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21 そんなこと、こっちから願い下げだよ

 時間がないため、作戦らしい作戦も与えられぬまま、おれは再びカラス天狗スーツを装着し、一人で指定の場所に行くことになった。しかも、向こうで身体検査をされるだろうということで、元子の盗聴器は置いていけという。

「あのー、てことはですね、何かあった時には、おれはどうやって連絡を取ったらいいんですか?」

「おお、そうじゃった。これを渡すのを忘れておったわい」

 荒川氏は、ホイッスルのような形の木製のふえをおれに渡した。

「え?」

「危ない、と思ったら、これを三回鳴らすんじゃ」

「そ、そんなことで、ここまで聞こえるんですか?」

「何を言っとる。聞こえるわけがなかろう」

 おれはあきれて口を開けたままになったが、そこに森の精霊の声が聞こえてきた。

《心配いらない。われらが聞きつければ、ちゃんと天狗どのに知らせよう》

 荒川氏は片目をつむり、「そういうことじゃ」と笑った。

 とりあえず胸ポケットにしまったが、その笛のが森の精霊に届いたとして、荒川氏たちに伝わるまでおれの命の保証はあるのか、不安はつのるばかりだ。

「おお、待たせたな、中野くん」

 そう言いながら部屋に戻って来たのは、黒田氏である。手に金色の巻物を持っている。

「これを持って行きたまえ。ちょっとには、偽物にせものとはわからんだろう」

 だが、素人のおれが見てさえ、いかにも偽物っぽい。おれの不安はマックスになった。

「……やっぱり、本物はダメですか?」

「もちろん、わがはいとてシャロンのの安全を第一に考えとる。しかし、本物を渡してしまえば、車の両輪がそろってしまう。そうなったときに、向こうがシャロンを返すとは思えん。最悪、偽物とバレても、わば金の卵をむガチョウであるシャロンに危害を加えることはあるまい。必ず、次の交渉で本物を寄こせ、と言ってくるだろう」

 確かにシャロンはそうだろう。でも、おれは?

 おれの心の声が聞こえたように、黒田氏は「心配するな」と笑った。

「その場合には、きみは遠慮なく逃げてくれ。シャロンは自分で自分の身を守るさ。だが、恐らく、偽物とバレる前に解決できるよ。ちょっとした仕掛しかけをほどこしたのでね」

 ということで、おれは仕掛けの説明と、その際にやるべきことをこまかく教えられた。

「……うーん、わかりました。なんとかやってみます。でも、バレた時も、おれは逃げません。なんとかして、シャロンを、あ、いえ、シャロンちゃんを助けますよ」

「おお、ありがとう、ありがとう」

 黒田氏はギュッとおれの手をにぎった。

「さすが、わがはいがシャロンの婿むこに見込んだ青年だ」

「はあ? あのじゃじゃ馬、あ、すみません、シャロンの婿って、どういう意味ですか?」

 黒田氏はペロッと舌を出して、自分の後頭部をたたいた。

「すまん。わがはいが勝手にそう思っただけさ。だが、それをシャロンに言ったら、えらく怒られてな。『冗談じゃないわよ、そんな男』と反発されてしまった。そのせいで、きみにキツく当たったかもしれん。本当にすまん」

 そうなのか。それでわかったぞ、おれにだけ反抗的な態度をとる理由わけが。

 だが、冗談じゃない。こっちこそ、願い下げだ!

 幸い、おれが自分の感情を言葉に出す前に、荒川氏が「これも持って行ってくれんか」と黄色いボールのようなものを差し出した。

「これは?」

「防犯用のカラーボールじゃよ。中野くんの姿を見つけたら、相手はすぐにトラクタービームを使ってつかまえようとするはずじゃ。しかし、遮蔽しゃへいモードのままではトラクタービームを発射できんから、一瞬、円盤型宇宙船が姿を現す。その時をねらって、船体にこれをぶつけるんじゃ。この中に入っておる特殊塗料とりょうは、遮蔽モードになっても消えん。念のため四つ渡しておこう。くれぐれも、フォアボールせんようにな」

「おまかせください。これでも少年野球チームに入ってたんです。まあ、ずっと補欠ほけつでしたけど」

 おれは、例によってニセの巻物はドングリ用の袋に入れて腰に巻き、カラーボールは二個ずつスーツの左右のポケットに突っ込んだ。ちょっと嵩張かさばるが、しかたない。

「それでは、行ってきます」

「うむ。気をつけての」と荒川氏。

「無理はするなよ」と黒田氏。

 おれはカラス天狗スーツに「ゆっくり発射しろ」と命じた。

「了解しました。ステルスモードにしますか?」

「いや、向こうに早めに発見してもらわなきゃならない。通常モードでいい」

「それでは、通常モード、スピードはひかえめで、第九地区の難民キャンプへ向かいます」

「違うよ。ゆっくりは、発射の時だけだ。後は全速力で行け」

「アイアイサー!」

 カラス天狗スーツはフワリと浮き上がると、いきなり全速力で飛び立った。

「だ、か、ら、もう少し、ああ、もう、いい、行けーっ!」

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