29 だから都市伝説はキライなんだよ
噂話はともかく、現実問題として、ヘルメットがない状態で地上には降りられないから、アゴラもしくはそれに近い場所に着陸するしかない。
「カラス天狗スーツ、近くにアゴラはないか?」
訊いてしまってから、ヘルメットなしじゃ返事ができないことに気づいたが、スーツは少し西寄りに進行方向を変え、徐々に高度を下げた。
正面に夕日が来て、眩しくて見えづらいが、下の方にかなり小規模なアゴラらしきものがあるようだ。
「プライデー、まもなく着陸しそうだ。衝撃に備えろ!」
「お心遣い、ありがとうございます、ボス!」
「その呼び方は……、まあ、もういいか」
言う間もなく、スーツは着陸した。
足元が妙にゴツゴツしていると思ったら、むき出しの金塊がそこらじゅうに転がっている。
まだ土が堆積していない、出来立てホヤホヤのアゴラのようだ。広さは近所の児童公園ほどしかない。
おれはずっと抱えていたプライデーを降ろした。スーツのパワーを使っていたとはいえ、さすがに腕が疲れた。
「ありがとうございます。重かったでしょう?」
「まあな。それより、これからどうするか、だな」
「月のないドラードでは、夜間の移動は危険です。ホワイトクローラーのこともありますし」
「なんだよ、さっきからそればっかり。所詮、よくあるUMA(=未確認動物)の都市伝説みたいなもんだろ」
「いえいえ、多数の目撃情報がありますよ。そもそも、ドラードの動物はほとんど昼行性で、別名マムスターと呼ばれるドラード人たちも、夜はほとんど出歩きません。したがって、ホワイトクローラーを発見したのは、われわれのような外部から来た者たちです。その証言によれば、夜の闇の中を、極めて細長い白い脚を持ったものが、フラフラと彷徨っていた、というのです~」
やっぱり、ちょっと気味が悪いが、プライデーの言い方の問題のような気もする。
「わかったよ。だが、そいつがこの近くにいるとは限らない。それより今は、どうやって夜を過ごすかだ。幸い寒くはないから、火を熾したりする必要はないし、ハンバーガーを一個喰ったから空腹も我慢できるけど、安全を確保して寝なきゃ、体力が持たない」
「そうですね。今朝の予報では、明日の午前中に少し雨が降るようですが、その前に出発すればいいでしょう。でも、わたしは大丈夫ですが、ボス、この地面で眠れますか?」
おれは改めて金塊がゴロゴロ転がっている地面を見た。とても無理だ。ベッドや布団は望むべくもないが、せめてハンモックでもあれば良かったのに。
ん? 待てよ。そうか、まだ近くにいるかな。
おれは胸ポケットから木の笛を出し、小さめに吹いた。
「ピロピロピー、ピロピロピー、ピロピロピー」
少し待ったが、あのオレンジ色のストライプが入った姿が現れた。
「呼び戻してすまないが、チャッピー、頼みがあるんだ。おれが眠れるようなハンモックを作ってくれないか?」
内容が複雑すぎるかと思ったが、チャッピーは外周の幹の出っ張ったところに糸を引っ掛け、何回も往復し、縦長のでっかいクモの巣のようなものを編み上げた。それも二人分だ。
「おまえホントに賢くなったなあ」
頭を撫でてやったが、あまりじゃれつかず、そそくさと帰ってしまった。
「夜が近いからですよ」
プライデーに言われて、なるほどと思ったが、少し淋しい。
だが、月明かりも、街の灯りもないドラードの森では、日没とともに急速に闇が訪れた。
僅かに星は瞬いているが、これでは何もできない。
「よし、じゃあ、体力を温存するため、少し早いけど寝るとするか」
「かしこまりました、ボス。わたしも節電のため、スリープモードにします。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。ふぁーっ、さすがにくたびれてるな。すぐに眠れそうだ」
ロボットのくせにイビキをかいて眠ったプライデーのせいで、すぐにとは行かなかったが、間もなくおれも眠りに落ちた。
それから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
おれの耳元でサラサラ、サラサラと絹が擦れような音がしていた。
それだけでなく、確かにおれの顔に細い絹糸のようなものが当たっている。おれは無意識にその絹糸のようなものを払い除けた。
だが、すぐにまた、サラサラとおれの顔に触れてくる。
「なんだよ、おれは眠てえんだよ」
再び払い除けようとして、ハッと目が醒めた。
闇の中に、何か白くて大きなものの姿が浮かんでいた。
「ひゃあああああ~っ!」




