28 逃げるが勝ちって、ありかよ
尻から糸を引きながらスーッと一匹のオランチュラが降りて来た。胴体にオレンジ色のストライプのような模様がある。口には服のようなものを咥えていた。
「チャッピー? チャッピーなのか?」
おれの言葉が終わらぬうちに、咥えていた服を離して、おれに飛びついて来た。思い切りペロペロ舐めてくる。
「わっ、ひっ、くすぐったいじゃないか。でも、そうかあ、おまえ元気になったんだな。良かったなあ」
おれはチャッピーの頭を撫でてやりながら、持って来てくれた服を見た。カラス天狗スーツのボディ部分だ。
「そうか、ありがとよ。おまえはホントに賢いやつだな」
おれはチャッピーの気持ちが嬉しくて、ちょっとウルッときてしまった。
「あのー、感激の再会は結構ですが、こっちもなんとかしてもらえませんか?」
必死にボルゲを食い止めているプライデーから泣きが入った。
「ああ、そうか。うーん、胴体部分だけでも、動けば飛べるはずだな。ドクターは無力化したと言っていたが、破壊したとは言ってなかったし」
おれはスーツの内側を探り、ボタンのようなものを見つけた。それを押すと、ブーンと音がしてスーツは透明になった。
「これは光学迷彩のスイッチか。これじゃないな」
上の方から「グアーッ!」という咆哮がし、見ると、ボルゲが牙のある大きな口を開き、プライデーの残された一本の腕に噛みついた。
プライデーは、逆に噛まれた腕をボルゲの口に押し込んで侵入を防ぎながら、こちらに向かって叫んだ。
「すみませんが、急いでください!」
「う、うん、わかってる」
一旦、光学迷彩を元に戻し、その奥のあったボタンを押してみた。
「わっ」
いきなりパーツに分解すると、スーツがおれの体に向かって飛んで来て、ピタリと装着した。
「ふーっ、ビックリした。胴体部分だけでもおれの音声は認識するかな。試してみよう。えーと、ウイングを少し開け!」
バサッと背中からウイングが出てきた。
「よし、いいぞ。あ、おれがいいと言うまで、絶対に飛ぶんじゃないぞ」
おれはチャッピーに向かって「おれはプライデーを助けなきゃいけない。おまえ、自分で帰れるか?」と訊いた。
通じるだろうかと思う間もなく、降りて来た糸を伝って、スーッと上がって行った。本当に賢くなったようだ。
だが、感心している場合ではなかった。
プライデーは、ボルゲに完全に腕を飲み込まれ、身動きできないようだ。スプリングが伸び切った方の腕も回収できていない。
「プライデー! 後で荒川さんになんとかしてもらうから、一旦、両腕とも切り離せ!」
「ええっ、そんなあ」
「仕方ねえだろ! 今逃げなきゃ、ボルゲ以外のゴルゴラ星人が戻って来たら、おれたち助からないぞ!」
「わかりました。でも、後でちゃんと腕を付けてくださいよ」
「約束する! いいか、イチ、ニの、サン!」
「はい!」
バチンと音がし、プライデーの両腕が根元から外れ、ゴロンと胴体が転がった。
ボルゲは咥えていたプライデーの腕を吐き出し、「ギャオオオオオオーン!」と遠吠えのように叫んだ。仲間を呼んでいるのだ。
「カラス天狗スーツ! プライデーの胴体をキャッチして、全力飛行せよ!」
補助ジェットが吹き出して前進し、おれはプライデーを抱え上げ、そのまま急上昇した。
「やったぞ!」
「おお、ありがとうございます!」
おれが下を見ると、逃げていたゴルゴラ星人たちがポッドに向かってワラワラと集結していた。
「危機一髪だったな、プライデー!」
「でも、安心するのは、まだ早いと思います」
「え? なんでだよ?」
「高度がどんどん下がっています。すみません、わたしが重すぎるようです」
「大丈夫さ。とりあえずゴルゴラ星人たちから逃れられれば、後は歩いてだって帰れる」
「残念ですが、もう日が暮れます」
「な、なにい!」
おれが西の空を見ると、地球の太陽より大きめの夕日が沈むところだった。
プライデーがポツリと呟くように言った。
「……夜が来ます。恐ろしい夜が」
「脅かすなよ!」
「脅しではありません。ドラードの夜の森を徘徊するという、ホワイトクローラーの噂をご存知ないですか?」
「マジかよおおおーっ!」




