25 見る前に飛べって、誰が言ったんだよ
ギョッとして振り返ると、プレミアムフライデーがヨチヨチ歩きでおれたちを追って来ていた。
「どういうことだよ?」
「ワタシ、モウ、悪イコト、シタクナイ。連レテ逃ゲテ、クダサイ」
どうしようかとおれが考える間もなく、シャロンが「だめよ!」と、ピシャリと断った。
「あたしの記憶では脱出ポッドは二台しかないし、どちらも一人乗りよ」おれを見て「まあ、あんたがロボットの身代わりに残るならいいけど」と笑った。
「じょ、冗談じゃない。なんでおれが」
図に乗ってプレミアムフライデーまで、「身代ワリ、オ願イシマスヨー」と言う。
「おまえが畳みかけるな! なんとか回路、ホントに直ってんのか?」
だが、その時、遠くの方から「うーん」と呻くような声が聞こえて来た。
やばい、ドクターが目を醒ましたようだ。
シャロンも気づいたようで、「あたしはもう行くわよ。後は二人で相談してちょうだい」と言い捨てると、サッサと行ってしまった。
「ちょ、ちょ、待てよ!」
すぐにシャロンを追いかけようとしたのだが、おれの片腕はガッチリとプレミアムフライデーに掴まれていた。
「置イテ行カナイデ!」
「恋人かよ! 無理だと言ってるだろ!」
「無理ジャナイ、デス。二人乗レマスヨ」
「ホントかよ。まあ、おれは比較的痩せてるけど、おまえ何キロだ?」
「ヒ、ミ、ツ」
「だから、恋人かって!」
だが、言い争っている場合ではなかった。さっきより近い場所から、「おーい、プレミアムフライデー、どこに行ったー?」という声がした。
「仕方ない、イチかバチかだ。一緒に乗せてやる。その代わり、大人しくしろよ」
「オオ、アリガト、ゴザイマス!」
「うーん、その音声なんとかなんねえのか? 耳がキンキンする」
「オオ、調整イタシマス。アあア、あめンボあかイナ、アイうえお。コんナ、感じで、よろしいですか?」
「ああ、良くなった。それと、プレミアムフライデーじゃあ長いから、これからは略してプライデーと呼ぶことにする。さあ、ドクターが来る前にポッドに乗り込もう。行くぞ」
幸いプライデーが知っていたので、脱出ポッドのある場所はすぐに見つかった。
格納庫には二機分の駐機スペースがあったが、一番と表示されている方はすでに空になっていた。薄情にも、シャロンはもう行ってしまったのだ。
おれたちは隣の二番の方に行き、直径がおれの身長ほどしかない球形の脱出ポッドが残っていることを確認した。思ったよりも小さいが、贅沢は言っていられない。
二人で協力して、ハッチを開いた。
だが、乗り込む寸前に、おれたちの背中側から「そこまでだ!」という声がした。
やべっ。間に合わなかったか。
後ろを見ると、ドクターがパラライザーを構えて立っていた。
「逃げられるとでも思ったか! それに、プレミアムフライデーめ、裏切りおって、許さんぞ!」
プライデーはおれを庇うように、前に立った。
「裏切ったのではありません、ドクター。正常に戻っただけです。それにもうプレミアムフライデーじゃありません。生まれ変わったプライデーです。さあ、これでも喰らえ、でございますよ!」
プライデーが右の拳を突き出すと、その部分が外れて飛び出した。
よく見ると、手首からバネが繋がっている。
拳はドクターの顎にゴツンと当った。ドクターが「ああ、その手があったか!」と叫んで再びノックダウンすると、伸びたバネが縮んで拳は手首に戻った。
「思い知ったか!」とプライデーはガッツポーズを見せた。
「さあ、中野さま、今のうちに行きましょう」
「あ、うん、そうだな」
確かにこちらの味方になってくれたのだが、基本的な性格は変わってない気がするなあ。
まあ、いいか。
本来一人乗りの脱出ポッドには、当然椅子は一つしかない。おれがそこに座り、プライデーは背もたれの後ろに立った。メチャメチャ狭いので、プライデーはおれに覆い被さるような状態になり、顔が真横に来た。
鬱陶しいが、我慢するしかない。
「これで、ホントに飛ぶのか?」
「見る前に飛べ、でございますよ、中野さま」
「どこで覚えたんだよ、そんな言葉。こっちの身にもなってみろ」
まあ、悩んでもしょうがないか。
おれは目を瞑って、排出ボタンを押した。
ブシュッという音と伴に、おれたちの乗った脱出ポッドは空中に飛び出した。
その途端。
真っ赤なランプが点滅し、ポッドの警告音が鳴り響いた。
「重量オーバー! 重量オーバー! 墜落します!」
「やっぱりかよおおおお~っ!」




