23 噓も方便って、誰が言ったんだよ
一瞬、気を失っていたらしい。
気がつくと、円盤内の発着ホールらしきところに宙吊りになっていた。
青白いビームが三方向から来ており、おれの体は、その交点にあった。三叉式牽引光線というやつだ。
「武器は持っておらんようだな」
ビームが逆光になって良く見えないのだが、恐らく、こいつがドクター三角だろう。おれは声のした方に叫んだ。
「もちろんだ! 約束のものも持ってきたぞ!」
「うむ。いいだろう。プレミアムフライデー、ビームを切れ!」
プレミアムフライデーというのは、確か相棒のロボットだ。
「ヤレバイインダロ! ヤッテヤルヨ!」
え? なにこれ? 反抗的なロボット?
ビームが切れ、おれの体はドスンと床の上に落ちた。
「痛てててっ!」
危険回避のための補助ジェット噴射もなく、思い切り腰を打ってしまった。カラス天狗スーツはどうなってるんだ。
おれの疑問が聞こえたかのように、ドクター三角が含み笑いをしながら教えてくれた。
「残念だが、おまえのスーツは一時的に無力化した。光学迷彩など使われてはかなわんからな。だが、念のため、一応脱いでもらおう」
「わかったよ」
おれはスーツを脱ぎながら、周囲の様子を窺った。
おれの落ちた床は半径五メートルぐらいの円形で、周囲の壁より二メートルほど下がっている。床の中心に縦線が端から端まで走っているから、ここが開いて外部からおれの体を引きずり込んだのだろう。周囲の壁には、百二十度の間隔をおいてビーム発射機が三台ある。
壁の上にはぐるりと取り囲むように手すりがあり、ドクター三角らしき人物は手すりに両手を乗せておれを見下ろしていた。
見たところ、荒川氏たちと同年配ぐらいだろう。髪はほとんどなく、ギョロリとした目をしており、唇が分厚い。その唇を皮肉そうに歪めて笑っている。
「今から梯子を降ろしてやる。巻物だけ持って上がって来い。くれぐれも言って置くが、おかしなマネはするなよ。おい、プレミアムフライデー、梯子を降ろせ!」
「ウッセイナ! 今ヤッテルヨ!」
この口の悪さはどういうことだろう。それとも、ワザとなのだろうか。
だが、命令には忠実のようで、すぐにガラガラと音をたてて、強化プラスチック製の梯子が降りて来た。
おれは袋からダミーの巻物を取り出し、見えるように片手で掲げながら、梯子を登った。
おれが梯子の最上段から手すりを乗り越えた時、後ろでゴーッと音がした。
「え?」
驚いて振り返ると、円形の床が縦に割れるのが見え、そこにカラス天狗スーツが吸い込まれて、すぐにまた閉まった。
おれは目の前に立っているドクター三角に怒りをぶつけた。
「おい! どういうことだよ!」
詰め寄ろうとしたが、ドクターが麻痺銃を握っているのを見て止めた。
「そうカッカすることはない。落としただけだ。本当なら焼却したいところだが、生憎、火炎放射器が故障中でね。まあ、そんなことはどうでもいい。約束の品を渡してもらおう」
おれはダミーの巻物を持っている手を、背中の後ろに回した。
「ちょっと待て! シャロンの安全確認が先だ!」
「わかった。プレミアムフライデー、人質を連れて来い!」
「イチイチ、ウルセーンダヨ!」
口の悪さとは裏腹に、プレミアムフライデーの見かけは、ソフビのオモチャロボットがそのまま大きくなったような姿であった。ヨチヨチした歩き方で船室を出て行く。
ドクターは吐き捨てるように、「オンボロめ!」と罵った。
どうしよう。今なら、この老人一人だ。パラライザーさえ、なんとかすれば。
だが、そのパラライザーがグッと突き出された。
「おかしなマネはするなと言ったろう。こう見えても、ぼくは射撃が得意でね。本来なら、ボスの仇であるおまえをタダでは済ませないところだが、今はそれどころじゃないから、見逃してやっているだけだぞ。調子に乗るな!」
ダメか。さすがに隙がない。
そこにプレミアムフライデーが戻って来た。手にヒモのようなものを握っており、その先がシャロンの両手首に掛けられた強化プラスチック製の手錠に結んであった。
「シャロン!」
「おお、伸也。助け、来てくれて、ありがと。わたし、怖かたよ」
なんだ、こいつ。やっぱり、おバカキャラのフリをしてるのか。それなら。
「ドクター三角!」
「なんだね、急に大声を出して」
「か弱い女の子に手錠を掛けるなんて、ヒドイじゃないか!」
「仕方あるまい。人質だからな」
「だったら、替わりにおれを人質にしてくれ!」
ドクターは皮肉な笑いを浮かべた。
「残念だな。彼女と違って、おまえには何の価値もない」
なんだと、とハラワタが煮えくり返る思いをグッと堪えた。
「価値はあるぞ。おれはシャロンの婚約者だ!」
一瞬、シャロンの表情が凍りついた。が、すぐに役柄を呑み込んだようだ。
「おお、ダーリン、いけないわ。そなことしては、ダメよ、ダメダメ!」
ドクターは「ほう」と感心した。
「まあ、それなら、人質はどちらでもいいが。とにかく、彼女が無事なのはわかったろう。さあ、巻物を寄こせ」
仕方ない。後は運を天に任せるしかない。おれはダミーの巻物を差し出した。
ニヤリと笑って受け取ったドクターだったが、ふと、首を傾げた。
「おや? ちょっと違和感があるな。本当に本物だろうな?」
やべ。こりゃ、バレたかも。だが、やるしかない。
「こっちはフィアンセの命が懸かってるんだ。そんなに疑うなら、開けてみればいいじゃないか」
「うむ。それもそうだな」
ドクターが巻物を開けようとした刹那、おれは声を限りに叫んだ。
「シャロン! 自分の目をカバーしろ!」
すぐにおれも目を閉じて、腕でカバーした。
直後、それでもカバーしきれないほどの閃光が炸裂した。
「うおおおーっ、眩しいっ! 騙したなーっ!」
ドクターの叫びに負けぬくらいの大きな声で、プレミアムフライデーが叫び返した。
「ダマサレル、オマエガ悪インジャー!」




