26 ストライク三つなら、アウトだよ
「慌てなくても大丈夫ですよ」
プライデーはやけに落ち着いた声でそう言うと、赤い【エンジン停止】というボタンを押した。
「な、何すんだよ! おれを殺す気か!」
おれは一瞬、プライデーのアシモフ回路がまた壊れて、再び悪の手先に戻ったのかと思い、震え上がった。
だが、プライデーはエンジンが停止したのを確認すると、ポッドの天井からブラ下がっている吊り革のようなものをグイッと引いた。
すぐにシュパパパパッというような音がし、ガクンと落下速度が落ちた。
「非常用パラシュートを開きました。遠くへは行けませんが、とりあえず安全に着陸できると思います。その間に、ちょっと失礼して、充電させていただきますね」
プライデーはボディからプラグを引き出すとポッドのコンセントに差し込んだ。
「うーん、今日も元気だ、電気が美味い」
おれは何か文句を言ってやろうと構えていたが、その様子を見て自分の空腹を思い出してしまった。ええい、おれだって喰ってやる。
シャロンからもらったハンバーガーにかぶりつきながら、ポッドの小さな丸い観測窓から外の様子を窺った。多少風に流されているが、落下速度はかなり緩くなったので、墜落の心配はないだろう。
問題は、どこに着陸するのか、である。
観測窓では真下が見えないため、おれはアンダービューモニターのスイッチを入れた。
風に吹き戻されたせいか、難民キャンプの上空に戻っていた。
しかも……。
「おい、プライデー! 急いで補助ジェットか何か吹かせ! このまんまじゃ、ゴルゴラ星人のキャンプに落ちるぞ!」
「残念ながら、一旦エンジンを停止してしまうと、補助ジェットも使えません」
「なに落ち着いてんだよ! ゴルゴラ星人だぞ! 肉食恐竜だぞ!」
「いえいえ、ゴルゴラ星人といえども、可哀想な難民です。労わってあげるべきです」
どこまでお人好し、いや、おロボット好しになったんだよ。それにメチャメチャ会話力が上がって、饒舌になってるし。アシモフ回路が直ったからって、変わり過ぎだよ。
おれの心配をよそに、脱出ポッドはまさにゴルゴラ星人の難民キャンプのど真ん中に着陸した。
速やかに脱出するためか、ポッドの底が接地するや否や、パカッと天井が割れ、おれたちの姿は外から丸見えになった。
すでに周囲は、何十人というゴルゴラ星人に取り囲まれている。
おれは必死で宇宙語を思い出して、彼らに話しかけた。
『わさしたち、あしやい、もの、ちゃうよ』
緊張のため、普段以上にヒドい宇宙語で、みんな首を傾げている。
「わたしが話しましょう」とプライデーに言われ、正直、ホッとした。
プライデーはすっくと立ち上がり、難民キャンプの中心で叫んだ。
『ええい、皆の者、控えおろう! ここにおわすお方をどなたと心得る。畏れ多くも、ドラード臨時政府特別暫定保安官補佐見習い様なるぞ! 頭が高~いっ!』
おれは急いでプライデーの腕を引っ張って座らせ、声を殺して囁いた。
「な、何言ってんだよ、おまえ。そんなこと言ったらケンカになるだろ。第一、そんなセリフ、どこで覚えたんだよ」
「テレビですよ。ドクターが時代劇を好きだったので。でも、言い方はともかく、わたしの言ったことに間違いはないでしょう?」
「そりゃ、間違いじゃないけどさ」
その時、ゴルゴラ星人側から、プライデーに負けない大音声の宇宙語が聞こえて来た。
『これは大変失礼いたしました。わたくしは、このゴルゴラ星人難民キャンプ村の村長を務めます、ボルゲと申します。今この時に臨時政府の保安官がお見えになるとは、まさに天の助け。どうか、お力をお貸しください』
プライデーがニヤリと笑い、「ね、こういう時は、一発かましてやるのが一番なんですよ」と胸を張った。
「でも、なんか力を貸せとか言ってるぞ。どんな無理難題を頼まれるか、わかったもんじゃないぞ」
「心配いりませんって。わたしに任せてくださいよ」
プライデーは再び立ち上がった。
『殊勝な心掛けである。苦しゅうない、何でも申すが良い』
『ははあーっ、ありがとうございます。実は、わたくしたちは、ちょうど食事の時間だったのですが、大事な食糧を何者かに汚されてしまったのです。是非とも、その犯人を捕まえ、厳しく罰してください』
おれはハッとして、そっと背伸びして覗いてみると、黄色いカラーボールの跡が三つ付いたバグケラスの姿が見えた。
どうして、こっちは三球ともストライクなんだよ!
おれが、ドッとイヤな汗をかいている間に、プライデーは勝手に返事を始めた。
『ああ、それなら心配ない。そのカラーボールは、こちらのドラード臨時政府特別暫定保安官補佐見習いさまが、悪いドクターを捕まえるために投げられたものだ。気にせず、食事を続けるがいい』
その途端、ゴルゴラ星人たちはガウウーというような低い唸り声を出し始め、それが頂点に達したとき、先ほどの村長が吼えた。
『ふざけるんじゃねえ! 汚された食い物を喰らえだと! そんな下衆なことができるかよ! 代わりに、てめえらを喰ってやる!』
もう、どうして、いつもこうなるんだよお。誰か助けてくれよお~。




