30 おれたちに明日はないのかよ
空が曇って星明かりすらなくなり、真っ暗闇となった夜空に薄ぼんやり見えるのは、数メートルの高さに浮かぶ白い球体と、そこから無数に垂れ下がる白い絹糸の束のようなものであった。
この暗さでも見えるのは、多少蛍光色が入った白だからだ。
「おいっ、おいっ、プライデー、起きてくれ!」
おれは横のハンモックで寝ているプライデーを必死で起こそうとしたが、ロボットのくせに熟眠しているらしく、「グオーッ、グオーッ」というイビキが聞こえるばかり。
どうしようかと思ったが、白い化け物はおれにはそれ以上何もして来ず、今度はプライデーに絹糸の束のようなものでサラサラと触れた。おそらく、触手なのだろう。
と、その触手の動きが、ピクンと止まった。
ウイイイーンという機械的な音がして、数メートル上にあった化け物の頭だか本体だかわからない白い球体が降りて来た。大きさはバランスボールぐらいだろうか。
暗くてよくわからないが、さっきの音といい、あまりに完全な球体をしていることといい、人工物としか思えない。少なくともUMAではない。
球体は、プライデーに五十センチぐらいの距離まで近づくと、停止した。
この角度からだと、球体の後ろ側から出ている蛇腹式のホースのようなものが見える。
そのホースはずっと上に伸び、先ほどまで球体があった位置にある、何か巨大な白い柱のようなもののてっぺんに繋がっていた。絹糸の束のような触手も、すべてそこから生えているようだ。
ピッという音がしたため球体に目を戻すと、プライデーに近い部分の中心にポツンと小さな穴が開いた。
すぐにジーッという音と共に、カメラの絞りを開くように穴の周辺が回転し、レンズが現れた。レンズの部分は白くないため、球体が一個の巨大な目玉のように見える。
実際、そういう視覚的な機能のものらしく、プライデーのボディを上から下まで観察しているようだ。
と、ダランとしていた触手が再びプライデーのボディの周りに集まって来て、グルグルと何重にも巻き付いた。巻き終わると、触手ごと引っ張り上げ、プライデーを持ち去ろうとしている。
「おい! やめろ!」
思わず叫んだのだが、巨大な目玉がこっちを見たため、ビビッてしまった。暗闇にでっかい目玉は怖すぎるよ。
が、驚いたことに、目玉はおれの言葉に返事をした。
「了解シマシタ、中野サマ。一旦、廃棄物回収作業ヲ中止シマス」
「え? おれを知ってるのか?」
「声紋ガ登録サレテイマスノデ」
「て、ことは、おまえは荒川さんのロボットなのか?」
「ハイ。ヨロシケレバ、本部ト接続シマショウカ?」
「もちろん、頼むよ。今、困ってるんだ。あ、それから、そいつはゴミじゃないから返してくれ」
「承知シマシタ」
触手がプライデーをハンモックに戻したが、まだ寝ている。どんだけ熟眠なんだよ。
少し間があって、目玉から心配そうな荒川氏の声が聞こえてきた。
「中野くん、無事じゃったか!」
「ええ、なんとか逃げて来ました。シャロンは戻ってますか?」
「ああ。今はもう、巻物の解読作業に取り組んでおるよ。明け方までには何とかなりそうじゃ。それから、きみの投げたカラーボールのおかげで、ドクター三角はスターポールに逮捕された。その上、何故かカラーボールの跡が付いたバグケラスが暴れたため、この機会に、問題行動の多かったゴルゴラ星人たちを惑星外に退去させることになったよ」
「ざまあ見、あ、いえ、それは良かったですね。ところで、この目玉オバケは何なんですか?」
「おお、これかね。これはわしの作った、プラスチックなどの自然に分解しないゴミを回収する、ホワイトクリーナーZというロボットじゃよ。Zに特に意味はないがの。異星人が大勢来るようになって、急にその手のゴミが増えたため、夜間に見廻らせて、回収させておるんじゃ。そういえば、カラス天狗スーツのヘルメット・手袋・ブーツを回収したようじゃから、きみに渡しておこう。今のうちに身に着けておいた方がよいからの」
「ああ、それはありがとうございます。でも、今のうちって、どういう意味ですか?」
「うむ。天候の問題じゃよ。予報より早く天気が崩れるらしい。明け方には雨が降ってくる。その前に完全防備を整えるんじゃ」
「え、嵐でも来るんですか?」
「いやいや、ドラードでは普通の雨じゃよ。じゃが、地球人には極めて危険じゃ。とにかく、量が半端ない。くれぐれも、溺れんよう気をつけてくれたまえ。おお、それから、激しい雷にものう」
その言葉が聞こえたかのように、空からゴロゴロと雷鳴が響いて来た。




