだ。ちゃんと拾ってくれ」
「了解しました」
尚もブツブツ文句を言っているフライデーを抱え上げ、カラス天狗スーツはアゴラから飛び立った。
それを見届けると、ホワイトクリーナーZも巨木から離れて行った。
ちょうど稲光に照らされて、地上まで届く細いコンパスのような足があるのも見えた。
その直後。
ピカッと周囲が真昼のように明るくなったかと思うと、ピッシャアアーンというような音と共に、太い稲妻が先ほどまでおれたちのいた巨木に吸い込まれた。
まさに間一髪だ。
「ふうっ、危なかったな。この先大丈夫か、カラス天狗スーツ?」
「金は極端に電気抵抗が小さいため、ほとんどそちらに落雷します。よって、雷に直撃されなければ、飛行には差し障りありません」
「なるほど。そこら中に避雷針があるみたいなもんだな」
安心したのも束の間、おれの背中にドンとすごい衝撃があり、危うくプライデーを落っことしそうになった。
「わーお、今度は何だ? 何が落ちて来たんだ?」
「雨が降ってきたようです」
「え?」
どういう意味か尋ねる前に、第二弾がドンと来た。すぐに第三弾、第四弾と来た。
ドン、ドン、ドドドドドーッと、耐えきれないほどの圧力がおれの体にのしかかって来た。滝に打たれているみたいだ。
「どんだけ雨粒がでっかいんだよ! もう水平飛行は無理だ! 早く地上に降りよう!」
「了解しました。急降下いたします」
頭から真っ逆さまに落ちて行くような体勢で、カラス天狗スーツは地上目掛けて降りて行く。
「だから、いつも極端だって!」
この勢いだと、地面に激突しかねないぞ。
「カラス天狗スーツ、暗視ビジョンをオンにしろ!」
だが、おれの目に飛び込んで来たのは地面ではなく、森の下に広がる荒れ狂う水面だった。降り始めたばかりなのに、もうこんなに雨水が溜まっている。まるで海だ。
「おい、どうすんだよ!」
「このまま水中に入ります」
「やめろ! おれは、泳げないんだよおおお~っ!」




